アンリ・ルソーの『夢』という作品を知っていますか?
この原田マハさん原作の『楽園のカンヴァス』の表紙になっている絵のことです。
深い緑の熱帯雨林の中に横たわる女性の絵。
わたしはファンタジックで可愛らしい絵と感じました。
とても、一つ一つの植物が魅力的に描かれていて、ずっと眺めていても飽きません。
こういった絵画作品を巡って、繰り広げられるこの物語。
倉敷からニューヨーク、スイスのバーゼルまで美術を巡る旅をしているような気分も味わえます。
著:原田 マハ
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『楽園のカンヴァス』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 楽園のカンヴァス |
著者 | 原田マハ |
出版社 | 新潮社 |
出版日 | 2012年1月20日 |
ジャンル | ミステリー |
この本は、様々な賞を受賞している名作です。
第25回山本周五郎賞、雑誌「ダ・ヴィンチ」プラチナ本 OF THE YEAR 2012、TBS系「王様のブランチ」BOOKアワード2012大賞など。
ミステリー作品ではあるのですが、芸術作品の勘定を巡って、主人公たちが一騎打ちするという点で、美術ファンにとっては、とても満足できるエンターテインメント作品にも仕上がっています。
『楽園のカンヴァス』のあらすじ
この物語は、アンリ・ルソーという19世紀末から20世紀初頭にかけてフランスで活躍した画家の『夢を見た』という作品を巡って、ルソー専門家の二人の主人公が、その作品が本物か偽物かを見極めようと戦う物語です。
物語は主に2つの時間軸で展開されます。
一つは2000年。場所は倉敷とニューヨーク、そして、もう一つは1983年。スイスのバーゼルが舞台です。
さらにその中に主人公達が読み進めるルソーが登場する物語が差し込まれているという構造です。
あなたは『一介の監視員』なんかじゃありませんね
主人公の早川織絵。43歳。岡山県倉敷市にある大原美術館の監視員。
母と娘の真絵と三人暮らしです。
ある日、織絵は、学芸課長の小宮山に呼び出されます。
呼び出されたその場には、学芸課長の小宮山だけでなく、館長の宝尾がいて、その後、新聞社の文化事業部の部長という高野という人物を紹介されます。
そこ場所で、織絵はニューヨーク近代美術館のチーフ・キュレーターであるティム・W・ブラウンを知っているか訊ねられて驚愕します。
「早川織絵さん。あなたは『一介の監視員』なんかじゃありませんね」
ここで、織絵が、かつて美術史論壇を賑わせた、オリエ・ハヤカワだということおが判明します。フランス最高水準の美術史が学べるソルボンヌ大学で26歳のとき最短で博士号を取得している優秀な研究者だったのです。
その場で、新聞社が東京国立近代美術館と組んで、大規模なルソーの展覧会を企画していることを明かされます。
そして、ニューヨーク近代美術館(以下MoMA)が2002年から2004年の秋まで建て直しの間、コレクションをまとめて貸し出す準備があるらしいこと、MoMa所有のルソーの『夢』を借りるチャンスであることが説明されます。
日本からの要望に対し、MoMAのチーフ・キュレーターであるティム・W・ブラウンは、アンリ・ルソーの最晩年の代表作『夢』を貸し出すには、日本人で唯一信用できるルソーの専門家、オリエ・ハヤカワを交渉の窓口にせよ、と使命してきているというのです。
大富豪のコンラート・バイラー
物語は17年前に遡ります。
二人目の主人公、ティム・W・ブラウン。
当時は、MoMAのチーフ・キュレーターではなく、アシスタント・キュレーターでした。
上司のチーフ・ディレクターであるトム・ブラウンに少なからず、コンプレックスを抱きつつも、毎日忙しく働いていました。
そんな中、ティムは自分へのダイレクト・メールの選別で、とりわけ上質な紙と上品なデザインの封書を見つけます。
ボス宛にきた美術館の理事や支援者からの私信がティムのダイレクトメールに紛れ込むことはよくあるので、その封書もトム宛てのものかとティムは思いますが、宛名を確認すると、間違いなく、ティム・ブラウン様とあり、自分宛です。
便箋を開くと、大富豪であるコンラート・バイラ―の代理人からの手紙であることが判明します。
しかも、内容は、
「バイラー氏たっての希望で、世界を代表するキュレーターであり、来年再来年にパリ/ニューヨークで開催が予定されている「アンリ・ルソー展」の企画者である貴殿を、同財団へお招き申し上げたくご連絡いたします」
というもの。
ティムは、再度、トム宛の封書であると考えます。
しかし、ルソーの専門家であるティムは、バイラー氏所有のルソーの名作を調査するため、バーゼルへ来てほしいと続くその手紙の内容に、「ルソー展」を大成功させたいという思いを改めて強く感じます。
ティムではなくトム宛の手紙かもしれないけれど、バイラ―氏が所有している秘蔵のルソーの名作をMoMAの展覧会に出せるかもしれない、これを夢のようなチャンスと感じたティムは、自分がバーゼルに旅立つことにしました。
ルソーの『夢』の真贋を巡って
バーゼルに着いたティムは、バイラーの屋敷で、様々なバーゼルのコレクションに圧倒されます。
そして、そこで、若き日の早川織絵と出会います。
バイラ―と対面した際、MoMAにある『夢』と非常に似た作品である『夢を見た』という作品を目にした二人。
バイラ―はこの『夢を見た』という作品が真にルソーの作品か、それとも贋作(偽物)なのかを見極めてほしい、とティムと織絵に伝えます。
この作品はトムと双璧をなすアンドリュー・キーツによってルソーの真筆だと証明されて、一旦この絵の購入に踏み切ったバイラ―。
しかし、改めて、真贋に疑問を持ち、二人に真贋を見極めてほしいのだといいます。
その真贋の調査のために設けられた日数は7日間。
真作か贋作か、よりすぐれた講評を述べられたどちらかを勝者とし、勝者には、今後、『夢を見た』の後見人として、取り扱い権利を譲渡する。
これを聞いて驚愕し、心動かされる二人。
そして、もう一つ、不思議な条件を伝えられます。
それは、7章からなる物語を1日1章づつ読んだ上で真贋を判断してほしい、というものでした。
『楽園のカンヴァス』を読んだ感想
この作品は、美術や絵画に全く詳しくない人でも読みやすいので、どんな人でも楽しめます。
わたしもなんとなく芸術に憧れを抱きつつも、特に詳しいわけではありませんでした。
でも、この本を読んで、自分の絵画に対する知識が増えたので嬉しかったし、とても勉強になりました。
アンリ・ルソーの作品が大好きになった
この作品を読んで、アンリ・ルソーの大ファンになってしまいました。
これまでは、モネやマティスなど、色彩が美しい作品が好きでした。
しかし、読み終わった後はもう完全にルソーに夢中になりました。
『夢』以外のルソーの代表作『眠るジプシー女』や『植えたライオン』など、様々な作品をネットで探しては、うっとり見つめてしまいます。
そして、ルソー好きになったわたしにとって、この小説はルソーが中心に物語が展開されているので、ルソーをより詳しく知ることができます。
それがこの上ない喜びでした。
遠近法も使わず日曜画家と言われ、現代も評価が定まらないルソー作品。
でも、どこか子どもの空想のようなファンタジックでピュアなものがあるルソーの絵。
美術展が開催されたら、ぜひ鑑賞しに行きたいです。
アートの世界の裏側が楽しい
実は、昔、キュレーター、つまり美術館の学芸員という職業に憧れていました。
この小説では、美術館の裏側をたっぷり覗けます。
日本特有の美術館がマスコミと結託して展覧会を組織するシステム、キュレーターの仕事内容などを知ることができるのがこの小説の醍醐味です。
また、絵画作品にX線検査をすることもあることも知らなかったので新鮮でした。
国際刑事警察機構にも、アート・ディレクターがいる、など未知の世界を覗けたようで、わくわくできました。
芸術という旅
物語の中で、主人公二人は、作品の真の美しさ、情熱に触れて、お互いの地位や名誉を脇に置いてしまいます。
ただひたすら、ルソーの作品を愛し、情熱的に議論を戦わせる二人。
真の芸術作品はなぜこんなにも人の心を動かすのか。
日常の中で、猥雑なことや卑近なことだけを考えて毎日を送りがちですが、この小説を読んで、ティムと織絵のルソーに対する真摯な姿勢に触れて、久しぶりに清々しい気持ちになりました。
芸術とは、わたし達を一瞬で非日常的な旅に送り出してくれる、そんな力を持つものなんだ、と改めて知ることができる小説です。
『楽園のカンヴァス』はどんな人におすすめ?
この作品は、以下の人が読むのにぴったりの小説です。
- 美術が好きな人
- キュレーターなどアート関係の仕事に憧れる人
- 清々しい気持ちになりたい人
美術好きな人は、間違いなく楽しめる作品です。
もちろん、特にこれまで美術に関心がなくても、充分楽しめる作品です。
予備知識がなくても、この本では、まるで入門者を想定していたかのごとく、美術のことがわかりやすく説明されています。
また、『楽園のカンヴァス』の表紙の絵を見て、なんとなく心動かされただけの方でも、充分読む価値があり。
この本を読むことがきっかけとなり、絵画、近代美術、そしてルソーに詳しくなれますし、ラストは独特の爽快感に包まれます。
まるで、この本と共にどこかに長く旅行してきたような気持ちになり、リフレッシュ効果もあるので、ぜひ読んでみてくださいね。
おわりに
この小説には、ルソーの絵だけではなく、エル・グレコ、ピカソ、モネ、ゴッホを始め、たくさんの芸術家たちの作品について触れられたシーンがあります。
それらすべての絵画をGoogleなどで検索して眺めながら、この物語を読むと、楽しさが倍増します。
ぜひ、この小説を手に取って、絵画の旅に出発してみてください。
著:原田 マハ
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