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『木暮荘物語』感想|木暮荘に吹く春風が、過去を心地良いものにしてくれる

第168回 芥川賞・直木賞 決定!

第168回 芥川賞・直木賞』が

2023年1月19日に発表されました。

受賞作はこちらの4作品です。

受賞作著者
芥川賞
この世の喜びよ
井戸川射子
芥川賞
荒地の家族
佐藤厚志
直木賞
しろがねの葉
千早茜
直木賞
地図と拳
小川哲

春といえば、なにかを始めるにはうってつけの季節ですね。

入学や入社といった大きなもの以外にも、新しい趣味や人間関係などの些細なものまで。

なにか新しいことを始めたくなるのはきっとみんな同じはずです。

春の息吹が運んでくる陽気が私たちをそうさせるのでしょうか。

新たな一歩を踏み出したい、そんな春に読みたいのはやはり背中を押してくれる作品だと思います。

恋人を待っていた人、昔負った心の傷が残ったままの人、人生を見直すきっかけを得た人……。

木暮荘に住む住民はみんな、囚われていたものから卒業して新たな道を歩み始めるのでした。

タップできるもくじ

『木暮荘物語』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル木暮荘物語
著者三浦しをん
出版社祥伝社
出版日2014年10月10日
ジャンル春にぴったりな連作短編

三浦しをんが書く本作品は、古い木造アパートを舞台とした連作短編集です。

約280ページに7編が収録されています。

1編ずつ完結するうえにそれぞれが暇な時間に読めるくらいの短さなので、気負わず気軽に手を出せる作品でした。

『木暮荘物語』のあらすじ

詳しい築年数はわからないけれど、とても古い外観。

季節の草木が心地よさそうに生い茂る庭。

6畳の和室にとってつけたようなシャワールームがあるだけの簡素な部屋。

それが木暮荘というアパートです。

おじいさんの大家からイマドキの女子大生まで、木暮荘にはいろんな人が住んでいます。

みんなそれぞれ悩みやトラウマを抱えて生きていました。

他人に話すことはなく、けれどひとりきりで抱えるには少し大きなものばかり。

潔く手離すのか過去として持ち続けるのか、それともともに生きていくのかを選ばなければなりませんでした。

木暮荘の住民

防犯対策もあったものではないような古ぼけた木造のアパートに住むのは、大家のようなおじいさんばかりではありません。

たとえば2階の端に住む繭は花屋で働く、礼儀正しい若い女性です。

伊藤という男性と交際しており、たまに部屋に招く姿がみられるものの、基本静かに暮らしていました。

2階の部屋にはほかに、2年前就職を契機に越してきた神崎という男性もいます。

部屋に入ってしばらくしてから、彼には妙な趣味ができてしまいます。

そして神崎の部屋の斜め下にはイマドキ女子大生の光子が住んでいました。

光子はとある理由から家族とは微妙な関係になってしまい、お互いのためにも距離を置いた方がいいだろうと家を出たのでした。

木暮荘を軸に交差する想い

繭には3年前に交際していた別の男性がいます。

並木という男性で、彼はカメラひとつを持って突然繭の前からいなくなってしまいました。

1編目ではそんな並木が繭のもとへ帰ってきます。

すでに伊藤と交際している繭は並木を邪険に扱いながらも、心の片隅では安心している様子で……。

そのころ繭が働く『フラワーショップさえき』では夫婦間でひと悶着起きそうな予感がありました。

旦那は花屋の奥で『喫茶さえき』を、妻は『フラワーショップさえき』を切り盛りしていましたが、ある日から旦那が淹れるコーヒーから泥の味しかしなくなったのです。

そしてなにより、深夜に黙って家を抜け出すその行動が、妻には不審でなりませんでした。

一方、繭に執着しながらもふらふらと町をぶらつく並木は、繭という共通点を持った虹子(にじこ)という女性と出会います。

虹子は不思議な女性で、低層マンションの広い部屋にひとりで住んでいます。

仕事している様子もなく、ただ起きて食事をしてテレビを見て寝るといった非常に淡泊な生活を送っていました。

虹子は並木を部屋に住まわせますが、並木は求められている見返りがなんなのかわからずにいました。

柱の実り

3編目の『柱の実り』は美禰(みね)という若い女性が、いつも使う駅のホームの柱に奇妙な突起を見つけたところから始まります。

トリマーとして働く美禰は、日々大きくなっていく突起を認識できる限られた人間でした。

というのもその突起がどんなに大きく育っても、美禰以外の人物が気づく様子がないのです。

しかしそんなある日、突起を認識できるもうひとりの人物が現れました。

スーツに身を包んだ、明らかに堅気の人間ではない前田という男性です。

前田が飼うプードルのトリミングをしたりと、次第にふたりの距離は近づいていきます。

美禰が前田を部屋に招くまで、そう時間はかかりませんでした。

ふたりきりの部屋で、美禰は前田に、とあるトラウマや過去の後悔を告白します。

『木暮荘物語』を読んだ感想

人がみんな抱える小さかったり少しだけ大きかったりする悩みやトラウマ。

そんな重たいものを、あたたかく心地良く絆してくれる……。

本作の登場人物も読者も等しく救ってくれる、そんな物語です。

あらゆる〈繋がり〉

登場人物たちはみんな、木暮荘という繋がりを持っています。

しかしそのなかでも、並木と虹子のように繭を繋がりにしていたり、『柱の実り』のように柱の突起を繋がりにしていたりと、なにかと〈繋がり〉が登場していました。

繋がりがあるから救われることは実際に多くあるはずです。

木暮荘という古いアパートはそのことを改めて教えてくれます。

一貫したテーマ〈性〉

おじいさんの大家が主人公となる2編目の『心身』から、私たちは〈性〉がテーマであることを知らされます。

1編目にも兆しはありましたが、はっきりと〈性〉に関する言葉が登場したのは2編目からでした。

『心身』では大家が性行為をしたいと切実に願います。

きっかけとなったのは病室で友人が「妻に行為を断られた」と言いながら死んでいく姿を目にしたからでした。

堰を切ったかのように、そこから3編目も4編目も5編目も、〈性〉というテーマのもと話が進みます。

そこにいやらしさは一切なく、人間としてぬくもりを求める切実さだけがあるのでした。

実在するかも?

東京の静かな住宅地にひっそりと佇む古い木造のアパート。

そこで暮らす、いろいろな事情を抱えた住民。

お洒落さも防犯対策もない、いまにも朽ちそうなそのアパートでは慌ただしくもゆっくりと時間が過ぎていきます。

あなたが道を歩いているときにふと見つけたアパートが、もしかしたら木暮荘かもしれません。

『木暮荘物語』はどんな人におすすめ?

わかりやすい成長物語ではないですし、主人公が毎回変わる連作短編です。

けれどそこには確かに、自分の殻をやぶり新たな道を歩もうとする強い人たちがいます。

一歩を踏み出す勇気をくれたり、過去は捨てるばかりではないということを教えてくれることでしょう。

この春におすすめしたいと思うのは、

  • 新しいことを始めようと思っている人
  • 背中を押して欲しい人
  • 気軽にあたたかい物語が読みたい人

などなどです。

おわりに|冬が去って春がきて、木暮荘にはあたたかい風が舞い込みます

過去になったのだとわかった。

断ち切るのではなく、穏やかにいまと未来へつながる過去に。

最後の編で朗らかにそう語るのはいったいだれだったか、確かめるためにも読んで貰いたいです。

この一文にたどり着くころにはきっと本作の良さがしっかりとわかっているはずです。

囚われていた重たいものから放たれて、羽が生えたように自由になった木暮荘の住民たち。

次に飛び込むのはどんな場所なのでしょうか。

彼ら彼女らの未来を祝福したいですね。

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