あなたには、失いたくない大切な人はいますかーーーー。
この物語が描き出すのは、大切な恋人/友人を失った主人公たちの姿です。
「あの日」から時間が止まったまま前に進めなくなっている彼らを、みずみずしく、それでいて力強く描く作品です。
重いテーマでありながらもすっきりした読後感は、悲しみに満ちた日々に一歩踏み出す力を与えてくれます。
著:紡, 橋本
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『流れ星が消えないうちに』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 流れ星が消えないうちに |
著者 | 橋本紡 |
出版社 | 新潮社 |
出版日 | 2008年6月30日 |
ジャンル | 恋愛小説 |
作者・橋本紡さんの作品のなかでも最も有名な1冊。
発行部数30万部超えのヒット作品となり、2015年に映画化されたことでも話題になりました。
ライトノベルを得意とする作者らしい、自然体な若者の描写が魅力のひとつです。
幻想的な装丁にも惹かれます。
『流れ星が消えないうちに』のあらすじ
高校で出会った「加地君」と「巧」、そして「奈緒子」が織りなす物語です。
章ごとに視点が変わり、物語が立体的に描き出されていくのが特徴です。
恋人との別れ
物語のスタートは、奈緒子の家の玄関から始まります。
父親が転勤することになり、ひとり東京に残った奈緒子は、元々家族で住んでいた一軒家に暮らしています。
彼女はその一軒家の玄関で、もう1年以上前から寝ているのでした。
その主たる原因は、恋人・加地君の突然の死。
彼とともに過ごしたベッドの上では眠ることができず、笑うこともできず、奈緒子は毎日玄関で朝を迎えるのでした。
友との別れ
奈緒子と同じように悲しみのなかにいるのが、加地君の友人だった巧です。
高校の文化祭の準備で深夜に学校へ忍び込んだときに鉢合わせし、ふたりは意気投合。
科学部の加地君が作っていた「流星マシン」が、巧の協力で完成します。
全く異なる性格のふたりが、運命のめぐり合わせで友情を育んでいきました。
巧が想いを寄せていた奈緒子を、ひとり残して死んでしまった加地君。
亡き友人を思って夜空を見上げると、やりきれない気持ちになってしまうのでした。
痛みを抱えながら
ともに大切な人を失った奈緒子と巧は、いつの間にか付き合い始めます。
お互いに、加地君の名前は出さず、ただ、日々を重ねていくだけ。
それはお互いの化膿した傷口が見えていながら、処置もせず、言葉にもせずに見過ごすような毎日でした。
巧と付き合いながらも、加地君が遺していった思い出や言葉が否応なしに蘇り、忘れたくても忘れることができない奈緒子。
そんな奈緒子の姿を間近で見ている巧。
大切なものを失いながらも、前に進まなければならない。
ふたりの人生はどんな方向に進んでいくことになるのでしょうか。
『流れ星が消えないうちに』を読んだ感想
物語全体をとおして、恋人/友人の死という重いテーマが描かれていますが、読後感はすっきりとしています。
失ってから見えてくる様々な思い出や言葉が、遺された人々を前に進めてくれることを物語っているからかもしれません。
ふたりの視点から描く
小説としては比較的珍しく、奈緒子と巧のふたりの視点から立体的に物語が描かれる点が魅力です。
特に奈緒子と加地君の恋の成就を後押しした巧の立ち回りは、思わず笑みがこぼれてしまうことでしょう。
また、「いま」と「あの頃(高校時代)」を交互に描いていくことで、ふたりの独白を聞きながら想像を膨らませていくような体感を得られました。
物語のキーパーソンとなる加地視点の描写はなく、セリフからしか探ることができないというのも、亡くなった人物の存在感を逆説的に描き出していて、リアリティーがあります。
前に進むふたり
物語の結末に向かって、ふたりはもがき苦しみながらも前へと歩みを進めていきます。
何か劇的な転機が訪れるわけではありません。
ただ積み重ねる毎日のなかで、小さな幸せや誰かの存在に助けられながら、自分なりに過去と向き合っていくのです。
自分が失ってしまったもの・ひと、これから失うかもしれない何かを思って胸が苦しくなりますが、同時に、心に小さな灯火が灯るような感覚になりました。
加地君の存在
回想のシーンでのみ登場する加地君は、ふたりに様々な言葉を遺していきました。
次のような印象的なセリフがあります。
「俺たちが思ってるより脆いものなんじゃないかな、未来って。だから、俺はもう考えるのをやめて……まあ、全部はやめられないだろうけど、それでもやれることをやろうと思ってるんだ。考えすぎて立ち止まるのは、いい加減にしとこうってさ。動きことによって見えてくるものがあるはずなんだ。」
科学部の加地君が、恐竜の絶滅を引き合いに出して巧と交わした言葉。
明日が来る保障はどこにもない、だから立ち止まっている場合じゃないと、内向的な性格の彼が思いを打ち明ける場面です。
物語の一節でありながら、強力な存在感を放つ言葉でした。
『流れ星が消えないうちに』はどんな人におすすめ?
この作品はこんな方におすすめです。
- 心の深いところに響く小説が読みたい人
- 爽やかすぎない恋愛小説が読みたい人
- 悲しみや心の痛みと向き合っている人
満面の笑みで結ばれるラストではないものの、小説としての完成度はさすがの一言。
心に染み入る少し重めの物語を探している方におすすめです。
おわりに|痛みを抱えながら前へ進む瞬間を描く物語
題名にもなっている「流れ星」のように、亡くなったひとは「星になる」という表現をされ、歳を重ねることはありません。
「いま」と「あの頃」の思い出がどんどん離れていくことは、寂しいことでもありますが、傷が癒える時間の積み重ねでもあります。
男女の恋愛小説でありながら、それよりももっと深い、「失った悲しみから歩き出す瞬間」を描く物語。
ぜひ手に取ってみてください。
著:紡, 橋本
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