『空中ブランコ』は奥田英朗さんの「精神科医・伊良部シリーズ」の2作目で、第131回直木賞を受賞、ドラマ化やアニメ化もされている人気作です。
シリーズものとは言ってもオムニバス形式の短編集なので、1冊目の『イン・ザ・プール』を読まずに『空中ブランコ』から読み始めても問題なく楽しめます。
主人公は伊良部総合病院の跡継ぎでトンデモ精神科医・伊良部。
そんな伊良部の元には、様々な悩める患者が訪れます。
神経科が舞台なので重い雰囲気の難しい医療小説かと思われそうですが、伊良部のコミカルなキャラクターと軽妙な文体で、笑いのあふれた作品となっています。
今回は楽しく温かい気持ちになること間違いなしの『空中ブランコ』についてご紹介していきます。
著:奥田 英朗
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『空中ブランコ』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 空中ブランコ |
著者 | 奥田英朗 |
出版社 | 文春文庫 |
出版日 | 2008年1月10日 |
ジャンル | 医療小説 |
色白でデブ、注射が大好きという変な性癖を持つ精神科医・伊良部とFカップでやたらと露出の多い看護師・マユミの元には、「飛べなくなってしまったサーカスの花形空中ブランコ乗り」、「箸も持てない先端恐怖症のヤクザ」など、悩める患者が日々診察を受けにやってきます。
遠慮なく言いたい放題やりたい放題の伊良部に、患者達は混乱し振り回されながらも、なぜか毎日治療に通ってしまいます。
そしてまともな治療を受けていないにも関わらず、伊良部と接する内にみんな抱えていた精神的な病を克服し、前向きな気持ちになるというストーリーです。
伊良部はやぶ医者なのでしょうか?
それとも病める者は癒される名医なのでしょうか?
『空中ブランコ』のあらすじ
『空中ブランコ』は、表題にもなっている
- 「空中ブランコ」
- 「ハリネズミ」
- 「義父のヅラ」
- 「ホットコーナー」
- 「女流作家」
の5つの短編小説から構成されています。
全てのストーリーに共通する登場人物は主人公・伊良部と看護師・マユミだけで、他の登場人物は毎回異なり、各話完結形式です。
訪問
精神的な病気に悩む特殊な職業の患者達が、伊良部総合病院の地下にある神経科を訪れます。
- 飛べなくなってしまったサーカスの花形空中ブランコ乗り
- 尖ったものがだめで箸も持てなくなった先端恐怖症のヤクザ
- 義父のヅラをはずすなど、不謹慎なことがしたくてたまらない強迫神経症の医者
- ボールが上手く投げられなくなったスローイング・イップスのプロ野球選手
- 周囲から求められる作風と自身が書きたいものの違いに悩んでいる心因性嘔吐症の女流作家
「いらっしゃ~い」と神経科には場違いな甲高い声で迎えるのは、色白・デブ・注射大好き、5歳児のようなトンデモ精神科医・伊良部と、やたらと露出の多い看護師・マユミ。
患者達は伊良部の素っ頓狂な言動に呆れ、無茶苦茶な理由で毎回ビタミン注射を打たれながらも、なぜか何度も通院するようになります。
治療
好奇心旺盛な伊良部の自由すぎる行動や暴走治療ぶりに面食らったり、ハプニングに巻き込まれたりと大いに振り回される患者達。
しかし一緒になって笑い、時折なるほどと思えるような鋭い指摘を受けている内に、伊良部に心を許し自分をさらけ出している自分に気付きます。
それと同時に、徐々に心の中で絡まっていたヒモが解きほぐされていくのでした。
克服
超ポジティブシンキングな伊良部は、周りから白い目で見られたり、笑われたりしても全く気にしません。
デブなのに恐怖心や緊張感なく空中ブランコに挑戦。
歩道橋に書いてある「金王神社前」という文字に、ペンキで点を付けて「金玉神社前」に変更したりといった軽犯罪さえも、治療の名目のもと楽しんで実行してしまいます。
そんな伊良部と付き合っている内に、患者達は自分が感じていた嫉妬心やプレッシャーなどに気付き、気持ちが楽になっていくのを感じます。
そして、新たな気持ちで生きていく決心をするのでした。
『空中ブランコ』を読んだ感想
とにかくユーモアにあふれていて、どんな時にも笑いをもらえる作品です。
また、プレッシャーや不安の多い人生の中で、自分自身を見つめる大切さともっと気楽に生きて良いのだよと語りかけてくれる作品でもあります。
「精神科医・伊良部シリーズ」の中でも『空中ブランコ』はさすが直木賞受賞作だけあり、特におすすめの傑作だと思いました。
毎回決まった展開による安心感
毎回決まったストーリー展開が繰り返されるのですが、飽きることはなく、それが安心感につながっています。
「次の注射はどんな方法で打たれるのだろうか?」「今回のマユミちゃんの服装はどうかな?」とワクワクしている自分がいます。
心の病自体は難解で重くなりがちなテーマですが、作者のコメディタッチの文章や主人公の奇妙奇天烈な行動で毎回明るい雰囲気に仕上がっているのが特徴です。
内容としては現実離れしたファンタジー小説のようでありながらも、病院の神経科というリアルな要素と混じりあうことにより、医療ものとしても読み応えのある作品に仕上がっています。
特に笑いという意味では、「義父のヅラ」という短編がおすすめです。
主人公のキャラクターが最高
何と言ってもこの小説は伊良部先生のキャラクターが抜きんでています。
30代半ば、外見は色白のデブ、大病院の跡取り息子で、どんな時も飄々と常識の範囲外で生きている伊良部先生に、笑わされるとともにとても癒されます。
時折、子どものように無邪気に患者の病の核を突くような鋭いことを指摘することもあり、変人だけど憎めない伊良部先生。
「伊良部シリーズ」の他の本も読みたくなること請け合いです。
スッキリとした気分になれる小説
誰しもが些細なことを気にしてしまったり、それをきっかけに沈んだり、心を病んでしまうことはあるのではないでしょうか。
この小説に出てくる患者達の悩みは、理解できたり、共感できたりするものがほとんどです。
悩みに関する記述を読んでいると、一緒につらくなってしまうこともあります。
でも話を読み終わった時には、なぜか患者達と同じように自分も少し肩の力が抜け、リラックスした気分になっているのです。
作者の筆力のなせる業でしょう。
スッキリしたい時に何回も読み返したい本です。
『空中ブランコ』はどんな人におすすめ?
『空中ブランコ』は、特に以下のような人におすすめしたい小説です。
- 少し疲れたり、落ち込んでいる人
- 笑いが欲しい人
- 忙しく普段あまり本を読まない人
神経科の話なので、心の苦悩や葛藤といった重いテーマを描いていると思われそうですが、『空中ブランコ』はコメディで、読後感抜群の小説となっています。
主人公のキャラクターが秀逸で、ストーリーもテンポよく、思わず声に出して笑ってしまうレベルの面白さ。
仕事や人間関係などで少し疲れていたり、落ち込んでいたりする人は、『空中ブランコ』を読んで笑ってみると元気が出るかもしれません。
ストーリー1つ1つは短く、軽妙な文体でサラッと読めてしまうので、忙しい人や長編小説が苦手な人にもおすすめです。
電車の通勤時間などのスキマ時間でも、気軽に手に取ることができますよ。
おわりに|『空中ブランコ』は面白くて元気をもらえる娯楽作品
本作は、心が晴れるような爽快で温かい読後感が特徴の娯楽作品となっています。
現代人は生活が忙しく複雑になった分、様々な悩みに直面したり、精神的に追い詰められたりしたことが誰しも一度はあるのではないでしょうか。
話を聞いて悩みを吐き出させてくれ、最終的に本当の自分を見つめる大切さに気付かせてくれる伊良部先生は、周囲を振り回しながらも実は優秀な医者なのかもしれませんね。
ちょっとしたきっかけで、心が軽くなることもあるんだよとメッセージを送ってくれる作品です。
ぜひたくさんの人に手に取ってもらえると嬉しいです。
著:奥田 英朗
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