優しかったお母さんは、私を誘拐した人でした。ーー
インパクトのあるキャッチコピーで映画にもなった話題作、『八日目の蝉』。
不倫相手の妻の子どもを誘拐した女性の4年間の逃亡生活と、事件後大人になった娘の葛藤を描いた二部作です。
生まれて間もない赤ん坊の誘拐という犯罪に手を染めているにも関わらず、血のつながりのない子を我が子として必死に守ろうとする女性の姿には胸を打つものがありました。
いつか別れがくると覚悟しながら子どもを愛する気持ちや、女性を母として慕う娘との絆が美しく、また切なく描かれています。
著:角田光代
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『八日目の蝉』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 八日目の蝉 |
著者 | 角田光代 |
出版社 | 中央公論新社 |
出版日 | 2007年3月25日 |
ジャンル | フィクション/サスペンス |
2007年に出版された『八日目の蝉』は、第2回中央公論文芸賞を受賞。
2010年にテレビドラマ化、2011年に映画化され、第35回日本アカデミー賞において10部門で最優秀賞を獲得し、話題となりました。
『八日目の蝉』のあらすじ
『八日目の蝉』の主要な登場人物とあらすじをご紹介します。
主な登場人物など
野々宮希和子
不倫相手の秋山丈博の妻との子どもを誘拐し、4年間逃亡生活を続けます。
周囲からは真面目、物静か、優等生と評価されていました。
秋山恵理菜/宮田薫
生後6ヶ月の時に希和子に連れ去られ、宮田薫として幼少期を過ごしました。
希和子が捕まり両親の元に帰されてからは本来の名である秋山恵理菜となりました。
家族とうまくいかず、アルバイトをしながら一人暮らしをしています。
秋山丈博
恵理菜の父親で希和子の不倫相手。
単身赴任中に希和子と関係を持ち、希和子を妊娠・中絶させます。
面倒なことからは逃げるタイプ。
秋山恵津子
恵理菜の母親。
ヒステリックな性格で、丈博の浮気を知って希和子に嫌がらせの電話を繰り返したり、戻ってきた恵理菜への接し方がわからず暴れたりします。
安藤千草
希和子が約2年間暮らしていたエンジェルホームで恵理菜と知り合います。
幼い頃一緒に遊んだ恵理菜のことを覚えていて、恵理菜の誘拐事件の本を出版するためにフリーライターとして恵理菜に会いに来ます。
岸田孝史
恵理菜の恋人で、既婚者の社会人。
恋人として恵理菜と楽しい時間を過ごしますが、離婚しようとはしません。
沢田久美
希和子と一緒にエンジェルホームで過ごした女性の1人。
自分の子どもを奪われたことがきっかけでエンジェルホームに入ります。
希和子がエンジェルホームから逃げようとしたときに自分の実家の住所を教えて手助けをします。
沢田昌江
久美の母親。希和子が久美の友人と知って誘拐犯とは知らずに自分のそうめん屋で希和子を雇い、恵理菜と希和子の面倒を見ます。
※エンジェルホーム
複雑な事情を抱えた女性のみをを受け入れる自称ボランティア団体。
自給自足の共同生活を営んでいて、雑誌や新聞が持ち込めないなど世間とのつながりは基本的に持てません。
育てた野菜の移動販売をしている車に希和子が出くわしたことがきっかけで彼女の逃亡先になります。
第一部 希和子と薫の逃亡生活
不倫で身ごもった子どもを中絶して子どもの産めない身体になってしまった希和子は、不倫相手の秋山丈博に子どもが産まれたと知り、未練を断ち切るために夫妻の留守を見計らって赤ん坊を一目見ようと秋山宅に忍び込みます。
すぐに帰るつもりでしたが、希和子は泣き出した赤ん坊を衝動的に連れ去ってしまいます。
希和子は誘拐犯として指名手配されますが、赤ん坊を薫と名付け、逃げながら薫を育てていこうと決意しました。
学生時代の同級生、見知らぬ女の住居、エンジェルホームというボランティア団体の施設、小豆島と逃亡先を転々としながら、希和子は薫と一緒にいることだけを考え、必死で働きます。
薫は自分が誘拐されたとは知らずに希和子を実の母だと思って暮らしていました。
気にかけてくれるご近所さんや同年代の友達にも恵まれ薫はすくすくと育ちますが、その生活は長くは続きませんでした。
夏祭りに偶然撮られた希和子と薫の写真が全国紙に載り、希和子は更に逃亡を図りますがあっけなく捕まってしまい、薫は実の家族の元に帰されることになりました。
第二部 大人になった薫の見つけたもの
18年後、大学生になった薫は本名である恵理菜として暮らしていました。
希和子が逮捕された後、薫は本当の両親の元に帰されましたが、お互いにどう接してよいかわからずにギクシャクした生活をおくることとなります。
また、誘拐事件のせいで世間の好奇の目にさらされたことで家族の溝はさらに深まり、恵理菜は逃げるように家を出ました。
ある日、恵理菜のアルバイト先にフリーライターの安藤千草が会いに来ます。
彼女は恵理菜が希和子と共に暮らしていたエンジェルホームという施設で共同生活をおくっていた過去がありました。
千草は恵理菜の誘拐事件のことを本に書きたいと取材を頼んできました。
あまり乗り気になれない恵理菜でしたが、不思議と2人の距離は縮まっていきます。
恵理菜には岸田孝史という既婚者の恋人がいて、恵理菜は彼の子どもを妊娠します。
恵理菜は岸田とは別れて1人で子どもを産もうと決めましたが、母親になる自信が持てずにいました。
そんなとき、千草の誘いで昔希和子が過ごしたエンジェルホームと小豆島に旅行に行くことになりました。
幼い頃の幸せな思い出がよみがえり、子どもを産み育てることに不安を感じていた恵理菜の心に変化がおとずれます。
『八日目の蝉』を読んだ感想
私も女の子を育てる母親なので、読んでいて共感できる部分が多く、胸が締め付けられるような思いになりました。
希和子の悲しい愛情
希和子は誘拐という許されない罪を犯していますが、その背景には自身が愛する人との子どもを諦め、二度と子どもの産めない身体になってしまったという悲しい背景があります。
もちろん、だからといって誘拐が正当化されるわけではありませんが、逃亡生活の間、希和子は薫のことだけを考え、必死に働きながら薫に精一杯の愛情を注いでいました。
希和子が良い母親であればあるほど、社会的には許されない母娘である事実が際立ち、いつか訪れるであろう2人の別れが想像されてしまい、悲しく切ない気持ちになります。
繰り返し描かれる複雑な母と子の関係
八日目の蝉では”母と子”の様々な関係が繰り返し描かれています。
希和子と薫
本当の親子のように過ごしますが、幼い頃に誘拐して育てられた世間的には認められない関係です。
恵津子と恵理菜
本当の親子にも関わらず生後すぐに引き離されたせいで距離ができてしまい、恵津子は恵理菜を大切に思う気持ちをうまく伝えられません。
昌江と久美
久美が嫁ぎ先でうまくいっていない時に昌江が突き離したことがきっかけで、久美は何年も音信不通になってしまいます。
その他にも色々な母と子が登場しますが、どの登場人物もそれぞれ複雑な事情を抱えていて”母性とは何か”を問いかけているように感じました。
『八日目の蝉』の意味
本書のタイトルの”八日目の蝉”にはどんな意味があるのでしょうか?
蝉は何年もかけて土の中で成長し、地上に出ても七日で死んでしまうと言われています。
他のどの蝉も七日で死んじゃうんだったら、べつにかなしくないかなって。だってみんな同じだもん。
でも、もし、七日で死ぬって決まってるのに死ななかった蝉がいたとしたら、仲間はみんな死んじゃったのに自分だけ生き残っちゃったとしたら…
そのほうがかなしいよね
恵理菜は蝉の寿命を人間に例えて、世間の”普通”から外れてしまった自分を一匹で生き残ってしまった蝉と重ね合わせています。
希和子と恵理菜をはじめたたくさんの”八日目の蝉”の人生が描かれているといえます。
『八日目の蝉』はどんな人におすすめ?
この物語は、大人の女性が比較的感情移入して読める作品だと思います。
のような方におすすめです。
また、男性でも
- 母親・妻の感覚を理解したい
- ドロドロした話が好きな人
は興味深く読めるのではないでしょうか。
おわりに
『八日目の蝉』は、読み始めてすぐに物語の世界に引き込まれます。
悲しく切ない中にも必死であろうとする女性達の姿が表現豊かに描かれ、「母性とは何か」を考えさせられる、非常に読みごたえのある作品でした。
369ページの長編で、読み出すと登場人物がこれからどうなるのか気になって止まらなくなるので、隙間時間に小分けにして読むのには向いていない作品だと思います。
ぜひゆっくり時間をとって、どっぷりと物語の世界に浸ってみてください。
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