男女逆転物語の原点とされる『とりかへばや物語』。
現代の若者も楽しんで読めるストーリーだけでなく、女性の立場が弱い平安時代に男性に成り代わって女性が活躍する姿からジェンダー的視点からも注目されています。
残念ながら原作は失われてしまい、私達が『とりかへばや物語』として読んでいるものは、何者かによって書き写された作品なのです。
なぜおよそ800年以上前に書かれ、現代まで語り継がれているような作品が失われてしまったのでしょう。
もしかすると、当時の男性から見ると自分の立場を危うくしてしまうと脅威を感じるほどの影響力があったのかもしれません。
一度失われた幻の作品をぜひ手に取ってみてください。
著:鈴木 裕子, 編集:鈴木 裕子
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『とりかへばや物語』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | とりかへばや物語 |
著者 | 不明 訳 鈴木裕子 |
出版社 | 角川ソフィア文庫 |
出版日 | 2009年6月25日 |
ジャンル | 古典文学 |
様々な現代語訳作品がありますが、角川ソフィア文庫出版社のは、現代語訳だけでなく当時の衣装などの絵を使用した解説も入っています。
古典文学初心者でも読みやすい作品です。
登場人物
物語に登場する魅力的な登場人物達をご紹介します
権大納言
若君、姫君の父。
作品のタイトルは父の「取り替えたいなあ」という嘆きから。
若君
男の子のように活発な女の子。男装をして兄の代わりに宮廷に出仕する。
姫君
女の子のように大人しい男の子。女装して妹の代わりに帝の妹である女一の宮の尚侍として宮中へ出仕する。
宰相中将
若君の友人。女性好きとして有名。男と信じていながらも若君(男装)に思いを寄せる。
四の姫
若君の形だけの妻。寂しさからか宰相中将と深い仲になってしまう。
帝
天皇。若君(男装)が仕えている。美しいとの噂を聞き、姫君(女装)に興味を持つ。
女一の宮
帝の妹。姫君(女装)が仕えている。
『とりかへばや物語』のあらすじ
京の都に住む権大納言には2人の妻おりました。1人目の妻は美しい顔立ちの男の子を、2人目の妻も美しい顔立ちの女の子を出産しました。
驚くことに子供達は双子のようにそっくりで、権大納言やどちらの妻にも似ていませんでした。
どの時代も美しさは重要です。自分の女が帝の寵愛を受ければ一族の一生の繁栄が約束されるのです。
立派な跡継ぎも生まれ、世間からは順風満帆のように見えていましたが、権大納言には大きな悩みがありました。
跡継ぎとして厳しく育ててきた息子は何故か女の子のような貝合わせや人形遊びを好み、男性を怖がる内気な性格に。
一方、男性好みのお淑やかな性格にしたい娘は男の子に混じって弓や蹴鞠遊びをするような活発な性格に育ってしまったのです。
父は2人を「取り替えたいなあ」と嘆きながらも性格を尊重し、息子は「姫君」として、娘は「若君」として育てることを決意します。
宮中へ出仕
性別が入れ替わった双子のような兄妹はついに成人しました。
優秀な若君(男装)は、逃れる術がなく宮廷に出仕することになってしまいます。
そして、同じく姫君(女装)も性別を偽り、決して男性には顔見せてはいけない天皇の妹の世話係として屋敷に出仕を始めます。
見目麗しく、仕事もできる若君(男装)の噂は瞬く間に広がり、ついに縁談の話が来てしまいました。もちろん縁談の相手は女性です。
縁談を断れば秘密が明るみに出てしまうため、若君(男装)は女性の身でありながら右大臣の4番目の娘四の姫と結婚させられてしまいました。
禁断の恋
穏やかで優しい若君(男装)を愛していた妻の四の姫は、こんなにも仲が良いのに深い関係になれないことを思い悩みます。
ついには若君(男装)の女好きの友人宰相中将と関係を持ってしまいます。
そして宰相中将の子供をみごもり、若君(男性)との関係に亀裂が生じてしまいました。
一方、姫君(女装)も自分が仕えている高貴な身分の女一の宮に思いを寄せ、恋人関係になってしまいました。
三角関係
若君(男装)に思いを寄せていた宰相中将は、男でも構わないと若君(男装)をおそいかかります。そしてついに秘密を見破られてしまいました。
これは好都合と、宰相中将におそわれてしまった若君(男装)は、最悪なことに憎き妻の浮気相手の宰相中将の子を妊娠してしまうのです。
家族にも情けなく打ち明けられない若君(男性)は宰相中将に宇治の隠れ家に行き、女の姿に戻って男の子を出産しました。
隠れている間、輝かしい宮廷での日々を思い出していました。
一方、姫君(女装)も元の男性の姿に戻り、行方知れずとなっていた若君(男装)を探す旅に出ます。
驚くことにここまでのお話でまだ半分です。ここから若君(男装)と帝との恋も始まっていきます。
ドキドキハラハラする展開や、複雑な人間関係に最後まで目が離せません。
『とりかへばや物語』を読んだ感想
この物語をより楽しむには平安時代の結婚について知る必要があります。
平安時代の結婚と女性の立場
結婚式
平安時代の女性は家族以外に顔を見せることはありませんでした。
当時の絵画に描かれる扇子は顔を隠すためのものです。
そのため、男性は覗き見や世間の噂から好みの女性を探しました。
女性に手紙を送り、一夜を共にした後「後朝の歌」を贈答し、三日間続けて女性宅に通うことで婚姻が成立します。
結婚形態
今では考えられませんが、平安時代の結婚は夫が妻の実家へ通う
「通い婚」が一般的でした。
どんなに寂しく思っても女性から男性を訪ねることはできず、待ち続けなければいけません。
現在のように正式な届出もないので、男性の愛情が冷めてしまえば結婚関係は終わってしまいます。
結婚相手
結婚相手も自分では決められません。父親だけでなく、祖父母や叔父叔母、兄弟の承認が必要で自由に結婚することは許されない時代でした。
より自分達の出世の役に立つ相手と結婚させようとするのです。
文学的魅力
宮廷での貴族たちの暮らしぶりや習慣を知ることができるのは古典文学の魅力のひとつです。
貴族の衣装は当時の流行や、季節、吉祥を取り入れていました。ファッション誌を読んでいるような面白さがあります。
生き生きとした登場人物たち
この物語の良さは、登場人物のひとりひとりが自分の価値観や意志をしっかりと持ち行動している点です。それぞれの性別の問題を超え自分らしく生きる道を選んでいく姿に勇気を与えられます。
また、飽きさせない物語の展開に引き込まれてしまいます。
『とりかへばや物語』はどんな人におすすめ?
『とりかへばや物語』はこんな人におすすめです。
- 少女漫画が好きな人
- 時代小説が好きな人
- ドキドキハラハラするような物語が好きな人
- 何が新しく挑戦しようとしている人
『とりかへばや物語』には、少女漫画的物語展開がたくさんあります。
ロマンチックな帝との恋や、双子のような兄妹の波乱万丈の人生や成長に目が離せません。
古典文学作品と言っても現代語訳されておりますので、苦手意識を捨てて手に取ってみてください。
おわりに
この時代の女性達は男性の服を縫うために手芸をし、男性をもてなすために踊りや琴を学びます。そんな高い身分の高い女性達の娯楽は読書でした。
もちろん自分で買うことはできないため、父親や兄弟が用意します。
出世のための道具である娘達に働くことの喜びが語られている「とりかへばや物語」を娘には見せたくないと思うに違いありません。
意図的に燃やされてしまったとも考えられているなか、800年経ったいまも価値があるからこそ残っているのです。
この物語を手に取ったとき、堅いイメージの古典文学にこんなにも面白い作品があるのかと驚きました。
ジェンダー要素だけでなく、自分を信じる勇気や兄妹、家族の愛情が描かれている物語です。
著:鈴木 裕子, 編集:鈴木 裕子
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