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『花のノートルダム』感想|泥棒作家ジュネが汚辱を栄光に変える

1940年代のフランスで、ある男が一つの小説を紡ぎ出しました。

トイレットペーパーに書きつけられたこの小説のタイトルは『花のノートルダム』。20世紀最大の怪物と呼ばれた、小説家であり戯曲家でもあるジャン・ジュネの処女作です。

自伝的小説である本作の語り手もまた、投獄中。

彼は自由のない世界で想像力の世界に自由を求めます。貧しき男娼と犯罪者たちの吹き溜まりを舞台に語られるのは、男性同性愛者たちの悲惨な愛と惨憺たる生活模様。

自由を…と言いつつ鬱屈した状況でありながら、ジュネは文体の力のみでこの抑圧された世界を極彩色の貴族絵巻に変えてしまうのです。

本作は変わった小説を読んでみたい、という方に特におすすめします。

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『花のノートルダム』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル花のノートルダム
著者ジャン・ジュネ
出版社光文社
出版日2010年10月13日
ジャンルピカレスク小説

1910年に生まれたジュネは乳児のときに捨てられ、里親の元で育てられました。

比較的幸福な子ども時代を過ごしたものの当時の孤児を取り囲む環境は厳しく、二番目の里親と金銭トラブルを起こし少年院へ。そこからは転がり落ちるように犯罪を生業とする道へ進み、刑務所への出入りを繰り返します。

ジュネがこの小説を著したのも投獄中のときでした。監獄で生まれた本作は当時の知識人たちの間で話題となり高く評価され、出版の流れとなります。

こうして経歴は元泥棒という「泥棒作家」が誕生したのです。文壇に彗星の如く登場したジュネは、その後戯曲家としても名を馳せました。

ジュネの処女作である本作には、大詩人ジャン・コクトーが「時代を画する爆弾」と表したジュネの魅力のすべてが詰まっています。汚れに穢れを合わせた世界の栄光を語り聖性を謳う本小説の世界に、ぜひ浸かってみてください。

『花のノートルダム』のあらすじ

ある死刑囚への献辞から始まる『花のノートルダム』は、語り手を魅了する犯罪者たちの羅列から始まります。

彼らのどうしようもなさ、救えなさを「栄光」と呼ぶ語り手は言葉だけを武器に、下劣さを正反対のものへと変える力業を500ページ弱にわたり披露します。

独房から始まる物語

自分の独房に魔法をかけようとして、語り手は自分の思い出を足がかりに様々な人物を生み出します。

その一人が小説の題名になっている、花のノートルダム。とても変わった名前で、パリのノートルダム寺院のような寺院名を思わせます。

語り手に次ぐ主人公と言っても良い人物が、ディヴィーヌ。フランス語で「神聖な」という意味です。

宗教性のある名前ですが、ディヴィーヌは既にとうが立った売れない男娼。若い頃に目標もなくパリに出てきからというもの、ずっとその日暮らしを続けています。

聖(女)ディヴィーヌ

ディヴィーヌは女性的な男性同性愛者。

トランスジェンダーというわけではないのですがいつも女装しており、その内面は男性性と女性性が奇妙に入り混じっています。感覚は女、思考は男。それがディヴィーヌなのです。

ある日ディヴィーヌはミニョン(フランス語で「可愛い」の意味)という男と出会います。

この男は密告で小遣い稼ぎをしているような男なのですが、ディヴィーヌには彼のマッチョなヒモという特性に魅力を感じたのでした。

二人はディヴィーヌのアパルトマンで同棲することになります。ディヴィーヌのミニョンへの愛は彼(女)の部屋の装飾そのものです。

布切れを壁に打ち付けて作った大きな薔薇。ディヴィーヌの愛は安物で下品なきらびやかさに彩られた虚無の愛でした。

ミニョンと花のノートルダム

ディヴィーヌを利用するために付き合い始めたミニョンですが、関係が深まるにつれ本当にディヴィーヌを愛し始めます。しかしその愛は軽蔑と区別がつかないようなものでした。

ディヴィーヌのヒモとして怠惰な生活を送っていたミニョンでしたが、財布を拾ってやったことがきっかけで小説のタイトルにもなっている人物、花のノートルダムと意気投合します。

花のノートルダムは冴えない若者として描かれてはいますが、強盗殺人を犯しています。ミニョンと花のノートルダムは盗んだ金で豪遊し、金が尽きたところでディヴィーヌの部屋に戻ってきます。

このとき、ミニョンと花のノートルダムは愛し合うようになっていました。

ディヴィーヌは花のノートルダムにミニョンを取られたことになりますが、彼(女)は花のノートルダムにも好意を抱き、なんと三人は同じ部屋で生活し始めます。

しかしそのような関係が安定するはずもなく、ディヴィーヌはア新たにセック・ゴルギという黒人男性を連れ込んだのでした。

花のノートルダムは散る

ミニョンのときは花のノートルダムを受け入れたディヴィーヌでしたが、ゴルギのときは違いました。

花のノートルダムにゴルギを取られてしまうと気が気でないディヴィーヌ。しかし彼(女)の思惑とは裏腹に、夜遊びに出かけ女装をした花のノートルダムとゴルギは恋仲になってしまうのでした。

一方、ミニョンは万引きで捕まり服役しました。

新しい三角関係の中で嫉妬に狂っていたディヴィーヌでしたが、今度は花のノートルダムが麻薬密売中に捕まってしまいます。

それをきっかけに殺人を告白した花のノートルダムには、ディヴィーヌの情状酌量の証言もむなしく死刑判決が下りたのでした。

入り組んだ空想

ディヴィーヌ、ミニョン…といった人物たち以外にも、語り手は多くの人物たちを作りだして空想を楽しみます。

多数の登場人物や様々なエピソードが、ときには連想のみをきっかけとして脈絡なく出てきます。

この小説の最後は、獄中のミニョンがディヴィーヌに出した手紙で終っています。

読者である私たちが具体的にミニョンを思い描けるようにという、語り手が考えた演出です。

『花のノートルダム』を読んだ感想

時代も異なれば自分がいる世界とは程遠い世界の人たちが織り成す物語。

あまりに違い過ぎて、ダーク&ダーティなおとぎ話を読んでいる気分になります。

ジャンルをはみ出る小説

おとぎ話として読ませること、それこそが作者ジュネの狙いでした。

ジュネによると、語り手が語る物語は「童話」です。ですが明らかに、この小説のジャンルは「童話」ではありません。

モチーフに着目すればピカレスク小説が一番近いのでしょうが、全体として見ると寓話のようでもあれば実験小説のようでもあります。

ジェンダー論としても恋愛小説としても読めるでしょう。

分類不可能な小説を読む、この本はそんなユニークな読書体験を与えてくれました。

また一冊読んだだけなのに、愛や奇跡や罪やLGBTといった多彩なテーマについて考えさせられました。

自分とは程遠い世界の話でも、生きる上でのヒントを得られたと思います。

読みだしたら止められない?

この小説は物語の筋らしき筋がありません。

流れに切れ目が一切ないのです。

そのため自分の好きなところで切ることができ、自分のリズムで読んでいくことができます。もちろん一気に読ませる魅力がありますから、一気読みもおすすめです。

正反対の読み方のどちらもできる、不思議な作品でした。

花のノートルダムはどんな人におすすめ?

ディヴィーヌたちが暮らしたモンマルトル 

この本を一番おすすめするのは、型にはまらない小説を読んでみたいという方です。ジュネを読めば「小説」の概念自体が変わりますから。他にも次のような方におすすめです。

  • フランス文学に興味がある
  • 新しいタイプの小説を読んでみたい
  • 同性愛の世界を覗いてみたい
  • 一風変わったピカレスク小説に出会いたい
  • 昔の犯罪者の生活ぶりが知りたい
  • 度肝を抜かれる読書体験がしたい

この本に限っては、あらすじを知っていても読書体験は色褪せません。文体の力で作られたこの世界は、実際に読んでみないと経験できないものです。ぜひこの本を手に取って、めくるめく世界をご自身で体験してください。

おわりに

20世紀フランス文学の中でも異彩を放つジュネ。

孤児として生まれ前科があるという経歴からして異色ですが、その作品世界も異色です。

『花のノートルダム』のような長編小説を書いていた時期もありますが、「ゴドーを待ちながら」でノーベル文学賞を受賞した同時代人ベケットの演劇とよく比べられる戯曲家でもあります。

幅広いジャンルで書いているものの、その根底に流れているものは同じような気がします。

悲惨な状況ある人間の惨めさを、言葉の力で聖なるもの、華やかなものに変えてしまうこと。

『花のノートルダム』がもたらす言語体験は、様々なタイプの小説が発表された今でもまったく色褪せていません。

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