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『推し、燃ゆ』感想|「推し」の炎上が少女にもたらす変化とは

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“推しが燃えた。”

そんなセンセーショナルな一文から始まる小説『推し、燃ゆ』。

第164回芥川賞を受賞したことでも話題となったこちらの作品は、「推しの炎上」という現代的なテーマを扱った小説でもあります。

身近な話題である「推し」が、純文学的な文章が描かれた『推し、燃ゆ』ご紹介します。

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『推し、燃ゆ』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル推し、燃ゆ
著者宇佐見りん
出版社河出書房新社
出版日2020年9月30日
ジャンル純文学

本書は、第56回文藝賞を受賞してデビューした作家・宇佐見りんさんの2作目です。

デビュー作の『かか』から雰囲気を一転させ、男性アイドルを応援する女子高生・あかりが主人公になっています。

『推し、燃ゆ』は、生きづらさを抱える主人公・あかりと、「推しの炎上」という現代的なテーマが描かれた作品になっています。

『推し、燃ゆ』のあらすじ

応援しているアイドル(推し)がファンの女性を殴り炎上したことをきっかけに、少しずつ生活が変化していく女子高生・あかりの物語です。

“推しが燃えた。”

男女混合アイドルグループに所属しているアイドル・上野真幸を応援している、女子高生のあかり。

ある寝苦しい夜の日にふと携帯を見ると、〈真幸くんファン殴ったって〉という情報が目に飛び込んできます。

さまざまな憶測や批判が飛び交う中で、あかりはSNSに〈病めるときも健やかなるときも推しを推す〉と書き込みました。

どうして推しているのか

あかりが「推し」である上野真幸と出会ったのは、十二歳の頃です。

当時あかりは四歳で、十二歳の上野真幸がピーターパンを演じる舞台を見に行ったのが、あかりにとっての人生最初の記憶でした。

そんな思い出を忘れたまま高校生になったある日、あかりは部屋の中でピーターパンの舞台のDVDを見つけます。

それは、上野真幸がピーターパンを演じていたあの公演のDVDでした。

そのDVDを見返したことをきっかけで、あかりは上野真幸を推すようになります。

推しを推すことだけが生きがい

あかりは、普通の人が普通にできることがうまくできません。

「普通の生活」というものがままならず、家庭でも、学校でも、アルバイト先でも、どこか疎外感を抱いています。

そんなあかりにとって、夢中になれるもの、一生懸命になれるものこそが「推しを推すこと」でした。

上野真幸を推すためなら、辛い学校も、アルバイトも、乗り越えることができました。

そんな推しが炎上し、さまざまな憶測や批判が飛び交うようになり、あかりはますます、「推しを推す」ことだけに集中するようになっていきます。

『推し、燃ゆ』を読んだ感想

『推し、燃ゆ』は、アイドルを応援している女子高生、という、一見親しみやすいテーマを扱っています。

ですか、ただ「推す」ことだけではなく、主人公・あかりの生きづらさや、「推しを推す」という行為が他の人からは軽んじられてしまうことなど、さまざまなことが描かれていました。

私は本書を読んで、「推す」ことで救われる命というものが確かにあるのだと感じました。

推しを推す、ということ

「推しを推す」ということは、本書で語られている通り、「推し」がいない人が想像しているよりも何倍も重たくて大切なことなんだな、と感じました。

もちろん、あかりのように「推す」ことだけに全てを捧げて人生を投げ出してしまうのは褒められたことではないかもしれません。

けれど、「推しを推す」ということ、それと何より、「推し」という存在そのものに、人の人生を狂わせてしまうほどの魅力があるのかもしれない、と考えました。

苦しいほど、推す

途中、推しのことばかりを考えて、「推しを推す」ことばかりしている主人公のあかりを見ていると苦しかったです。

周囲の人間関係もボロボロにしていきながら、それでも「推しを推す」ことにだけ執着するあかりを見ていると、これほどまでの熱量を持って人を思うことができるものなのだな、と感心してしまいます。

あかりの推し・上野真幸への思いは、愛情であり、執着であり、憧れであったんだろうな、と思います。

フィクションでも、報われない

たとえこれがフィクションであっても、あかりと上野真幸の存在はあくまで「推している人」と「推されているアイドル」。ステージの上下にいる彼女たちは、交わることはありません。

あかりは上野真幸の近くに行くことが目的ではない、というようなことを言っていましたが、ずっと上野真幸を見つめているだけで、最後にはそれすらできなくなってしまう……。

それでも、「推し」がいなくなった世界でも生きていくしかないあかりを思うと、切なくなってしまいました。

『推し、燃ゆ』はどんな人におすすめ?

私が『推し、燃ゆ』をおすすめしたいのはこんな人です。

  • 「推し」がいる人
  • 10~20代の女性
  • 純文学に興味がある人

現在、自分に「推し」がいる、という方は、主人公・あかりに共感したりできるかもしれません。

全編あかりの視点から書かれているので、あかりと同年代の女性にもオススメです。

また、芥川賞受賞作ということもあり、純文学に興味はあるけど、どれから読めばいいかわからない……といった方にもオススメしたいな、と思います。

おわりに

たった1人、大切な「推し」を追いかける。

主人公・あかりほど熱中できるかはわかりませんが、「推し」がいるというのもいいかもしれない、と思える小説です。

「推し」がいるあなたも、「推し」はいないけれど興味はあるというあなたも、ぜひ読んでみてください。

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