辻村深月さんといえば、10代の若者の心理描写が得意なことで知られていますが、今回紹介する「朝が来る」は不妊治療の末に特別養子縁組で養親になった夫婦、そしてその養子の実母である中学生が登場する社会派の小説です。
不妊、特別養子縁組、中学生による妊娠と出産など、社会問題を扱っている重いテーマの小説ですが、辻村深月さんならではの研ぎ澄まされた文章が物語にちりばめられています。
著:辻村 深月
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『朝が来る』あらすじ
ストーリーは第一章、第二章、第三章からなる三部構成です。
第一章の冒頭は主人公である栗原佐都子の家にかかってきた一本の電話からはじまります。
電話の主は片倉ひかりという名前を名乗りました。
それは、6年前に佐都子と夫の清和が不妊治療の末に特別養子縁組でひきとり育てている現在6歳になる朝斗の生みの母親の名前でした。
そして「子供を返してほしい」と言い、「嫌ならお金を用意してください」と脅迫してくるのでした。
そして数日後、とうとうひかりが佐都子の住むマンションにやってきて、、。
不妊治療という長いトンネル
第二章は、第一章よりも時間が遡ります。
それまで、結婚はしたものの、子どものことは自然のなりゆきにまかせていたキャリアウーマンの佐都子が、35歳になり実母からせかされたこともあり不妊治療を開始するところからはじまります。
しかし、治療を開始すればすぐに妊娠すると思っていたものの、実際は長く険しい、しかも出口のみえないトンネルでした。
長期の不妊治療の末、佐都子と夫はついに子どもをあきらめる決断をします。
そして、二人は特別養子縁組の民間団体「ベビーバトン」で片倉ひかりから赤ちゃんを引き取ります。
望まない妊娠した中学生、人生の葛藤
後半は、中学生の片倉ひかりが、同級生の巧とつきあい、やがて彼の子を妊娠します。
すでに中絶できる期間を過ぎてしまい、極秘に出産し、ひかりの子は養子に出される話が彼女の意思以外ところで決められます。
出産した子を養子に出した後、ひかりは中学に戻りますが、巧は新しい恋人ができています。
家庭にも学校にも居場所がなくなったひかりは、とうとう家出をします。
その後、新聞配達の仕事をはじめるのですが、思わぬ事件に巻き込まれてしまい、窮地に陥ります。
そして、そのことが理由でひかりは、佐都子の住むマンションに向かうのでした。
幅広い世代に読んでもらいたい小説
不妊治療、特別養子縁組、中学生による妊娠、出産、望んでも妊娠できない女性、、言葉だけならべれば非常に重いテーマを扱っている小説です。
が、物語の根幹に「家族」というキーワードを敷いているため、絶望感のようなものはなく、次のページに希望が待っているのではないかと思わせる作者の描写力があります。
また、不妊治療はもちろん特別養子縁組についても綿密に取材されていて、非常に説得力のあるリアリティさも小説の魅力となっています。
この小説を読んでいると、まるで親戚や友人の子が同じような年齢で妊娠してしまったかのような感覚になってきます。
また、もし自分がひかりの立場だったらどうするか、そしてひかりの親の立場だったら我が子にどのように接してあげられるだろうかなど、考えさせられてしまいます。
それくらい、この物語が扱っている題材が、現実にいつでもありえるテーマであり、そしてそう感じさせる世界観が徹底されています。
ひかりの両親はそろって教師で厳格であり、それゆえにひかりに自分たちの理想をおしつけたことで、そのことに反発を覚えていたため、ひかりはわざとのように巧と肉体関係をもち、結果妊娠してしまいました。
最初の印象は、母親と娘の関係がうまくいっていなく、そのために中学生にして望まない妊娠、出産にいたってしまったように思いましたが、何度か小説を読み返してみると、それこそ、どこの家庭環境でもおこりうることだと今思います。
ひかりの家庭環境は決して粗悪なものではなく、むしろ何不自由なく育った少女が、ほんのわずかなずれから、それがひびとなりやがて窮地においやられてしまったこと、そのことを深く考えさせられます。
佐都子の立場もそうですが、子どもができない娘をもったらどうするか、もし自分たちの子が特別養子縁組で自分たちとは血のつながらない孫ができることになったら、、という思いにもなります。
主人公たちの、そして主人公の親世代にもきっと幅広く受け入れられるおすすめの1冊です。
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