『終末のフール』は、2006年3月に刊行された連作短編集です。
著者は伊坂幸太郎さん。
伊坂さんの作品はどれも人気が高く、読書好きなら誰もが知る日本を代表する作家のお一人です。
『重力ピエロ』や『ゴールデンスランバー』など、多くの小説が映画化されていることからも、その人気ぶりをうかがえますよね。
今回はそんな伊坂さんの小説の中でも、強いメッセージ性のある作品『終末のフール』についてご紹介していきます。
著:伊坂幸太郎
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『終末のフール』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 終末のフール |
著者 | 伊坂幸太郎 |
出版社 | 集英社 |
出版日 | 2006年3月24日 |
ジャンル | 人間ドラマ |
物語の舞台となるのは、“8年後、小惑星が追突し地球は滅亡する”と分かってから5年後の仙台の団地“ヒルズタウン”。
そこで暮らす住民たちの様々な【終末の過ごし方】が、8つの短編によって書かれています。
共通の運命の中で、8通りの人生模様が小気味よく描かれた小説です。
『終末のフール』のあらすじ
本書は8つの短編からなる作品です。
ここでは
の3つの短編のあらすじをご紹介します。
「太陽のシール」
この話の主人公は超がつくほど優柔不断な男。
妻の美咲と共に、終末までの残り3年間を穏やかに暮らしていました。
そんな中、美咲から「何と、妊娠してるんだって」と告げられます。
産むのか産まないのか。重大な判断に迫られる主人公。
持ち前の優柔不断っぷりでなかなか決断できないでいると、高校時代に部活が同じだった友人にばったり出会い、今度近所の皆でサッカーをするからどうかと誘われます。
そしてサッカーの約束の日、高校時代同じサッカー部で憧れでもあった土屋に再会したことをきっかけに、主人公はキッパリと決断を下すのでした。
「籠城のビール」
冒頭で主人公の辰二は、マンションの一室で家族と食事をする前の、とある男に向かって拳銃を向けています。
その男はワイドショーの司会者であった杉田玄白。
辛口アナウンサーとして歯に衣着せぬ物言いがウケていた杉田に、辰二はなぜ銃口を向けているのか?
それは、10年前に自殺してしまった妹・暁子の復讐のためでした。
暁子は、10年前起こった籠城事件の人質になってしまい、そのときは無事解放されたのですが、その後の興味本位のマスコミの追っかけにより精神を病んでしまい自殺してしまったのです。
そんなマスコミの象徴たる存在だったのが杉田。
その杉田が、小惑星でみんなと一緒に死ぬのが許せなかったために、辰二は兄と共に復讐を誓ったのです。
しかし、杉田もその家族も、銃口を向けられても何故か動揺しないのです。
そこにはある理由があって・・・
「終末のフール」
表題作にもなっているこちらの物語の主人公は還暦過ぎの男性。
ぶっきらぼうで、人をすぐ馬鹿にしてしまう性格の持ち主ですが、妻の静江と共に残りの日々をひそやかに過ごしていました。
2人の間には息子の和也と娘の康子がいましたが、10年前に康子は主人公と仲違いをして家を飛び出し、同じ頃に和也は自殺によって亡くなっていました。
原因は、主人公が成績のいい康子と、勉強ができない和也を無意識に比較していたことだったのです。
そんな中、康子から一日だけ実家に帰ると連絡がきます。
康子へ詫びたい気持ちと、緊張でどうしていいのか分からなくなる主人公。
ようやく康子と再会を果たすのですが、何となく気まずい空気が流れます。
そこに静江が持ち出してきたのは、和也の幼い頃の思い出の品。
和也の無邪気な子供時代の思い出が、2人の間のわだかまりを溶かして行きます。
家族の消せない絆がそこにはあったのです。
『終末のフール』を読んだ感想
世界の滅亡がテーマであるこの物語全体を包む寂しげな雰囲気と、そんな中繰り広げられる温かな人々の交流とのコントラストが心に染みる本作。
“ヒルズタウン”で人生の終わりを覚悟しながらも前向きに生きる人々の姿が、「生きる」上で本当に大切なことを教えてくれる。
そんな一冊です。
世界の終わりという運命を前にあまりにも無力な人々
今日が最後の1日かもしれない。
確かにそれはそうだけれど、どこか他人事のような感覚を持っているのが、私たち人間なのかもしれません。
実際私は、明日も来週も来年もそのずっと先も何となく生きているような気がしています。
何の根拠もないのに、そう信じて疑っていない自分がいるのです。
ところがこの小説では、3年後に隕石が地球に追突し、世界が終わると決まっている。
今までどこかの誰かの話だと思えた“死”が確実に目の前にある状態です。
小説の中では、隕石が来ると分かってから世界中の人々がパニックに陥った描写が何度となく登場します。
「いつか必ず来る死が突然目前に迫る=未来に希望がなくなる」と、人間というものは簡単に崩壊してしまう存在なんだと考えさせられます。
それでも生きていくヒルズタウンの住民に勇気づけられる
地球のタイムリミットが決まってから、早々に死んでしまう人、どうせ死ぬならと凶悪犯罪に手を染め刑務所に入れられる人などが街に溢れ返りました。
5年の月日が流れるうちに、そう言う人たちが一通り居なくなってしまい、ずいぶんと静かになったヒルズタウン。
8つの物語の主人公は、そんな世界の中をそれぞれの葛藤と共に生きています。
決してみんなが明るい訳ではありません。
何せ3年後には地球が滅亡するのですから。
それでも他人と気持ちのやり取りを繰り返し、ささやかな幸せを見つけながら生きていく姿には、とても勇気づけられるのです。
人間はたとえどんな状況に陥っても、それでも生きていく存在なんだという強いメッセージを感じます。
散りばめられた“伊坂流の仕掛け”が本書のスパイスに
こちらは8つの物語からなるのですが、「あ、これさっきの物語で出てきた人だ!」というように、ある物語に別の物語の登場事人物が描かれている場面が何度かあります。
同じ“ヒルズタウン”の住民であるので、確かに自然なことかもしれません。
この仕掛けが、“ヒルズタウン”の住民たちが繋がり合いながら生きていることを表現しているのです。
また8つの物語のタイトルが全て【〇〇の〇ー〇】という形式になっていて、8つの短編からなる本書の中にも、確かな繋がりがあることを示してくれています。
『終末のフール』はどんな人におすすめ?
私が『終末のフール』をおすすめしたいのは、以下のような人です。
- 生きることについて考えたい人
- 家族の物語を読みたい人
- 読書初心者の人
テーマとして“死”を近くに置くことで、“生”が浮き彫りになっている本書。
読後は、“生きること”について今までと違った視点で考えることができるのではないでしょうか。
また本書では、様々な形の家族の物語が描かれており、家族の絆というものを再認識させてくれる場面が多いです。
そして、伊坂幸太郎さんの小説は非常に読みやすい上に、本書は短編集ですので、読書初心者の方にもおすすめの一冊です。
おわりに
『終末のフール』を読んで最も感じたことは、どんな状況に置かれたとしても、人は誰かと一緒に生きていくことができる存在であるということです。
たとえ嬉しいこと続きの毎日でなくても、ふとした瞬間に誰かとクスッと笑えることが、何ごとにも変え難い幸せであると気づかせてくれる小説です。
著:伊坂幸太郎
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