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『表札など』感想|女性らしい感性で紡がれた力強い言葉

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第19回H氏賞を受賞した本作。

著者は4歳の時に母と死別し、以後18歳までに3人の義母を持つという数奇な人生を送りました。

また3人の妹と2人の弟を持つも、死別や離別を経験しながら家庭を支え続けました。

こう聞くと暗く重たい印象を持つかもしれませんが、どの作品からも感じ取れるのは、著者の力強く生きるという姿勢。

その胆力と、生活に根付いた温かさが込められた言葉が綴られた詩集です。

著:石垣 りん
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『表札など』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル表札など―石垣りん詩集
著者石垣りん
出版社童話屋
出版日2000年4月1日
ジャンル詩集

「表礼など」は1968年思潮社刊で、当時の著者は48歳でした。

本書は装丁を新たに復刊されたものです。

著者の石垣りんさんは本書での第19回H氏賞の他、第12回田村俊子賞や第4回地球賞を受賞。

教科書に多数の作品が収録されているだけではなく、合唱曲の作詞でも馴染みがあるかもしれません。

銀行員として働いて家庭を支えながら、職場の機関誌などにも作品を発表し続けました。

『表札など』のあらすじ

1冊目の詩集から9年越しに発表された第2詩集。

女性ならではの視点から紡がれる言葉は、日々の生活に寄り添った身近なものです。

その中に独自の視線、発見、揺れ動く感情が描き出されています。

母親としての視点

家事や子育ての中での気付き、感情の動きを切り取った詩も多くあります。

  • シジミ
  • 子供
  • えしやく
  • 家出のすすめ

どれも家庭での暮らしの実感が籠った作品です。

季節感のある表現

料理や畑仕事に馴染みのある人ならではの、自然と寄り添った生活感が表現から感じられます。

  • 季節ごとに咲く花
  • その時期に旬の食べ物
  • 移ろいゆく田畑の情景
  • 月の満ち欠け

俳句にも少し通じるような、素朴な季節感が魅力的です。

戦争経験者としての言葉

大正から平成まで、戦前・戦中・戦後を通して生きた著者。

収録作品の中には、職場新聞に戦没者名簿に寄せて掲載された「弔詞」という作品もあります。

「戦争の記憶が遠ざかるとき、

 戦争がまた

 私たちに近づく。

 そうでなければ良い。

 八月十五日。

 眠っているのは私たち。

 苦しみにさめているのは

 あなたたち。

 行かないで下さい 皆さん、どうかここに居て下さい。」

これはその作品の一部ですが、戦争が忘れ去られることへの危機感と、平和への願いを見事に表現しています。

『表札など』を読んだ感想

当たり前のような日々の中にこそ情緒や風情が宿る。

そんなことを感じさせてくれる詩集です。

表題作の「表札」の中にもあるように、他人の評価に寄らない等身大の自分をしっかりと持つことが大切なのだと感じられます。

身の丈に合った生活の尊さ

  • 子供のためにセーターを編む冬
  • 仕事の昼休憩にBGMを聞きながら食堂で食べる昼食
  • お惣菜屋の売れ残りで食卓を囲む夕餉
  • 花束を冷房の風が当たる天井近くに吊るして作るドライフラワー

何気ない生活の一部に風情を感じ取る感性。

せわしない家事や仕事の合間に感じる癒しの時間。

そういった細やかな気付きがこの詩集のあちこちに込められています。

戦争の残酷さ

命の儚さや戦争の残酷さは様々な場面で語られるものですが、戦前から戦後までを生きた著者の言葉には実感の籠った重たさがあります。

美徳やら義理やら体裁やら

 何やら。

 火だの男だのに追い詰められて。

 とばなければならないからとびこんだ。

 ゆき場のないゆき場。

これは「崖」という詩の一部。

どうしようもない状況に追い詰められて命を絶った女性たちの無念を感じます。

シンプルで深い言葉選び

詩の中では特に難しい言葉は使われていません。

かえって抽象的な表現が多いと感じる方もいるでしょう。

言葉にし過ぎないところもまた美徳。

読み手の想像に任せる余地を残した終わり方が1つの魅力でもあると思います。

『表札など』はどんな人におすすめ?

「表札など」は詩に馴染みがあり、いくつか詩集も手に取ったことがある人の方がすっと入りやすいと感じるかもしれません。

しかし、難しい言葉や表現があるわけではないので、少しでも詩を読んでみたい方には読みやすいのではないでしょうか?

主に次のような方には、この詩集をおすすめしたいです。

  • 普段家事や仕事をしているお母さん
  • 古風な詩を読みたい人
  • 素朴な詩に親しみたい人

教科書で読んだくらいしか詩に触れていなくても、興味があったら読んでみて欲しいと思います。

おわりに|行間までたっぷり使った作品集

短い言葉や単語で区切った改行も多い作風。

また想像の余地や余韻を持たせた結び方も多いと思います。

単純な文字数としては少ないかもしれませんが、間の余白にも情景が広がっているような奥行きが感じられます。

素直で飾らない著者の生活と心情を綴った詩は、どれも純朴で美しい。

日々の暮らしにある何気ない憩いや幸福が実は何よりも尊いのだと気付かせてくれます。

  • 今日という日を無事に終えられること
  • 美味しい旬のものを食べられるということ
  • 生活に花や音楽などの彩りがあること
  • 思いやれる家族や友人がいるということ

当たり前のようでかけがえのない日常。

それこそが非常に大切で、その中にたくさんの発見が詰まっているのだと感じる1冊です。

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