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『82年生まれ、キム・ジヨン』感想|ある女性の人生をなぞることで浮かび上がる数々の違和感と失望感

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平凡な家庭に生まれ育ったある女性の半生が描かれた本書は韓国でベストセラーとなりました。

その反響は韓国国内だけにとどまらず世界中で共感を呼び、物議を醸し出しています。

読者は読み進める中で、人生の様々な面において「女性として生きていく」ことの息苦しさ、理不尽さ、やるせなさをひしひしと感じざるを得ません。

社会全体の課題としてジェンダーの平等が叫ばれて久しいですが、日本でもまだまだ平等が達成できたとは言い難い現状が続いています。

男性も女性も本書を読めばジェンダーについて改めて考えるきっかけになると思います。

著:チョ・ナムジュ, 翻訳:斎藤真理子
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『82年生まれ、キム・ジヨン』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル82年生まれ、キム・ジヨン
著者チョ・ナムジュ
出版社筑摩書房
出版日2018年12月7日
ジャンル外国文学

2017年8月に第41回今日の作家賞を受賞した本書は、韓国の作家チョ・ナムジュさんの作品です。

韓国では大ベストセラーとなり、本書の読者であることを公表したアイドルが炎上するほど大きな反響を呼んでいます。

世界各国でも翻訳され、昨年は映画化もされました。

『82年生まれ、キム・ジヨン』のあらすじ

韓国の平凡な家庭に生まれ育ったキム・ジヨンは大学卒業後就職、数年働いた後に結婚し、妊娠出産をきっかけに退職して専業主婦になります。

一見順風満帆な人生を送っているように見えたキム・ジヨンは一歳の娘の育児中のある日、精神を病んでしまい、自分の母親や友人が乗り移ったような言動を見せます。

夫とともに訪れた精神科で彼女の人生を振り返るのですが、その中で今まで彼女が経験してきた様々な「女性であるが故」の生きづらさが浮かび上がってきます。

家庭内での違和感

キム・ジヨンが産まれた時代、韓国では子どもは「男の子」を期待されていました。

キム・ジヨンには姉がと弟がいましたが、食事も部屋も生活においてあらゆる面で全て弟が優先です。

弟は「まだ小さい」んだから譲ってあげなければいけないと母に言い聞かせられますが、キム・ジヨンもその姉も次第にそれは「男の子」だからだということに気づいていきます。

見えない壁

大学に進学し、就職活動を始めたときにキム・ジヨンは友人の一言がきっかけであることに気が付きます。

キム・ジヨンが参加した就職説明会の先輩に女性が全くいなかったのです。

実際に参加した面接では「女があんまり賢いと会社がもて余す」とまで言われてしまいました。

案の定キム・ジヨンは同じ大学の男子学生よりもかなり苦戦を強いられました。

選択肢のない選択

社会人になり仕事を楽しんでいたキム・ジヨンでしたが、結婚を機に人生の転換期を迎えます。

結婚後しばらくすると夫が子どもを持つことを提案しました。

夫婦での話し合いの結果、夫が働き妻が子育てをするのが一般的であるし、出産後はキム・ジヨンが退職してしばらく子育てに専念するしかないという結論になりました。

努力して得た仕事を手放すことは憂鬱ではありましたが、キム・ジヨンは専業主婦になりました。

そんなある日、娘と散歩をしていると近くにいたサラリーマンが専業主婦を揶揄する心無い言葉を発していることに気づき、精神を病んでしまいます。

『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだ感想

世界で反響を呼んでいる本は日本の書店でもたくさん平積みされているのを見かけた方もいるかもしれません。

女性として生きてきた私は本書のテーマに興味を持ち、読むことにしました。

日本も同じではないか

初めに感じたのは韓国は日本よりも男尊女卑な社会だということでした。

今から約40年前の時点で出生前から男子が優先される社会というのは衝撃的でした。

しかし読み進めていくにつれ、これは日本に住む私たちも同じではないかと思えるようなエピソードがどんどん出てきて、非常に共感を覚えるようになっていきました。

それぞれの状況に応じて共感する箇所がある

おそらくこれを読む女性それぞれが置かれた環境によって必ず共感できるような箇所があると思います。

私は結婚出産にあたっての部分は現在同じような理由で専業主婦をしているので以下の台詞が強く心に残り、何とも言えないやるせなさを感じました。

「死ぬほど痛い思いをして赤ちゃん産んで、私の生活も、仕事も、夢も捨てて、自分の人生や私自身のことはほったらかしにして子どもを育てているのに、虫だって。害虫なんだって。私、どうすればいい?」

専業主婦として子育てするまでには様々な葛藤や諦めざるを得ないことも多々あったはずなのに、ただ働いていないというだけで心無い言葉を耳にしてしまったキム・ジヨンは心を壊してしまうのも当然ではと感じました。

終わりの不気味さ

最後はキム・ジヨンと夫が訪ねて行った精神科の独白で終わるのですが、ここが本当に恐ろしいです。

ホラーではないのに、背筋が寒くなる思いがしました。

多くの共感やもどかしさをたくさん抱えて最終章にたどり着いた読者は、この精神科医の独白で私たちが生きている現実をさらに思い知らされるのだと思います。

『82年生まれ、キム・ジヨン』はどんな人におすすめ?

私が『82年生まれ、キム・ジヨン』をおすすめしたいのはこんな方です。

  • ジェンダーの問題に関心のない方
  • 子育て中で特に娘がいる男性
  • 普段あまり読書をしない方

本書はジェンダー問題に関心のある方はもちろん手に取られると思いますが、ない方もぜひ読んでいただきたい作品です。

女性はどこかで共感を、男性は今までわからなかった女性側から見た人生を感じることができると思います。

また、特に娘がいる男性におすすめします。

単なる他人事ではなく自分の娘が生きていく社会として読むことができるので、多くのことを考えるきっかけになるでしょう。

小説というよりは起こったことを淡々を書いているので非常に読みやすく、普段読書をしない方でも気軽に読み進められると思います。

おわりに

本書が世界各国で読まれているのは、誰もがどこかしら共感できる部分があるからではないと思います。

本書では、普段は特に意識することもないような社会や生活に染みついている違和感が数多く浮き彫りにされました。

しかしその違和感に気づけたとしても、待っている現実は最終章にあります。

なかなか救いがない小説ではありますが、現代を生きる私たちが目を背けてはいけないテーマであることは確かだと思います。

性別を問わず現代を生きる多くのが人が読むべき本ではないかと感じました。

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