誰かの才能を疎ましく感じたり、妬んだりした経験はありますか。
この物語の主人公は、音楽を志す高校生たち。
好きなことを生業にすることの厳しさや、他人の才能と比較してしまうことへの苦悩などを丁寧に描いています。
難聴と闘ったベートーヴェンの旋律を織り交ぜながら、テンポ良く読み進められるミステリーをご紹介します。
著:中山七里
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『どこかでベートーヴェン』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | どこかでベートーヴェン |
著者 | 中山七里 |
出版社 | 宝島社 |
出版日 | 2017年5月23日 |
ジャンル | 音楽ミステリー |
文学界を代表するミステリー作家、中山七里さんの音楽ミステリーシリーズ。
デビュー作でありながら「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した、『さよならドビュッシー』以降5作目の音楽ミステリーです。
『どこかでベートーヴェン』のあらすじ
音楽ミステリーシリーズで、刑事顔負けの推理を披露するピアニスト・岬洋介。
この作品では、これまで謎に包まれていた岬の過去が描かれています。
物語の始まり
主人公の鷹村亮は、テレビで高校時代の友人について偶然耳にします。
国際ピアノコンクールであるショパンコンクールでの演奏が、とても素晴らしかったこと。
それによって命を救われた人がいたこと(事の真相は前作の『いつまでもショパン』で描かれています)。
その人物こそが「岬洋介」、鷹村のクラスメートだった人物です。
岬が【最初の事件】を解決した、高校時代のことを回顧していきます。
奇才・岬洋介の転入
岐阜県立加茂北高校には、音楽科があります。
ここに集まる生徒たちは、熱量の差はあれどみんな音楽を生業にしていきたいという思いを持っていました。
そこに転入してきた、岬洋介。
容姿の端麗さや、普通科の科目も難なくこなしてしまう学力から、転入初日にも関わらず注目の的になります。
岬が本領を発揮したのは音楽演習の授業。
初めてクラスメートの前でピアノを披露した瞬間、その場にいた全員が釘付けになりました。
高校生とは思えない美しいベートーヴェンの旋律に、自分との実力差を見せつけられたクレスメートたち。
岬への嫉妬心から、次第に軋轢が生じていきます。
岬が容疑者に!
夏休みの登校日。
山林を切り崩して作った校舎は、数日前から降り続いた雨で地盤が緩んでいました。
時間が経つごとに雨の降り方は強まり、轟音とともに電気が止まってしまいます。
土砂崩れの危険性を察知した岬は、助けを呼ぶために鷹村の協力で学校を脱出するのでした。
鷹村が岬の安否を気にして待っていると、岬が殺人事件の参考人として警察から事情聴取を受けているという報せが入ります。
クラスメートのひとり、岩倉が他殺体で発見されたことで、物語は急展開を迎えていきます。
『どこかでベートーヴェン』を読んだ感想
息もつかせぬテンポの良い展開と、高校生という多感な年頃の人間ドラマが丁寧に描かれているところに惹かれました。
また、書きおろしの「コンチェルト~協奏曲~」という短編では、同じ時系列での岬親子の物語も描かれていて、違った角度から本編を楽しめます。
人間ドラマ
ミステリーの肝である、トリックや容疑者が誰かという点に終始しないところが、中山作品の魅力のひとつです。
物語の主人公となる音楽科の高校生たちは、それぞれが将来について希望や不安を抱えています。
これまでは素直に夢を見られた自分が、現実に直面したり大人からの言葉を耳にしたりすることで、いつしか自信を失くしてしまう。
そんな高校生特有のドラマがメインテーマです。
他人の才能が羨ましく、時に嫉妬までしてしまう人間らしさを、泥臭く描いています。
災害を題材にするということ
中山さんの音楽ミステリーは、シリーズのほとんどで災害の場面が描かれています。
この作品では、近年よく目にするようになった豪雨災害の描写がベースです。
差し迫った災害への、人々の緊迫した表情が生々しく伝わってきました。
「観測史上初」「千年に一度」といった表現が、災害に対する責任感のなさを表していると岬が痛烈に批判するシーンは、読んでいて胸が痛みます。
目をそむけたくなるような描写も多いですが、同時に、強いメッセージ性を持って訴えかけてくるところも、この音楽シリーズ全体を通しての魅力です。
ミステリーとしても秀逸
他殺体として発見されたクラスメート・岩倉。
容疑をかけられた岬は、本当の犯人は誰なのかを追及していきます。
周囲には遺留品もなく目撃者もいません。
一体誰に殺害されたのか?
難しすぎず、終始程良い情報量でテンポ良く読み進めることができます。
音楽描写の素晴らしさもさることながら、ミステリーとしても十分に楽しめる作品です。
『どこかでベートーヴェン』はどんな人におすすめ?
この作品は、特にこんな方におすすめです。
- 音楽が好きな人
- すっきりまとまったミステリーが好きな人
- シリーズものが好きな人
音楽が好きな人、特にピアノの経験がある人は音楽描写の緻密さも楽しめるのではないでしょうか。
おわりに|誰もが経験する青春の葛藤
冒頭からぐっと世界観に引き込まれ、時間を忘れてページをめくるという読書体験が楽しい作品でした。
夢や好きなことを追い求めるには、行く手を阻むものや、自分が嫌いになってしまうような妬みもあります。
しかし同時に、その時にしかない印象的な体験・尊敬できる人物との出会いによって、自分らしさを得られる時期ではないでしょうか。
高校時代を回顧するような、どこか懐かしさも感じながら読み進めました。
締めくくりで、なるほど!と唸ってしまう小さな仕掛けがあるので、そちらも注目してほしいです。
他の作品と合わせて、ぜひシリーズで楽しんでみてください。
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