第155回芥川賞を受賞した『コンビニ人間』は、2016年7月末に単行本として刊行されてから、爆発的な売り上げをみせた大ヒット小説であり、多くの読者に衝撃を与えた作品です。
物語の舞台は、今や私たちの生活に必要不可欠となったコンビニエンスストアです。
現代において、もはや生活の風景の一部となりつつあるコンビニ店員にスポットを当てたことが、多くの読書の興味を引き付けたひとつの要因になっている本作ですが、実は社会で生きる私たち人間についてたくさんの気付きを与えてくれる一冊でもあります。
今回は大ヒット小説『コンビニ人間』が教えてくれる“人間観”についてご紹介していきます。
著:村田 沙耶香
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コンビニ人間の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | コンビニ人間 |
著者 | 村田沙耶香 |
出版社 | 文藝春秋 |
出版日 | 2016年7月27日 |
ジャンル | 人間ドラマ |
本作は、コンビニエンスストアが舞台の作品です。
著者である村田沙耶香さんは、作家の傍らコンビニ店員としても働いておられました。
その経験を活かし書かれた本作は、リアルなコンビニ店員の風景が巧みに表現されているところも、魅力のひとつになっています。
コンビニ人間のあらすじ
『コンビニ人間』のあらすじをご紹介します。
主人公はコンビニ店員歴18年の36歳女性
この物語の主人公となるのは、コンビニ店員・古倉恵子。
36歳にしていまだに未婚で彼氏もおらず、コンビニ店員として働くことに人生を懸けています。
恵子は、幼少の頃から周囲に馴染めない人間で、完璧にマニュアル化されたコンビニの仕事をこなすことで、自分の存在価値を見出してきました。
ここで重要なのは、恵子は自分自身を客観視できる人間であるということです。
周囲にとって異物になりがちだと知っているからこそ、社会の歯車になる手段として、コンビニ店員として働き続ける選択をしている恵子。
なるべく周囲に溶け込めるように、コンビニで一緒に働く女性店員の話し方を取り入れたり、持ち物を似せてみたりと、周りの人たちと自分の間にある差を埋めようと努力します。
白羽の登場で崩れだす恵子の日常
周囲と自身の溝を自覚しながらも、なんとか社会の一部として生きている恵子の前に、35歳の新人店員の男・白羽があらわれます。
初出勤の日から全くやる気がない白羽は、朝礼時に接客用語を唱和する恵子らに向かって「…なんか宗教みたいっすね」とつぶやく。
いつでも他人を蔑んでいる、擦れた性格の持ち主でした。
そんな白羽の目的は、苦しみだらけの社会から逃げる手段としての“結婚”で、似たような境遇にありながら、コンビニ店員として平然と生きる恵子に同族嫌悪のような気持ちを抱き、容赦なくそれをぶつけます。
恵子はそんな白羽の話を聞くうちに、白羽と結婚することで「普通の人間」を演じるのも、社会に馴染むためには悪くないなと考え始め、婚姻届けの提出を白羽に打診します。
それに対し、つべこべ言いながらも結婚には前向きな姿勢を示す白羽。
それ以降も、文句を言いつつ恵子の部屋に居座る白羽ですが、このことが恵子の日常を変えていきます。
妹や友人に、男性と同棲していることを伝えると、彼女らは恵子が初めて仲間になったのだと言わんばかりに大喜びして見せたのです。
次第にコンビニで共に働く同僚たちにも白羽との関係を察され、同僚たちの恵子に対しての見方が、「コンビニ店員」から「人間のメス」へと変化していきます。
それは、恵子がこれまで居場所にしていた「コンビニ」という環境が崩壊していくことに繋がるのでした。
「普通」への第一歩を前に、聞こえてくる「コンビニの声」
妹や友人、同僚たちが皆、恵子が「コンビニ店員」から「人間のメス」に変化したこを祝福していることを受け、ついにコンビニ店員を辞めることを決意する恵子。
そして、「普通の人間」になるために就職活動をはじめ、ようやく面接に漕ぎつきます。
その面接会場に向かう際、付き添いで来た白羽のトイレのために一軒のコンビ二に立ち寄ると、そこで、恵子の耳に、様々な「コンビニの声」が届きます。
その声についつい反応し動いてしまう恵子の体。
そこで恵子は、自分自身が人間ではなく、「コンビニ店員」という生き物であることに気が付くのです。
コンビニ人間を読んだ感想
わたしはこの小説を読み終わり、「救われた」と感じました。
それはこの小説が、「普通」からはみ出した人間に勇気を与えてくれる作品であるからです。
恐るべき「普通」崇拝の世の中
人間の容姿は一つとして同じものがない、まさに千差万別なものですが、それと同じで人間の中身だって誰一人として同じではないはずですこの社会。
私たちは、「普通」の大人として、輪を乱さない存在のまま集団に居続けることを常に求められています。
この小説の中でも、恵子の周りの人間たちは、すべからく「普通」であることを重要視しています。
しかし、努力してもその枠からはみ出てしまう人間がいることも事実で、まさにはみ出し者である恵子に向けられる周囲の冷ややかな視線や不自然な気遣いに、胸が締め付けられました。
「普通の人間」と恵子の差
では「普通の人間」と恵子の間には何の差があるのでしょう?
それは「自分のフィルターを通して社会と向き合っているかどうか」の差なのではないでしょうか。
恵子は常に自分の価値観をもっていて、その価値観に合わないことは容赦なく手放して生きてきました。
例えそのことで生きづらくなったとしても、ずっと自分を貫いているのです。
反対に「普通の人間」とは、自分というものを取っ払っても、社会の正しいマニュアルに則った生き方を選択している人間のことなのではないでしょうか。
自分を貫き切る主人公の姿に希望を見る
最後の場面で、「普通の人間」になろうとした恵子は、やはり「コンビニ店員」という生き物になることを選択します。
社会の常識的に見れば、恵子は誤った選択をしたかのように見えますが、
本文を読むと、恵子の生き生きとした心情が読み取れます。
対照的に、恵子と同じようにはみ出し者でありながら、「普通の人間」への憧れが拭い去れない白羽は、不満を抱えたままこの物語から去っていくのでした。
この描写が、例え「普通」の枠から外れたとしても、自分を貫き通して生きることの尊さを私に教えてくれたのです。
コンビニ人間はどんな人におすすめ?
わたしが『コンビニ人間』をおすすめしたいのは、以下のような人です。
- 世の中に生きづらさを感じている人
- なんとなく毎日を生きている人
- コンビニ店員の人
本作は、今の社会に馴染み切れない人たちにとって、「自分は自分のままでいいんだ」という救いを与えてくれる作品なのではないでしょうか。
また、コンビニ店員として働く人たちにとっては、あるあるネタ満載の小説としても楽しめるかもしれません。
まとめ
『コンビニ人間』は、社会の常識から外れて生きる人間の姿を描いた小説ですが、読み終えた後に残るのは、自分を貫いて生きることへの憧れです。
自分のいるべき場所を見つけ、そこで誇りをもって生きる主人公の姿は、現代社会の中で希薄になりがちな、「自分らしさ」の象徴なのではないでしょうか。
他人の冷たい視線をものともせず、凛とした姿勢のままコンビニで働き続ける主人公は、読む者すべての背中を強く押してくれるはずです。
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