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『孤島の鬼』感想|江戸川乱歩の考える愛とはなんだったのか

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「まあ初恋といっていいのは、十五歳の時でした。(中略)それが実にプラトニックで、熱烈で、僕の一生の恋が、その同性に対してみんな使いつくされてしまったかの観があるのです。(後略)」

これは、日本の探偵小説の祖とされる江戸川乱歩の言葉です。

初恋が中学二年生の時、そして相手が男の子だったという乱歩は、後の作家人生でこの言葉を具現化したような恋を小説に描いています。

   それが『孤島の鬼』。

元祖ボーイズラブとも呼ばれたこの推理小説は、乱歩の恋愛観がこれでもかというほど詰め込まれた恋愛小説でもありました。

著:江戸川 乱歩, イラスト:座裏屋 蘭丸, その他:宮野 真守
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『孤島の鬼』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル孤島の鬼
著者江戸川乱歩
出版社海王社 ほか
出版日1930年2月
ジャンル推理小説

男色を題材とした書籍を求めて古本屋に通ったり、東京のゲイバーに顔を出したりと、なかなか積極的だった乱歩。

そんな彼が『孤島の鬼』を発表したのは1930年、35歳の時でした。

『孤島の鬼』の作中には、主人公の蓑浦に言い寄る同性愛者の諸戸という人物が登場します。

今でこそ同性愛はひとつの愛の形として受け入れられ始めていますが、当時はまだまだ世間一般の目が冷ややかな時代。

そんなさなか堂々と男性同士の恋を描いた乱歩は、何を考えていたのでしょうか。

諸戸の持つ愛情からは江戸川乱歩作品らしい多少の狂気を感じられますが、それ以上に「好きな人に振り向いてほしい」「好きな人のそばにいたい」という純粋な想いを見ることができます。

それは冒頭にも記載した、乱歩自身が感じた「プラトニック」な恋愛の形のようにも見られるのですが──みなさんはどう感じますか?

『孤島の鬼』のあらすじ

『パノラマ島奇譚』『陰獣』と共に乱歩を代表する長編と言われる『孤島の鬼』。

長編となると途中で読むのを諦めてしまう人が多かったり、そもそもページを開きさえしない人もいたりする現代ですが、乱歩作品の魅力はそうさせない、次のページを捲らざるをえないほどのストーリーの完成度にあります。

全編通して読者を惹きつける文章ばかりですが、ここではその中でも特に見どころと言えたり、頭の片隅に置いておくとよかったりする点を紹介します。

白髪の主人公と脚に不思議な痣を持つ妻

物語は、主人公である蓑浦の語りから始まります。

自身の髪がいつぞやの総理大臣にも劣らないほど真っ白であること。そして、妻の脚に大きな痣が残っていること。

この二つの事象はこれから蓑浦が話す内容に深く関わってくるのですが、どうやら蓑浦の周囲の人間は奇怪極まる彼の話を信じてくれな様子。

この前書きから、蓑浦は読者を人間の愛憎に満ちた回想へと誘います。

江戸川乱歩の描いた愛情 諸戸道雄の恋

蓑浦に想いを寄せる諸戸道雄という人物が登場することは既に書きましたが、思わず「ここまで書く必要ある?」と疑ってしまうほど、彼の蓑浦に対する愛情は細かく書かれています。

例えば、銭湯で親が子にするように丹念に身体を洗ってくれたり、散歩の時に手を引き合ったりなどなど。

また諸戸がこういった感情を抱いているおかげもあって二人は本編の大半を一緒に行動し、数々の災難に遭った後にひとつの収束を迎えるのですが、それは読者の皆さんの目で確認してみてくださいね。

上でも書いた通りこの諸戸道雄という男が蓑浦に捧げる愛情とは、まるで乱歩が中学生の時に感じた愛そのもの。

エロティック、そしてグロテスクな作品を多く執筆し研究していた乱歩ですが、根本では純粋な感覚を持ったひとだったのかもしれません。

華麗な殺人描写

江戸川乱歩といえば、グロテスクながらもどこか美しさを感じる殺人描写。

『孤島の鬼』は推理小説でもあるので、定番の密室殺人がとても鮮やかに描かれています。

少し頭を捻っただけでは解決できない事件と、僅かな手がかりから導かれる答えに、感嘆のため息が止まりません。

本当に怖いのは犯人ではなく、このストーリーを考える作者の方ではないでしょうか。

『孤島の鬼』を読んだ感想

初読の感想は、とにかく衝撃的でした。

推理小説としての完成度の高さや心理描写のリアリティには目を剥くほど。

本を手に取ったのは図書館でしたが、今では書店で購入して何度も読み返しています。

常識にとらわれない柔軟な思考を持って

どんな推理小説にも言えることですが、読者の頭が硬ければ謎解きを楽しむことはできません。

実際、江戸川乱歩作品を代表するキャラクター・明智小五郎が登場する作品では、ひとつの考えにとらわれて謎を解明できない人物が多く登場します。

頭を柔らかくして登場人物と一緒に推理してみることで、より物語に没入できますよ。

単なるボーイズラブではない

最近ではボーイズラブやガールズラブに偏見が少なくなり、これらをテーマにした作品を楽しむ人口も増えました。現に筆者もその一人です。

『孤島の鬼』では主人公の蓑浦と諸戸の距離がとても近く、ボーイズラブの祖といわれるのも頷けるような描写が満載です。

が、ただただ男同士でいちゃついているわけではありません。彼らが男性だったからこそ構築されたストーリーがあります。

単なるボーイズラブとして片付けてしまうのは、いささかもったいない気がします。

極限までリアリティを追求した舞台

乱歩の書く作品は、とことんリアリティが追求されているのが特徴です。

『孤島の鬼』もそれは例外ではなく、地名や施設名が具体的に示されているために、「本当にこんな事件があったんじゃないか」と思わせてくれます。

事件の真相を求めて主人公が向かう先の島は南紀にあると記されているので、本を読み終えてから実際に南紀へ旅行してみるのも面白いかもしれません。

『孤島の鬼』はどんな人におすすめ?

『孤島の鬼』はこんな人におすすめです。

  • 小説でハラハラドキドキを味わいたい方
  • 空き時間にじっくり長編小説を読みたい方
  • ボーイズラブに興味がある方

同性愛であったりグロテスクな描写であったり、こういった要素にあまり触れたことがないという人も多いでしょう。

ですが躊躇わずに一度本を開いてみれば、きっと今までにない興奮を感じられます。

普通の小説はマンネリ化してしまった…という方におすすめです。

おわりに

異色の作品として文壇に登場した『孤島の鬼』。

この小説は今なお他に類を見ない読み応えのある作品として、大勢の人に愛されています。

いきなり長編小説は読みにくいという方には、漫画化や映像化されたものをおすすめします。

また一部分ではありますが、人気声優・宮野真守さんが情感たっぷりに朗読したCDも出ており、海王社から出版された『孤島の鬼』に同梱されています。

あなたも一度常識を逸脱した、江戸川乱歩の描く絶海の孤島へと足を踏み入れてはいかがでしょうか?

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