「愛と死」というものは何であるのか、言葉として理解することはとても難しいと思います。
考えたところで、ボンヤリとしか浮かばず、言葉にして説明することはできない。
それが多くの人の共通した認識ではないでしょうか。
そんな「愛と死」というものが、分かりやすく描かれている絵本があります。
絵本で愛と死の物語といえば、佐野洋子先生が描いた「100万回生きたねこ」が有名です。
読んだことがなくても、作品名だけは知っている、という人は多いのではないでしょうか。
「ひだまり」は、その名作をバージョンアップさせたようなクオリティと内容で、読んだときに感動しました。
今回はそんな絵本「ひだまり」について、どのような内容かご紹介します。
イラスト:千晶, 岡田, 著:木林, 林
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『ひだまり』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | ひだまり |
著者 | 林木林/文 岡田千晶/絵 |
出版社 | 光村教育図書 |
出版日 | 2018年11月10日 |
ジャンル | 恋物語 |
「詩のボクシング」全国大会で優勝したことがある絵本作家の林木林先生が文を担当し、ボローニャ国際絵本原画展に入選したことがある岡田千晶先生とタッグを組んだ絵本です。
優しく繊細なタッチで描かれたお話は、とても切ないのに読み終わった後には、ほっこりとした温もりを感じずにはいられません。
『ひだまり』のあらすじ
乱暴者なトラビス(オス)は、街中の猫から恐れられていました。
隣街のみけねこミケーレ(メス)にたまたま出会ったことで、お人好しといえるほどの優しさに触れ、しだいに心を開いていきます。
と
ころが、ある日を境にミケーレを失い、トラビスは元の乱暴者に戻ってしまいました。
そのまま悲しみと失望に囚われたままになるかと思いきや、最後に訪れた温かな光が希望を与えてくれる感動的なストーリーです。
ひだまりが世界の真ん中
乱暴者のトラビスにとっては、1匹の猫が大の字になって寝転がっても少し余るほどの小さなひだまりが、世界の真ん中です。
街の猫から横取りした魚で満腹になり、機嫌よくフラフラと歩いて、隣街までたどり着きます。
それが運命の出会いの始まりでした。
優しさに惹かれ合って過ごす、ひだまりの中
自分の魚を他の猫に優しく別け与える心優しいミケーレを見て、なんだこいつ?と思いながら、差し出された魚を自分で食べろと押し戻します。
「おまえが食べろ」なんて、だれにも言ってもらったことがないミケーレは、なんて優しいの、と感激するのです。
その後、トラビスがお気に入りの小さなひだまりに向かっていると、何故か後ろをついてきたミケーレに、その場所をスルリと取られてしまいます。
それでも怒ることなく、もっと陽が当たる位置を教えてあげたりして、自然とそのひだまりの中で一緒に過ごすようになりました。
1匹では少し余ったひだまりは、2匹で寄り添うにはちょうど良い大きさだったのです。
世界の真ん中が、幸せな場所になったことは疑いようがありません。
失うことで知る大切さ
大切なだれか、がいることで世界が輝いて見えることを知り、愛しいミケーレを失ったらどうしよう、と考えてトラビスは初めての恐怖を感じます。
その恐ろしさに不安を抱くトラビスは、もう乱暴者ではありませんよね。
ひだまりの中で一緒に過ごすことが当たり前になっていた2匹に、唐突に別離が訪れます。
ミケーレが車にはねられてしまうのです。
2匹にとって特別だった、ひだまり
ひだまりのことを「光の毛布」と言っていたミケーレは、車にはねられた後、トラビスの元にやってきて「生まれ変わったら、ひだまりになりたい」と告げます。
きっと愛するトラビスをひだまりになって包んであげたかったのでしょうね。
そんな2匹にとって特別だったひだまりを奪う黒猫が現れます。
あの乱暴者として街中の猫に恐れられていたトラビスが、負けてしまったのです。
大切な場所である「ひだまり」が奪われてしまったトラビスが、その後どうなったかは、ご自分の目で確かめてみてください。
『ひだまり』を読んだ感想
読み終わった後に、素晴らしい物語に感動したことはもちろんですが、名作になるような予感がして、気持ちが高まり、静かに興奮しました。
2匹の猫がとても人間臭くて、言うことや、やることが表現豊かです。
哀しくて切ないのに、こんなに心温まるお話があるのだなぁと思いました。
硬派なイケメン
トラビスって他の猫から魚を奪う乱暴者なんでしょう?と思うかもしれませんが、ミケーレにはぶっきらぼうな優しさを見せます。
本人にその自覚はありませんが、その姿はイケメンといっていいでしょう。
ミケーレを見ていて、トラビスが常に頭に浮かべていた言葉は、「なんだ、こいつ。変なやつ」なんだろうなぁと思います。
他の猫のためばかりに尽くしたり、そうかと思うと、自分のお気に入りのひだまりを奪われたり。悪気なく、「ありがとう!」と言われたときの戸惑いは、わかる気がします。
だれからも礼など言われたことがないトラビスは、自分を怖がることがないミケーレに、惹かれずにはいられなかったのでしょう。
強いからこそ、自分に以外に優しくなれる
ミケーレは「おまえが食べろ」とトラビスに言われただけで、「なんて優しいの!」と感動してしまうほど純粋です。
たったそれだけのことなのに、常に優しさを搾取される側だったのかと思うと、少し可哀想ですよね……。
優しさを別け与えてばかりいたミケーレが、トラビスと出会えて良かった、と思います。
車にはねられた痛みを隠して微笑むミケーレの健気さ優しさと強さに、胸が詰まります。
自分がどうなるかわかっていて、それでも心配させまいと気丈に振る舞っていたのだろううなと思うと、なんともいえない気持ちになります。
最後までミケーレは、自分のためではなく、他者のためを考える存在だったんですね。
ひだまりのような温かさ
お互いにとって、相手が「ひだまり」だったのだろうと思います。
寄り添う2匹の姿を見ていると幸せな気分になります。
ほんわかとした気持ち良さは、寒いときに仄かな温かさを与えてくれる、まさに陽だまりのような温かさで、心の安らぎすら感じます。
そんなひだまりを奪うようなヤツは許せない、と思いました。
でも、その後のトラビスには、深みを増した渋い格好良さがあるのです。
『ひだまり』はどんな人におすすめ?
大切なだれかと出会って、初めて知る愛しさと、別れによって知る悲しみと悼みは、愛と死の物語といっていいでしょう。
言葉では説明しづらい「愛と死」というものを出会いから別れまで描いてあることで、読み終わった頃には、自然と理解できていると思います。
死というものを純愛に絡めて描くことで、よりいっそう深まるストーリーの世界は、子どもだけではなく、大人が読むにもオススメな絵本です。
- 子どもに「死」というものがどういうものか、教えたい親御さん
- ほんわかとした話に癒されたい人
- ちょっぴり切ない感動的なストーリーを読みたい人
読み終わった後は、切ないはずなのに不思議と温かさに胸が満たされていることでしょう。
難しい言葉ではなく、物語を読むことで、愛と死を知ってください。
まとめ
絵本で愛と死の物語といえば、最初に頭に浮かぶのは、「100万回生きたねこ」だと思います。
ひだまりという絵本が、その名作を更新する新たな愛と死の物語だと思うのは、愛する相手を失った者がどうなったのか、その後の物語も描かれているからです。
哀しくて切ないけれど、とても温かな気持ちになるストーリーをぜひとも読んでみてください。
イラスト:千晶, 岡田, 著:木林, 林
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