あなたには、「腹心の友」と呼べる友人はいますか?
この物語の主人公であるダイアナと彩子は出会ってすぐに大の仲良しになります。
この2人を繋いだのは、お互い本好きだったということ。
2人の友情は成長と共に変容していきますが、互いに大好きな本に力をもらいながら、そして離れていても互いを思いながら、それぞれの壁と戦っていきます。
これはそんな少女たちの友情と葛藤の物語です。
著:柚木 麻子
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『本屋さんのダイアナ』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 本屋さんのダイアナ |
著者 | 柚木麻子 |
出版社 | 新潮社 |
出版日 | 2014年4月22日 |
ジャンル | 青春小説 |
2016年に新潮社から文庫版も出ていますので、気になった方はそちらもぜひご覧ください。
この作品は、2015年の本屋大賞で第4位に選ばれました。
作者の柚木麻子さんは女性の友情をテーマとした作品を多く執筆しており、その作品はさまざまな文学賞の候補に挙がっています。
『本屋さんのダイアナ』のあらすじ
この作品は、ダイアナと彩子という、正反対の環境で育った2人の少女の友情と成長を描いた物語です。
それぞれの環境の中で悩み、苦しみながらも自分の生き方を選びとっていく姿が描かれています。
2人の出会い
矢島大穴(ダイアナ)は、自分の名前が大嫌いでした。
顔も見たことのない父が競馬好きだったことに由来しているというその名前や、母の意向で金に染められた髪などのせいで、他人と自信を持って関わることができず、友人もいなかった彼女にとって、大好きな本だけが救いです。
ダイアナの母親はキャバクラ勤めをしながら女手ひとつでダイアナを育てており、派手好きで昼夜逆転の生活を送っています。
ダイアナも決して母を嫌っているわけではないのですが、物語に出てくるような「お母さん」や、「本物の良さ」に囲まれた素朴な暮らしにいつも憧れていました。
小学校3年生になってすぐ、いつものようにその容姿と名前が原因でダイアナはクラスメイトに難癖をつけられてしまいます。
そんなとき、「ダイアナは変な名前ではない」と彼女を庇ってくれたクラスメイト。
それが、この物語のもう1人の主人公、神崎彩子でした。
ダイアナと彩子の友情
神崎彩子は、編集者の知的な父と、料理教室の講師をする家庭的な母に育てられました。
流行のものを使い捨てるのではなく、良いものを大事にする神崎家の方針に従いながら、温かい家庭の中で暮らし、クラスメイトからも一目置かれている彩子。
そんな彼女にとって、同い年ながら1人で買い食いをするなど、自分の力で生きているという空気を纏わせているダイアナは憧れの存在でした。
そしてダイアナにとっても、「ほんもの」に囲まれた穏やかな暮らしをする彩子やその家族は憧れの対象。
互いを羨ましく感じながら、2人は本が好きという共通点をきっかけに、親しくするようになります。
2人が特に好きだったのは、『秘密の森のダイアナ』という絵本。
意地悪な魔法使いのせいで両親と生き別れになった少女ダイアナが、森の動物や妖精たちに助けられながら自分の道を切り開くという物語に、2人の少女はそれぞれの理想を見出したのです。
友情の決裂とそれぞれの「戦い」
小学6年生になり、相変わらず仲良しの2人は、彩子が受験をする難関女子中学校の文化祭に赴きます。
そこでダイアナは、自分の母がかつてその中学の生徒だったことを知り、衝撃を受けました。
しかし、受験勉強で大切な時期を迎えている彩子にダイアナはそのことをなかなか切り出せません。
彩子に秘密を抱えたまま、ダイアナは何かとおせっかいを焼いてくるクラスメイトの男子と共に、文化祭のときに知った母の実家を訪れます。
そしてその帰りに、偶然彩子と遭遇します。
彩子はダイアナが自分に内緒でその男子と付き合っていたのだと誤解をし、ダイアナに絶交を言い渡しました。
そうしてお互いに素直になれないまま、2人は別々の中学に進み、その人生は離れていくことになります。
ダイアナは公立の中学、高校に進学しますが、そこでも周囲にうまく馴染めません。
それでも彼女はもがきながら、「本屋で働く」という自分の夢を追い続けます。
そして、彩子は名門私立学校で穏やかな生活を送りながらも、その生活に息苦しさを感じ、何とかして「いい子」の殻を破りたいと思っていました。
そんな2人はずっとお互いのことを忘れられず、しかし、気まずくてもう一度歩み寄ることができないまま、それぞれの人生の壁に立ち向かっていくのです。
2人はそれぞれの悩みや苦しみを抜け出すことができるのでしょうか、そして、もう一度2人の距離は縮まっていくのでしょうか。
『本屋さんのダイアナ』を読んだ感想
この物語はダイアナと彩子という2人の少女の交流と成長を通して、さまざまなテーマに言及しています。
そしてまた、本好きにはたまらない仕掛けも散りばめられており、いろいろな読み方ができる一冊になっています。
本が与える力
物語の中で2人が好んだ『秘密の森のダイアナ』という絵本。
あらすじでもその内容については触れましたが、絵本の主人公ダイアナは、森で孤独に暮らしながらも、その暮らしに誇りを持って、胸を張って生きています。
そして、魔女にかけられた呪いを解き、森から出て幸せを掴むというストーリーに、ダイアナも彩子も自己を重ね、たびたび勇気をもらっていました。
この絵本と初めて出会った時、ダイアナはこのように思います。
こんな風に心にぴたっとくる描写や表現に出会えるから、読書はやめられない。
この感覚、読書が好きな人なら誰しも覚えがあるのではないでしょうか。
ダイアナや彩子のように、自分の生き方に悩んでいるとき、そっと寄り添い、背中を押してくれるワンフレーズは、時に大きな力となります。
また、作中には、この絵本の他にもさまざまな本が登場します。
ダイアナは向田邦子や森茉莉のような、父親との絆が強く、自分の意志やセンスを貫く生き方に憧れ、彩子は『悲しみよ こんにちは』のヒロイン・セシルが冴えない修道女から蠱惑的なパリジェンヌに変貌を遂げるさまに強い魅力を感じるなど、お互いに自分の理想を本の中に求める姿は、本好きとして大いに共感できる部分でした。
『赤毛のアン』との関連性
彩子とダイアナが出会うシーンで、ダイアナの名前を非難するクラスメイトに、彩子は次のような言葉を投げかけます。
「『赤毛のアン』って知ってる? アンの親友はダイアナって言うんだよ」
『赤毛のアン』を読んだことがある人なら、ダイアナという名前を見ればアンを思い出すかもしれませんし、この部分で「ああ、やはりこの名前はそこに繋がるんだな」と、納得するのではないかと思います。
アンとダイアナの友情と、今作のダイアナと彩子の関係がリンクして描かれつつも、実際の立場はアンがダイアナ、そしてダイアナが彩子というように逆転しているのも、『赤毛のアン』の読者には面白いポイントでしょう。
また、物語の最後には『赤毛のアン』の続編である『アンの愛情』について、ある人物がこのように述べます。
「みんながみんな、アンみたいに飛び立てるわけじゃない。ほとんどの女の子は村で生きていく。脇役のダイアナこそが多くの女の子にとって等身大で、永遠の”腹心の友”たるべき存在だから……。」
幼い頃『赤毛のアン』を読み、アンに憧れた少女たちが、現実世界の荒波にもまれて大人になっていく中で、アンのように生きられるのはごく僅か。
しかし、ダイアナがいるからこそアンが輝くのであり、また、どんな女の子にもダイアナは寄り添ってくれる存在なのでしょう。
この物語を通して、そんな『赤毛のアン』の新しい一面に気づくことができました。
「呪い」に立ち向かう女性たち
もう一つ、この物語で繰り返し取り上げられているのが、「女であること」の不自由さです。
物語の序盤に、第二次性徴を迎えた彩子が、胸のことや生理のことをクラスの男子にからかわれたり、長引く生理で気持ちがささくれ立ったりという描写が出てきます。
実際、まだ小学生のうちから、いやらしいからかいの対象になる女の子は多く、なんとかしてそういった目を避けようと気を配らなくてはなりません。
また、ダイアナの母は、実は小学生の頃、帰り道に知らない男に何度も性的ないたずらをされたという過去を持っています。
そこでダイアナの母は、髪を金髪に染めることで自分を守り、また、自分によく似た娘に同じ道を歩ませないために娘の髪を金髪に染めたのでした。
ダイアナの母の発想は極端かもしれませんが、確かに痴漢に遭う女性に対して「誘うような格好をしている方が悪い」という論調があるのも事実です。
もちろん男性もそういった被害にあうことがないわけではありませんが、その数は圧倒的に女性の方が多いことを思うと、女性として生まれただけで抱えている不自由の多さに改めて気付かされました。
物語の後半では、彩子が男性からの暴力に晒される描写も出てきます。
幼い頃から男性のそういった面に怯えつつも戦うことができなかった彩子が、どのようにその呪縛を解き放つのか、それもこの物語の見どころの一つではないでしょうか。
『本屋さんのダイアナ』はどんな人におすすめ?
この物語は、次のような人に特におすすめです。
- 本が好きな人
- 女同士の友情を描いた作品が好きな人
- 『赤毛のアン』などの少女文学に親しんできた人
本が好きなことで始まるダイアナと彩子の友情の物語、ということで、本が好きな人なら2人の気持ちがよくわかるのではないかと思います。
また、メインテーマはやはりダイアナと彩子の友情ですので、そういった作品が好きな人に特におすすめです。
そして、作中に出てくるさまざまな少女文学に触れていた人にとっては、懐かしさを感じる部分も多いのではないでしょうか。
全般的に、女性が読んで共感できるポイントが多い作品であると思います。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
この本を読み終わったら、きっとあなたも自分の背中を押してくれた作品たちのことを思い出すのではないかと思います。
そしてこの本もまた、その仲間に加わるのではないでしょうか。
本は私たちに、何度でも新しい気づきを与えてくれる、そんなことを感じる一冊です。
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