本書は「絶望している人を本当に救うのは真に絶望した人の言葉である」という考えに基づいて編まれています。
ポジティブな文章や名言は世の中にたくさんあり、そういった言葉に励まされ、前を向けることは多いでしょう。
しかし、どん底まで落ち込んだとき、それらの言葉が眩しすぎてつらいと思ったことはありませんか?
逆に、落ち込んでいる人の言葉で、凹んだ自分も丸ごと肯定してもらったような心持ちになったことはないでしょうか?
『変身』などの名作を著したフランツ・カフカですが、彼が手紙や日記の中に残した言葉たちはまさに絶望的。
本書には、人生に疲れたときこそ読みたい、絶望名人の多くの名言が詰まっています。
著:フランツ・カフカ, その他:頭木弘樹
¥616 (2024/09/27 02:47時点 | Amazon調べ)
ポチップ
タップできるもくじ
『絶望名人カフカの人生論』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 絶望名人カフカの人生論 |
著者 | フランツ・カフカ (著) 頭木弘樹 (編訳) |
出版社 | 飛鳥新社 |
出版日 | 2011年10月22日 |
ジャンル | 名言集 |
本書は、訳者であり編者でもある頭木氏が潰瘍性大腸炎で13年にわたる闘病生活を送っていた際、フランツ・カフカの言葉が救いとなった経験から世に出されました。
シリーズ第2弾となる『希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話』や、本書をコミカライズした『マンガで読む絶望名人カフカの人生論』も刊行されています。
誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはき、誰よりも前に進もうとしなかった男の言葉が詰め込まれた、唯一無二の名言集です。
『絶望名人カフカの人生論』のあらすじ
本書はカフカが残したさまざまな言葉を、何に絶望したか、「将来」「世の中」「自分」「親」「仕事」「結婚」などのカテゴリーに分けて提示・解説しています。
「カフカの名言+編者の解説」で見開き1ページというのが基本の構成です。
名言の翻訳は真意を損なわない範囲でシンプルになされており、解説も非常にわかりやすく奥深いものとなっています。
倒れたままでいること
将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。
将来にむかってつまづくこと、これはできます。
いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。
これは、第一章における第1の名言です。
そして解説によるとこれは、結婚を申し込んでいた女性へのラブレターの一節なのです。
仰天し、思わず笑い、私がこの本を傑作だと確信した最も印象的な名言でもあります。
あらゆる困難がぼくを打ち砕く
そして第一章における第2の名言がこれです。
バルザックの散歩用ステッキの握りには、
「私はあらゆる困難を打ち砕く」と刻まれていたという。
ぼくの杖には、「あらゆる困難がぼくを打ち砕く」とある。
共通しているのは、「あらゆる」というところだけだ。
バルザックとは十九世紀を代表する小説家のこと。
翻訳の秀逸さも相まって、こちらもかなりいい味を醸し出している名言です。
ひとりでいれば何事も起こらない
もうひとつ、第二章における第1の名言を引用します。
ぼくはひとりで部屋にいなければならない。
床の上に寝ていればベッドから落ちることがないのと同じように、
ひとりでいれば何事も起こらない。
カフカとしてはお馴染みの、ひきこもり発言です。
コロナ渦で、この名言に共感する人は少なくないでしょう。
「床の上に寝ていればベッドから落ちない」というたとえも秀逸です。
しかし解説に書かれているように、何事も起こらないということは、不幸だけでなく幸せなことも起こらないということに違いありません。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この調子で、カフカの絶望名言は合計86にも及びます。
すべてネガティブで弱気で後ろ向きな、絶望名言と呼ぶにふさわしいものばかりです。
『絶望名人カフカの人生論』を読んだ感想
私は本書を読んで、真に絶望している人の言葉はある種のポジティブなパワーを持っていると確信しました。
しばしば笑わせてくれさえするのです。
どん底の真っ暗な中にいる人の言葉なのに、不思議なことに。
尋常ならざる絶望がくれるもの
カフカの絶望の仕方といったら半端なく、まさに完膚なきまでに叩きのめされています。
何があったらそんなに落ち込めるのかと思うほどです。
でも、希望や感動に彩られた言葉を目にして「そんなふうにポジティブになれるなら苦労しない」と感じたことがある人にとっては、より共感できる言葉たちなのではないでしょうか。
その理由は、編者も言っているように、「自分の気持ちに寄り添ってくれている」と感じることができるからではないかと思います。
カフカの絶望と読者の暗い部分が共鳴するのかもしれません。
ネガポジ・パワーとでもいうべきものを、本書の絶望的な言葉の数々からは受け取ることができるのです。
希望の言葉の先に待ち受ける絶望のオチ
表紙を開き、真っ黒なページを一枚捲った先に、何の前触れもなく現れる文章があります。
すべてお終いのように見えるときでも、
まだまだ新しい力が湧き出てくる。
それこそ、おまえが生きている証なのだ。
何とも力強くポジティブな言葉ですよね。
しかし、そのページをもう一枚捲ると現れるのはこんな文章。
もし、そういう力が湧いてこないなら、
そのときは、すべてお終いだ。
もうこれまで。
かつてカフカの名言といわれていたものには明るく希望的なものも多かったそうです。
しかし、それは明るい側面だけ切り取っていたに過ぎず、その後には絶望のオチが待っていた・・・というわけです。
この絶妙な絶望のオチこそがカフカの素晴らしさであり、より傷ついた心に寄り添ってくれる部分。
だからこそ、本書を開いてすぐのところにこの文章をこの形で提示したのでしょう。
何ともニクイ演出です。
絶望名人がたったひとつ絶望しなかったこと
本書の最後、第86の名言として綴られているのはこのような言葉です。
ぼくは今、結核に助けを借りています。
たとえば子供が母親のスカートをつかむように、
大きな支えを。
カフカのことをまったく知らない人が見たら意味がわからないかもしれません。
しかし、カフカと編者の言葉にぐいぐい引っ張られてこの言葉に辿り着いた人には明白な事実。
それは、彼が病気には絶望していなかった、ということです。
はじめに喀血したときカフカは、「これでようやく眠れる」と感じています。
病気によって結婚や仕事など、思い煩っていたさまざまなことから解放されたようでもありました。
仲が良かった妹などは「神様が兄にこの病気を贈ってくれた」と言っていたそう。
心を病んで絶望していたカフカにとって、身体の病気はある種の救済だったのかもしれません。
そんなカフカの言葉だからこそ、心を病んで真っ暗な中にいる人に真に寄り添うのだろうと、最後にまた痛感させられます。
『絶望名人カフカの人生論』はどんな人におすすめ?
大ベストセラーとなるべき傑作であると思っている私にとって、1度でも落ち込んだことがあるすべての方に読んでいただきたい作品です。
特に以下のような方はぜひとも手に取ってみてください。
- 人生に疲れて、ひどく落ち込んでいる
- 本を読む気力すらない
- 真の絶望とはどんなものなのかを知りたい
- 明るい言葉や文章に食傷気味だ
何もする気になれないくらい落ち込み、本を読む気力すら湧かない時でも、本書ならちょっと眺めるだけで大丈夫です。
それすら難しいというときは、マンガ版もあります。
もはや文字を目にするのもつらいという場合は、NHK「ラジオ深夜便」で月に1度放送されている『絶望名言』を聴いてみるのもおすすめです。
おわりに|どん底まで落ち込んだときに心に届く言葉たち
私自身、どん底まで落ち込み、人生に疲れ果ててしまった経験があります。
そんなときに出会ったのが本書で、読んで心からほっとしました。
自分がどん底にいるにも関わらず「ここまでネガティブにならなくても」などと思ってくすっと笑えてくるのです。
心が参っている人に「頑張れ」と言うのは良くないと聞きますが、それは本当にそのとおりではないかな、と思います。
しかし、世の中にたくさんある名言は、ニュアンスは多少違えど「頑張れ」の無言の圧力を含むものが大半ではないでしょうか。
失恋したときに失恋ソングを選ぶように、絶望したときには絶望の言葉を選んでみてください。
きっと救われるものがあります。
著:フランツ・カフカ, その他:頭木弘樹
¥616 (2024/09/27 02:47時点 | Amazon調べ)
ポチップ
コメント