「カップラーメンなんかを食べるわけがない」
天才の殺し屋は「恐妻家」でした。
日中は文房具店で働いているが、実は天才的な「殺し屋」。
そんな殺し屋兜は、家族を持ったことによって「殺し屋」ということに罪悪感を抱き始めます。
しかし、辞めれば家族も殺されてしまいます。
そして、兜が家族を守るためにとった行動とは…
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『AX』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | AX |
著者 | 伊坂幸太郎 |
出版社 | 角川書店 |
出版日 | 2017年7月28日 |
ジャンル | 殺し屋小説 |
伊坂幸太郎さんの殺し屋シリーズ3作品目となる『AX』。
前作『グラスホッパー』『マリアビートル』同様、殺し屋たちの息もつかぬ展開が今回も繰り広げられます。
今回の『AX』では「家族」がテーマ。
殺し屋であるにもかかわらず、家庭を持つ兜は人を殺すということに対して罪悪感を覚え始めます。
「家族」と「殺し屋」の狭間に閉ざされた兜の結末とは?
『AX』のあらすじ
2018年本屋大賞ノミネート作品。
伊坂幸太郎ワールド全開の一作です。
主人公は天才殺し屋兜。
読み進めるたびにどんどん引き込まれること間違いないでしょう。
そして、兜を待ち受けるクライマックスとは?!
天才殺し屋は恐妻家だった
同僚や息子にも心配されるほどの恐妻家である兜。
常に妻の機嫌を伺いながら過ごしています。
例えば、仕事が終わりに深夜に帰宅してからも、カップラーメンではなく魚肉ソーセージを食べます。
理由は一つ、ラーメンを開ける音がうるさくて妻を起こしてしまうから。
また、常に妻の発する言葉の雰囲気からも機嫌を伺い、妻専用の過去問でもあるかの様に、最適な回答を過去の経験から自分の言動を必死に選択しています。
そのため、本業よりも家の方が神経を使っていることに、兜自身も悩みながら生活している
のです。
医師と手術
殺し屋である以上やはり公には知られてはいけません。
なので殺し屋はさまざまな形で仕事の仲介をしています。
兜は病院にて医師から仕事内容を聞かされます。
つまり、その医師も同業者。
一般患者のカルテの中に混ざって、標的となる人物の詳細が書かれたカルテが隠されています。
兜は「仕事をやめたい」と伝えますが、医師は「退院するにはお金が必要です」と言われてしまい、辞めることができません。
同業者との遭遇
なかなか辞めることができない兜はある依頼を受けます。
それは、同じ同業者が辞めるということで、そいつを殺してほしいということでありました。
「これをやれば、辞められる」
と初めて医師に言われ仕事を引き受けますが、実はその同業者も兜と同じく家族がいたのです。
気持ちが痛いほど分かる上、その同業者も兜を標的としていました。
しかし、これは医師が仕掛けた罠だったのです。
苦渋の決断を迫られた兜でしたが、結末、その同業者を見逃したのです。
克巳が父の自殺の真実突き止めるが…
その後、兜はなんの前触れもなく自殺しました。
あんなに家族のことを思っていたはずなのに…
兜の自殺から10年。
兜が死んだあと、残された妻は精神科に通うほど精神的に参ってしまっていました。
息子の克己も精神的にダメージを受けていましたが、母を支えるためになんとか悲しみから耐えていました。
そして、克己に子どもができたことがきっかけに、母も回復していきました。
ある日、克己が父の「診察券」を発見し、父は家族に隠して病気に苦しんでいたのでは?と思いその病院を訪れことに。
そしてついに、あの医師と出会うことになったのです。
この先の結末は実際に手にとって確認してほしいと思います。
『AX』を読んだ感想
まさか、涙が止まらなくなってしまうとは。
中盤は、兜が家にできたスズメバチの巣を宇宙飛行士のような格好で駆除するシーンや、常に妻の言動や顔色を伺いビクビクしているシーンにはつい笑ってしまいます。
しかし、だんだん終わりに近づくにつれて兜の家族への思いが溢れ出していきます。
兜は自殺をします。家族はなぜ父親が「自殺」を選んだのか見当もつきません。
しかし、それが唯一、家族を救う手段だったのです。
詳しくは実際に本を読んでほしいですが、このシーンは胸が締め付けられてしまいます。
そして、気がつけば自然と涙が溢れ出ていました。
殺し屋なのに応援してしまう。
「殺し屋」という絶対に許してはいけない職業であるにもかかわらず、ついつい応援してしまいます。
ページをめくるたびに親近感が湧いて来て、最後には兜の虜になってしまうことでしょう。
なんと言っても格闘シーン
妻には常に怯えている兜ですが、やはり天才殺し屋。
長年培った経験、身のこなしからまさに抜け目がありません。
何よりも、細かな手の動きや息遣いの描写から、今まさに目の前で格闘が行われているのではないかと錯覚してしまいます。
『AX』に限らず『グラスホッパー』『マリヤビートル』でも同様、伊坂幸太郎さんの格闘シーンの描写で右に出るものはいないでしょう。
兜の決断
兜は確かに恐妻家です。しかし、妻と別れようと思ったことは一度もありません。
その証拠に作中、所々に兜の家族愛が見え隠れしています。
そして、何故恐妻家であるかも納得させられるラストが待っていました。
むしろ恐妻家というよりも、妻思いの優しい夫と言った方がしっくりきます。
決して妻や息子を傷つけないという思いと、実は兜は家族が自分から離れてしまうのが怖かったのではないかと私は考察しました。
実際に克己が父の母に対する行動についてまとめられたノートが出てくるのですが、そこで兜の離れてほしくないという必死さを感じ、思わずジーンときてしまいます。
『AX』はどんな人におすすめ?
恐妻家ということばかり書いていますが、仕事では一目も二目も置かれるプロ殺し屋です。
なのでアクションシーンはなんと言っても見どころです。
時にクスッと笑ってしまうようなシーンもあり、まさに幅広い人におすすめできます!
特に
- 家族愛を感じたい人
- スリルを味わいたい人
- アクションが好きな人
にはぜひ読んでもらいたいです。
きっと伊坂ワールドの虜になることでしょう。
おわりに|「殺し屋」が家族がいることの素晴らしさを教えてくれる。
「殺し屋」という決して善とは言えない業種の人間が家族を必死に守る姿にはどこか違和感を覚えますが、この小説は全く違和感を感じません。
人を殺しているのに自分ばかり生きて家族を持つなんて許されるわけがない。
そのことに兜はずっと悩んでいました。そして苦しめられていました。
兜は決して良い家庭環境に育ったわけではありません。その兜が父親になって「家族を守りたい」と真剣に立ち向かう姿には、やはり妻の存在が大きかったのではないでしょうか。
この作品は「殺し屋」と「家族」という相反するものが題材になっています。
同時に私は「生」と「死」を意味しているのではないかと思いました。
ぜひこの『AX』を読んでほしいのと同時に、他の『グラスホッパー』『マリアビートル』も合わせて読んでほしいです。
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