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『みずうみ』感想|傷ついた魂を再生させるためにふたりは歩き出す

生きることの孤独さ、寂しさ、そして他人と関わることのあたたかさ。

この本は存在をもってしてそのことを伝えてくれます。

心に傷を持つ登場人物たちの生き方、話、そのなかに見えてくる吉本ばななが言いたいこと……。

どうしようもなく孤独である人間の人生というものを、ゆたかにする方法をこの本は知っているのです。

登場人物たちがその頼りない体で支える過去の傷はそう簡単に癒えるものではありません。

けれど、それをどうにかしようと努めたとき、きっとなにかが起きるのでしょう。

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『みずうみ』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトルみずうみ
著者よしもとばなな
出版社新潮社
出版日2007年11月27日
ジャンルやさしい恋愛小説

過去に縛られながらも、前に進もうと奮起するふたりの男女のお話です。

人生とは孤独で哀しく、そしていくらでもゆたかにできるということをやさしく教えてくれます。

登場人物の背景は重たいのにどこか澄んだ水のように美しい、そんな小説でした。

『みずうみ』のあらすじ

田舎で私生児として生まれ育ってきた語り手のちひろは、斜め向かいに住んでいる中島という男性と、あるときから顔見知りになります。

不思議なひとである中島はちひろの部屋に入り浸り、間もなく半同棲生活が始まりました。

先日ママが亡くなったばかりのちひろ。

過去の事件ゆえに他人との関わりを避けて生きている中島。

ふたりは互いのこわれた心を再生させるため、手を取り合い生きることを決めました。

懸命に息をして生きるひとたち

ちひろは、田舎の町で貿易商の社長であるパパとホステスのママとの間に生まれた、私生児でした。

そのママが亡くなりしばらくしたところから物語は始まります。

芸術大学を出たちひろは売れない壁画職人として、いろんなところで絵を描いていました。

幼児教室でピアノの先生をしている元同級生のさゆりから、幼児教室の敷地内にある壁に描く仕事の話をされたちひろは承諾し、そこに絵を描くことを決めました。

そしてそんなちひろと半同棲をしている中島という男性は、とても不思議なひとです。

手首が棒っきれみたいに細くて、ほっぺたが子供みたいにぷくりしていて、さらさらな髪の向こうに細い目と長いまつ毛がある、ちひろに言わせると中島の外見はそうでした。

勉強が得意で現役医学生である中島は、過去のとある事件により心がこわれてしまっています。

そのこわれた心を再生させるには、ちひろと共に友人であるミノとチイという兄妹に会いに行かなければなりませんでした。

果たして、その地で心の再生はされるのか、ミノとチイは何者なのか、ご自身の目で確かめてもらえたらと思います。

すすむ、壁画とふたりの時間

ちひろが受けた壁画の仕事は、とても順調に進みます。

幸せなときも不幸せなときもある、そんな空間を描いたすてきな壁画は子どもたちに見守られながら出来上がりました。

完成した壁画を、ちひろと中島は並んで見ます。

ママを亡くしたちひろ、幼いころの事件に心をこわされた中島、美しいみずうみのそばでゆっくり過ごす兄妹、それぞれの時間はその壁画のようにすてきに動き出しました。

家族、愛、他人

過去のとある事件から解放された少年時代の中島を、実の母親はたくさんの愛情をもって育てました。

そのとある事件のあいだ、中島と母親は離れ離れになっていたので、母親の気持ちを思うと当然のことでしょう。

けれどそのせいで大人になった中島は、離れ離れになっていた期間とその後母親から与えられたたくさんの愛情により、バランスを崩しいびつに形成されてしまいました。

その崩れたバランスはちひろとの出会いやミノとチイ兄妹との再会で再形成されていくのでした。

『みずうみ』を読んだ感想

魂の再生、それはひとりでは決して行えないことです。

だれかと共に手を繋ぎ、干渉し合い尊重し合い、そうしてようやく成せることです。

生きることがこんなに孤独で哀しいものだと訴えかけてくるのに、読了後にはなぜか晴れ晴れした気持ちになる、そんな本でした。

あたりまえに感じるむずかしいこと

自殺を考えるほど苦しい生き方をしている人(ここでは中島)に対して、ちひろはこう語ります。

自分にはそんなに深い心の傷がないので、過去に大変なことがあった人の気持ちが全然わからないのだった。

わかると思ったらだめだろう。

わからないと思うものはわからないと思うのが、そういう人に対する誠意だろうと思う。

また、

彼はちゃんと合理的に自分淋しさと向き合ってきたのだから。

泣いたりするのはそういう彼に対する侮辱だ、そう思ったのだ。

などということも言いました。

ちひろはとても他人を尊重できる人で、だからこそ心に深い傷がある中島でさえこの人なら一緒にいられる、そう感じたのでしょう。

なにも尽くすことだけが愛情ではない、ちひろ単体ではなく物語全体がそう語っているようにも思えました。

すべてが薄氷の向こうに

儚い、そんな表現が一番似合う文章でしょう。

著者である吉本ばななの表現方法または文章なのですが、こと『みずうみ』という作品においてはその作風と世界観とのリンクが激しいように感じました。

江國香織の『ウエハースの椅子』などを彷彿とさせるものがあります。

薄いヴェール、薄氷の向こう、でもすぐ近くで、登場人物たちが生きていることを確かめることができるような、そんな掴みどころのない距離感が本作品の特徴のひとつです。

土台はなんでも

たとえば中島の人生の土台は、過去のとある事件でした。

ちひろの人生の土台と言えば、幼いながらにママのクラブに入り浸っていたことです。

ちひろは、人生の土台がなんであれやり直すことやその上にしっかりとした建物を作ることは可能だと言います。

言うは易しでしょうが、ちひろと中島のふたりならばきっと大丈夫だと、私たちは安心してふたりを未来へ送り出せる気がしました。

『みずうみ』はどんな人におすすめ?

ちひろや中島、兄妹といったようにどこか心に穴があいている登場人物たちですが、きっとそのような人は現実世界にもたくさんいることと思います。

そんな人たちにこそ、この作品の登場人物を身近に感じてもらいたいです。

大小あれど心に傷や穴がある現代人たちにとって、とても大切な存在になるでしょう。

そのなかでも特におすすめしたい人は、

  • 心に傷や穴があると感じる人
  • 過去にトラウマがある人
  • 冷たくもあたたかい本が読みたい人

などです。

おわりに|ふたりが歩いた先にあるもの、それは救いなのか

ちひろは壁画を通じて、自分の心の穴や、中島や兄妹の傷を癒すことができたのでしょうか。

それは一度読んでみないとどうにもわからないことです。

癒したことで中島や兄妹が救われたのかどうか、それに限っては本人たちでさえも知り得ないことかもしれません。

けれどきっと、中島も兄妹も、そしてちひろも、人生は前よりもゆたかになったことと思います。

心に穴があると感じたならば、手に取ってみて損はないかもしれませんね。

きっとあなたの魂も再生してくれることでしょう。

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