生きていて、何もかもが嫌になったことはありませんか。
- もう全て投げ出してしまいたいような気分になったり
- 自分が生きていてもしょうがないんじゃないかと思えてきたり
- 何もかもが上手くいかないような気がしてきたり
そういう気持ちになったことがある人にこそ、この本はおすすめです。
死刑制度を題材にしていると言われると少し身構えてしまう部分があるかもしれませんが、この小説は専門的な知識も、難しい言葉も知らなくて大丈夫。
きっと読んだ人の心に、確かな希望の光を灯してくれるでしょう。
少なくとも、孤独や虚しさで心が折れそうになっているときに、
そっと背中を押して「もう少し生きてみよう」と思わせてくれる本だと思います。
集英社
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『何もかも憂鬱な夜に』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 何もかも憂鬱な夜に |
著者 | 中村文則 |
出版社 | 集英社文庫 |
出版日 | 2012年2月17日 |
ジャンル | 純文学 |
施設で育ち、刑務官をしている「僕」を中心として、
- 死刑を迫られている若い囚人
- 過去に自殺した親しかった友人
- 芸術と出会わせてくれた大切な恩師
様々な人物とのやりとりを通して、生と死、命そのものと向き合っていきます。
芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、そして命と向き合って書き上げた長編小説です。
『何もかも憂鬱な夜に』のあらすじ
施設で育った「僕」は刑務官として働き、山井という若い囚人を担当しています。
山井は18歳の時に夫婦を刺殺した罪に問われていました。
しかし、まるで死刑を受け入れているかのようです。
いまだに語らないことを抱えたまま、控訴期限を迎えようとしていました。
そんな山井に「僕」はどこか自分に似たものを感じながら接していきます。
死刑制度の現実
日本では18歳に満たない人間は死刑にできません。
事件当時18歳と半年を過ぎていた山井には、死刑の適用が可能でした。
そのため、遺族やマスコミも死刑を求刑しています。
山井は「僕」とのとある会話の後、刑務所内で自殺未遂をします。
それでもなぜか「僕」を担当から外さないで欲しいと願い出るのでした。
それを聞いた上司は、「僕」が勤めて長いことも踏まえて、実際に死刑の現場に立ち会った時の話を聞かせます。
それは壮絶で、生々しく、恐ろしい体験談。
それでも上司は死刑制度自体には反対ではないと言うのです。
とはいえ、全面的に賛成という訳でもありませんでした。
- 死刑宣告の基準が曖昧であること
- 国際的には死刑を廃止する傾向にあること
- 被害者遺族の思い
上司は様々なことを背負う現場の葛藤を吐露します。
話を聞く「僕」だけではなく、読者もまた一緒に考えさせられる場面です。
自殺した友人
「僕」は幼馴染で元恋人の恵子と共に、自殺した真下という友人の十三回忌に訪れます。
真下と「僕」は中学生からの友人で、高校生になってからは何でも話すような仲でした。
- 思春期について
- よく見る夢について
- 運命について
- 親について
- 犯罪について
本当に色々なことを率直に話し合っていました。
時は流れ、恵子と「僕」が付き合うようになり、真下とは徐々に疎遠になっていきます。
そんな頃、真下は川で入水自殺をしてしまいました。
遺体が発見された翌日、「僕」のもとに真下の思いや考えが書き殴られたノートが届きます。
どうしてそのノートが「僕」に届けられたのか。
答えはわからないまま「僕」の中の混沌とした感情も描かれていきます。
今、確かにここにいるということ
孤児院で「僕」を育ててくれた恩師は、「僕」に色んなことを教えてくれました。
「僕」が自殺を考えたときもそれを止めて怒り、それから静かに諭します。
今ここに自分が存在することは、奇跡のような確率なのだと。
まず地球に生命体が生まれて、それが途方もない年月を経て今日まで繋がっている。
その連続が途切れることなく現在まで必要なのです。
そしてこの連続は、今の自分が存在するためだけにあったのだと言います。
そして世の中には、数え切れないほどの素晴らしいものがあります。
様々な芸術作品たちです。
そうした自分以外の人間が考えて作り出したものを味わうこと。
それから自分自身でも考えることが大切なのだと伝えます。
今ここにいるという事実も、世の中の綺麗なものを味わう権利も、全ての命に平等に与えられているのだと語るのです。
恩師の言動に感銘を受け、憧れを抱いた「僕」はやがて山井にも同じように語り掛けていくのでした。
『何もかも憂鬱な夜に』を読んだ感想
この物語には恵まれない出生や家庭環境を持った人物、苦しい生活や仕事をして過ごしている人々が多く登場します。
作品の中で陰鬱な空気を感じたり、深刻な問題の前で思わず唸りたくなる場面もあるかもしれません。
しかし、そのどこか1か所にでも共感できる部分があるのであれば、最後まで読み通したときに救われるものを感じられるはずです。
この世にはたくさんの美しいものがある
何かに悩んだり、気分が塞いだりしてしまったときに、芸術作品に救われることは誰にでもあるのではないでしょうか。
芸術といっても、クラシックや美術品といった高尚そうなものでなくてもいいのです。
例えば身近にある音楽や映画、小説、漫画、ドラマなどでもかまいません。
誰かが考え、作ったものに触れたとき、心が動くことがあると思います。
そうして自分が1人きりではないということ、様々な人が色々なことを考えて、同じように悩んだり苦しんだりしながらも生きているのだということを実感できます。
この本は、改めてその繋がりの大切さを気付かせてくれる1冊です。
一緒に生きようと背中を押してもらえる
たとえ犯罪を犯した人であっても、その生まれてきた命そのものには罪はない。
命はそこに今存在しているだけで奇跡であり、尊いのだと、この本では力強く肯定してくれます。
どうしても夜を乗り越えるのがつらいと感じるとき、寄り添ってくれる言葉がこの本の中にはいくつもあります。
1度読むだけでも励まして貰える本ではあります。
しかし、できれば手元に置いて何度も読み返し、綴られた言葉を噛み締めて欲しいです。
『何もかも憂鬱な夜に』はどんな人におすすめ?
「何もかも憂鬱な夜に」は万人受けするような本ではないかもしれません。
でも次のような人にこそ、ぜひとも読んで頂きたいなと思います。
- 思春期で多くの悩みを抱えている人
- 人生に悩んだり、自分自身を好きになれないでいる人
- 消えてしまいたくなったり、何もかもが嫌になったことがある人
この本をテーマの重さや暗さから敬遠して読まないでいるのはもったいない。
中村文則さんの文章は平易な言葉を巧みに扱い、陳腐にならない深みのある表現が上手な作家さんです。
少しでも興味を持って頂けたなら、ぜひお手に取ってみてください。
おわりに
作者の中村文則さんは、これまでにも
などで様々な作品賞を取り、犯罪心理に迫りながら巧みな文章表現をしてきた作家さんです。
「何もかも憂鬱な夜に」はそのタイトルの通り、憂鬱な夜に読んで頂いてもいいですし、
今までに憂鬱な夜があった方にも読んで頂きたい1冊です。
自分なんてだとか、もうダメだとか思ったときにこそ、
それでも生きていていいんだよと、強く背中を押してくれるはずです。
- こんなことを考えているのは自分だけかもしれない
- こんなふうに思うのは自分だけなんじゃないか
そんな後ろ暗い記憶や経験がある方にこそ、読んでみて欲しいと思います。
この本が誰かにとって特別な1冊になることを祈っています。
集英社
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