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『ナイルに死す』感想|ナイル河をさかのぼる船上で起こる豪華絢爛の船上ミステリー

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エルキュール・ポアロはひとり呟いた。

「男を愛している女と、女に愛させている男。さあて、どうかな?私も心配だ」

今回ご紹介するのは、ミステリの女王、アガサ・クリスティーが生んだ名探偵・エルキュールポアロが活躍する豪華な旅情ミステリー。

物語の舞台はエジプト・ナイル河をさかのぼる豪華客船船上。

船に偶然乗り合わせたポアロが独自の視点から事件の真相に挑みます!

船上というクローズドサークルの本格ミステリーでありながら、乗り合わせた男女の人間ドラマがたっぷりと描かれているヒューマンドラマとしても楽しむことのできる作品。

物語の中でのエジプトの描写はとても美しく、まるでナイル河の船上を旅しているような気分が味わえます。

著:アガサ・クリスティー, 著:加島 祥造, 翻訳:祥造, 加島
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『ナイルに死す』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトルナイルに死す
著者アガサ・クリスティー
出版社早川書房
出版日2003年10月15日
ジャンル海外ミステリー

本作は1937年に発表された、名探偵ポアロシリーズの15作目です。

総ページは573ページというボリュームで、アガサ・クリスティー作品の中でもかなりの長編作品。

本作はアガサ・クリスティー自身がエジプト旅行から帰ってすぐに書き上げた作品で、海外を舞台にした自らの作品の中でもベストの出来だと自賛しており、特に思い入れのある作品のように感じられます。

『ナイルに死す』のあらすじ

エジプト・ナイル河をさかのぼる豪華客船で繰り広げられる船上ミステリー。

アガサ・クリスティーの作品の中でも、最もゴージャスな物語といえるでしょう。

本作は豪華で壮大なミステリーであると共に、素晴らしい人間ドラマでもあります。

船に乗り合わせた個性的な船客たちに、どのような展開が待ち受けているのか?

ナイル河の流れのようにゆったりと進む物語の世界へご案内します。

物語の始まりはドロドロの三角関係

事の発端となるのは、簡単にいうと男女の三角関係。

ジャクリーンという女性が婚約者のサイモンを親友のリネットに紹介したところ、リネットがサイモンに惚れてしまい略奪して結婚をしてしまうのです。

リネットは社交界で有名な若く美しい資産家で何もかも手に入れてきた女性である一方で、サイモンは貧乏な上に特に何の才能も持たないような平凡な男。

なぜリネットは親友から略奪してまで結婚を決めたのか?

二人の結婚は世間から注目を浴びます。

ジャクリーンにとってサイモンは生涯をかけて愛した男。

親友だったリネットに愛するサイモンを奪われてしまったジャクリーンは嫉妬に狂い、二人を執拗に付け回すようになってしまいます。

そしてついには新婚旅行先のエジプトにまで姿を現し、同じ船に乗り合わせたまま船は出港の時を迎えます。

客船たちのの人間ドラマ

『ナイルに死す』の読みどころの一つとして人間ドラマの描写の素晴らしさがあります。

  • 嫉妬に狂い人が変わったようになってしまったジャクリーン
  • 略奪しておきながら平気な素振りを見せるリネット
  • どっちつかずで掴めないサイモン

この三人の三角関係だけでもすでに濃厚ななストーリーに仕上がっていますが、他の人々の描写も実に丁寧に描かれているのです。

船に乗り合わせた船客は、社交界の貴婦人、弁護士、考古学者、女流作家など様々。

さらに偶然(?)リネットの財産管理人までもが乗り合わせており何やら企みがある様子。

少しずつ全員が怪しく感じてくると、ハラハラが止まりません!

本作は長編でありながら前半の約200ページ程は何も事件が起こらず、船客たちの細やかな人間ドラマが淡々と描かれているのです。

そこまで長いと中だるみしてしまうように感じるかもしれませんが、とてもユーモアに溢れた描写が続き船客たちの正体やキャラクターが徐々にわかっていくので、全く飽きることなく読み進めることができるのです。

ポアロの鋭い人間観察

実はポアロは、ジャクリーンとサイモンがまだ婚約中だった頃、偶然とあるレストランで二人を見かけていたのです。

とても幸福そうでお互いを強く愛し合っていることは一目瞭然でした。

特にジャクリーンは身も心も魂もすべて彼に打ち込んでるという様子で、男を気軽に愛せるようなタイプではないとはっきり感じたのでした。

そしてこの船旅で偶然乗り合わせ、すっかり豹変してしまったジャクリーンの姿を見てとても哀れに思い心を痛めます。

そんな中、リネットは有名な名探偵ポアロが乗り合わせていると知り、ジャクリーンのストーカー行為に悩まされていることをポアロに相談します。

しかし事情を知っているポアロはリネットに厳しくも優しい言葉をかけます。

「あなたはあらゆるものを持っておられた。この人生で人の羨むすべてのものを持っておられた。ところが、あなたのお友達は人生の希望の全てを一人の人間にかけていたんです。あなたはそれを知っておられたし、一時はためらいもされたが、しかし、手を引っこめようとはなさらなかった。そして、聖書の中の金持ちの男のように、手をさしのばして、貧しい者のたった一匹の仔羊を奪ったのです。」

それでも、傲慢なリネットにポアロの言葉は響ききません。

「そんなことはみんな要点からはずれた話ですわ!」

この残酷な三角関係の事情に、ポアロは嫌な予感を感じ始めます。

物語は中盤を過ぎ、ついに殺人事件が発生!

嫌な予感は的中してしまい、ついに立ち上がるポアロ!

しかし、船客一人一人に話を聞き事件の解決に立ち向かっていくと、証言には食い違いあったり明らかに隠し事をしている者がいることも判明したりと、事件は徐々に複雑な方向へと進んでいくのです。

そして、時を空けずに第二の事件が起こってしまうのでした。

『ナイルに死す』を読んだ感想

『ナイルに死す』はミステリーでありながら究極の人間ドラマです。

三角関係が引き金となった物語の結末は、とても切なく哀しいものでした。

舞台のナイル河の描写がより一層エキゾチックな雰囲気を漂わせます。

リネットとジャクリーンという二人の女性

絶世の美女で資産家で勝気ななリネット。

可愛らしくて一途で健気なジャクリーン。

二人は正反対の性格だけれど、お互いに大好きでかけがえのない友人同士でした。

「あたし、彼と結婚できなければ死んでしまうわ。ええ、ほんとに死んでしまうわ」

と、サイモンのことをリネットに話していたジャクリーン。

そこまで愛した男を奪われたジャクリーンの心情を思うととても辛くなりましたし、平気で親友の彼を奪い結婚するリネットの傲慢さには苛立ちを覚えました。

この三角関係が、これほど壮大な物語として仕上がることに驚きました。

伏線とダブルミーニング

アガサ・クリスティーといえば、お得意の伏線とダブルミーニング!

どの作品においても巧みな心理描写の仕掛けは超一流です。

特に本作は事件が起きるまでの物語が長いために、客船たちの些細な会話や行動が重要なっているのです。

ミステリーではありますが、事件前のストーリーに真の面白さが隠されるといっても過言ではない程に素晴らしい仕掛けが隠されていますよ。

中近東のエキゾチックな香りを漂わせて

本作が圧倒的な雰囲気を醸し出すのは、舞台がエジプトであることの影響は間違いないしょう。

三角関係のストーリーも、殺人事件も、ナイル河の船上での出来事ではなかったのなら、ここまで壮大な作品にはならなかったのではないでしょうか。

目に浮かぶようなエキゾチックな描写。

ナイル河の流れのように、ゆったりとした気持ちで読み進める時間は、とても贅沢な気分を味わえました。

実際に、アガサ・クリスティーが訪れたエジプトに思い入れが強いことが読んでいて伝わってきました。

『ナイルに死す』はどんな人におすすめ?

『ナイルに死す』をおすすめしたいのはこのような人です。

  • 非日常な旅情ミステリーを読んでみたい人
  • 海外ミステリーが好きな人
  • 少しドロドロした男女のストーリーが好きな人

アガサ・クリスティーには有名な作品がたくさんありますが、人間ドラマが深く描かれたストーリーが好きな人には特におすすめしたい作品です!

ポアロシリーズを全く読んだことのない人でも問題なく読めますよ。

おわりに|『ナイルに死す』は男女の在り方を考えさせられる極上ミステリー

『ナイルに死す』はミステリーであり究極のロマンスストーリーです。

1937年の作品とは思えないほど、現代に読んでも古さは全く感じさせません。

いつの時代も、男と女というものは変わらないのかもしれない。

そんな風に、男女の在り方というものを改めて考えてみたくなるような作品でした。

そして毎度ながらポアロの人間観察の力には脱帽です。

優しくも厳しい言葉。

本作も素敵な言葉がたくさん溢れていました。

アガサ・クリスティーの描く人間模様、心理描写は深いものがあり、ミステリーなのに読後はどこか切なくなったり哀しくなったりします。

今回の結末も切ない読後感が残りましたが、ラストの締めくくりの言葉がとても素敵で胸が熱くなりました。

この作品を、もっと多くの人に読んでもらいたいと心から思います。

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