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『壬生義士伝』感想|家族のために命を投げ打った、誠の武士の生き様に誰もが涙する

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泣く子も黙る新選組。

その新選組の中で、「人斬り貫一」と呼ばれる剣術の腕前を持つ男がいました。

その男の名は吉村貫一郎。

さて、ここまでくると、この吉村貫一郎の戦いの日々のお話かなと思われる方は多いと思います。

しかし、読み進めるうちに、家族のために自分のプライドを投げ捨て、妻にとっての良き夫、子にとっての良き父であらねばと自分を律し、家族のために自分の命さえも捧げる。

そんな、実に人間らしい、現代風の感性を持った主人公に感情移入していってしまうと思います。

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『壬生義士伝』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル壬生義士伝
著者浅田次郎
出版社文藝春秋
出版日2002年9月3日
ジャンル歴史小説

酷いお国訛りに、いつもボロボロの着物を着ている主人公。

そして口から頻繁に出る言葉は「銭こ」。

誰がどう見ても格好悪い、卑しいと馬鹿にされるような人物にしか見えないですが、その実態は、新選組の諸士調役兼観察という幹部。

いわゆる超エリートでした。

新選組は当時では珍しく現金給付の組織だったので、そもそもお金に困るはずはないのです。

それなのに主人公はどうしてこんなに貧しい身なりをしているのでしょうか?

支給されたお金は一体何に使っているのでしょうか?

だんだんと明らかになる吉村貫一郎の置かれている状況とお金に固執する理由。

そのあまりにも切ない結末を知ったとき、思わず涙してしまうことでしょう。

『壬生義士伝』のあらすじ

『壬生義士伝』とはどのような歴史小説なのでしょうか。

時代は幕末の新選組

幕末といえばやはり新選組はあまりにも有名です。

その新選組には「人斬り貫一」と恐れられた武士がいました。

それが本作の主人公、吉村貫一郎です。

この吉村貫一郎が所属する新選組を通して、活躍から賊軍の汚名を着せられて最期を迎えるまでを書いた小説になります。

一武士のサクセスストーリーではない

吉村貫一郎という人物が、新選組に入隊して成功を収めるまでの、いわゆるサクセスストーリーなのかな?と思われる方もいるかもしれませんが、こちらはそういったサクセスストーリーの本ではありません。

明るい雰囲気というよりは、全体的に重たい雰囲気で物語が進んでいきます。

思わず泣いてしまうシーンが随所に盛り込まれている

大切な友人との命を懸けた約束、家族への愛、故郷へ帰りたいという切実な気持ちなどが、新選組の武士という立場を通して徐々に明らかになっていきます。

上巻、下巻に分かれている本作。

吉村貫一郎がどのように生き抜いたか、読み手が感情移入して泣いてしまうぐらい、とても丁寧に心情が書かれています。

『壬生義士伝』を読んだ感想

「燃えよ剣」を読んだことがある方は、壬生義士伝も夢中になること必至!

壬生義士伝でも土方副長は重要な役どころになっていますので、そういった有名な、聞いたことがあるなという登場人物に焦点を向けて読み進めていくのも非常に面白いと思います。

地味すぎる主人公

新選組には、

  • 沖田総司
  • 斎藤一
  • 土方歳三
  • 近藤勇

など、誰もが一度は耳にしたことがある有名な人物が多くいます。

壬生義士伝にもこれらの登場人物が出てきますが、皆同じように志が高く、登場するだけで場が華やかになるような人物です。

しかし、肝心の主人公はそうではありません。

いつもボロボロの着物を着て、お金、お金と言っているので、陰では守銭奴だの言われているような地味すぎる主人公です。

しかも、新選組で人を斬る理由も、志のためや主君のためではなく、お金のためだというからがっかりしてしまいます。

しまいにはお国言葉である南部弁がいかにも芋侍といった風情で、読み手であるこちらの方が恥ずかしいやら情けないやら、そんな気持ちになってしまいました。

当時脱藩は命懸けです。また、脱藩した者は二度と自分の藩には戻ることができませんでした。主人公の吉村貫一郎もまた、この南部藩を捨てて新選組に入隊した一人でした。

それにしてもどうしてこの人は、こんなにお金に固執するのでしょうか?

始めは本当に不思議で仕方がなかったのですが、その理由が故郷の家族を養うためだったとわかった時、スッと心に落ちるものがありました。

自分の着物がボロボロなのは、新しい着物を新調するお金があるなら、娘の着物代にしてやりたい。

お国言葉だって、自分の故郷を誇りに思っているから馬鹿にされても気にならない。

本当の吉村貫一郎は、思慮深く知性に溢れ、家族思いの立派な人物でした。

それを周りにあえて言わない、生きるのが下手なこの主人公にいつの間にかすっかり感情移入してしまっていました。

友人を取るか、藩を取るかの二択を迫られた男の苦悩

主人公の吉村貫一郎には、上司にあたるけれど竹馬の友だった大野という友人がいます。今でいう親友という感じでしょうか。

新選組は最終的に賊軍の汚名を着せられて、残党狩りに合います。

そんな中で、吉村貫一郎は中立の立場を保っている自分の藩の蔵屋敷に潜り込み、助けを求めてしまうのです。

そして幸か不幸かその蔵屋敷の責任者は、自分の親友である大野でした。

ただの親友同士という立場なら喜んで匿ってやりたいけれど、藩の責任者という重圧がそれをすることを許しません。

それでも吉村貫一郎は彼なら助けてくれるかも?と淡い期待を寄せましたが、結局大野は心を鬼にして、吉村貫一郎にここで切腹しろ、と言い放ちます。

親友一人助けることと、藩の人間全員を天秤にはかけられなかったのですね。

当時斬首刑は恥ずかしいこと、武士として耐えられない苦痛だったそうです。

次郎衛様はそう言って、かたわらの御腰物を、吉村さんの目の前に置いたんです。

それは金梨子地の立派な拵えに葡萄色の柄巻を施した、大野家伝来の名刀でござんした。

「ええな、貫一。こんたなときに及んで、ぐずめくのァ、士道に背くことじゃぞ。くれぐれも不調法せずに、さぱっと腹切って死ね。ええな 。

出典:『壬生義士伝』244,245ページ

軍に突き出せば斬首になってしまうから、せめてここで切腹しなさいという大野の精一杯の優しさが、読んでいてとても辛かったです。

主人公の壮絶な最期

大野に切腹しろと言われ、大野の持っている立派な刀と切腹用の部屋を提供された吉村貫一郎。

もうどうやっても切腹するしか方法が無いとわかっていても、なかなか諦めきれずに回想を始めます。

よく考えれば、新選組の屯所に逃げ込めば助かったかもしれないのに、なぜ南部藩の蔵屋敷に逃げ込んでしまったのか。

それは大野も指摘しています。

その理由として懐かしい故郷を思い出して思わず逃げ込んでしまったというのが、何とも人間らしくリアルに感じられました。

吉村貫一郎の最期は目を覆いたくなるような凄惨な描写になっていますが、彼にとって守るべきものは、志でも自分の誇りでもなく、愛すべき家族だったという最期には、本当に涙なくしては読み進められませんでした。

『壬生義士伝』はどんな人におすすめ?

歴史小説が好き、新選組が好きという人にはもちろんおすすめですが、そういった方以外にもぜひ読んでもらいたい一冊です。

  • 涙活したい
  • 感動する話が読みたい
  • 普段頑張りすぎている人

最近泣いてないな………という人に特におすすめしたいです。

また、小さな子供が身近にいる人、家族のように大切にしている親友がいる人は、きっと感情移入して読み入ってしまうはず。

そして吉村貫一郎という男の生き様に、思わず「そんなに頑張らなくてもいいんだよ」

と、声をかけたくなってしまうことでしょう。

おわりに

歴史小説と聞くと少し抵抗がある人もいるかもしれませんが、こちらの作品はまるで映画やドラマを観ているかのように読み進めることが出来ると思います。

実際にドラマ化、映画化もされていますので、まずそちらを観てから原作本を読んでみるというのもオススメです!

ぜひ本を通して幕末の動乱の時代にタイムスリップしてみてください。

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