『鹿男あをによし』は、『プリンセス・トヨトミ』や『鴨川ホルモー』などで知られる「万城目学」さんの歴史ファンタジー小説です。
第137回直木賞候補にもなり、2008年には玉木宏さん・綾瀬はるかさん出演でテレビドラマ化もされているので、目にしたことがある人も多いのではないでしょうか?
奈良の平城京跡に隣接する女子高に赴任した教師が、ある日突然奈良公園の鹿に「運び番」だと言われ、日本の滅亡を防ぐために奮闘するというちょっと不思議なストーリー。
万城目学さんらしく、そこかしこにくすっと笑えるユーモアがちりばめられたエンタテインメント小説となっています。
今回は奈良を舞台とした古都の情緒を感じられる『鹿男あをによし』についてご紹介していきます。
著:万城目 学
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『鹿男あをによし』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 鹿男あをによし |
著者 | 万城目学 |
出版社 | 幻冬舎 |
出版日 | 2007年4月10日 |
ジャンル | 歴史ファンタジー |
万城目学さんが得意とする、日常の中に奇想天外なストーリーが展開するファンタジー小説です。
リアリティとファンタジーが絡み合う世界感の中で、邪馬台国や卑弥呼といった古代史を内容に取り込むことで物語に奥行きが生まれています。
始めは女子高を舞台とした学園ものかと思いきや、ある日突然鹿から話しかけられたことで物語が大きく動き出します。
いくつも張り巡らされた伏線が、後半怒涛のように回収されていく様は見事。
読後感爽やかな作品となっています。
『鹿男あをによし』のあらすじ
大学の教授に勧められ、研究室から女子高の期間限定臨時講師として奈良に赴任した主人公。
しかしクラスの生徒と上手くコミュニケーションが取れず、途方に暮れる日々を過ごしていました。
そうしたある日、主人公の前に突如鹿が現れ、人間の言葉で話しかけてきます。
日本を地震による崩壊から救うため、主人公は神経衰弱になりながらも、鹿の「運び番」として奮闘するという独特で壮大な歴史ファンタジーです。
葉月(8月)・長月(9月)
主人公はちょっとした失敗が原因で、大学の研究室内で孤立していました。
「きみは神経衰弱だから」と大学の教授に勧められ、2学期限定で奈良女学館高等学校の物理教師として赴任することになります。
1年A組の担任となるも、生徒である堀田に初対面から冷たい反応をされ驚きます。
堀田の先導により、他の生徒達とも上手くコミュニケーションが取れず、ストレスで腹の調子が悪い日々。
しかし美術教師の重さん・歴史教師の藤原君などの同僚や、教頭のリチャードなどに助言をもらいつつ、なんとか教師生活を続けていくことになります。
神無月(10月)前半
そんな中迎えた10月のある日、奈良公園の大仏殿裏にいた主人公の前に鹿が現れ、話しかけてきました。
その鹿は「お前は「運び番」に選ばれたので、京都の伏見稲荷の狐の「使い番」から、「目 (サンカク)」を受け取ってくるように」と言うのです。
半信半疑で京都を訪れた主人公ですが、狐の「使い番」に気付くことができずに、「目」は鼠の「使い番」に奪われてしまいました。
鹿は「目」を取り返さないと日本は滅びると警告しますが、主人公は信じようとしません。
鹿に、顔が次第に鹿に変貌してしまう「印」を付けられて、ようやく本気で「目」を探すことを決意します。
同時期、日本では地震が増え、富士山に噴火の兆候が見られるのでした。
年に1回開催される姉妹校との交流戦「大和杯」の剣道の優勝プレートが「サンカク」と呼ばれていることを知った主人公。
剣道部の顧問となり、マドンナ率いる常勝チームである京都女学館から「目」である「サンカク」を取り戻すべく指導に当たります。
しかし、奈良女学館の剣道部は部員が3名しかいない超弱小チーム。
そこに突如堀田が入部してきたのでした。
神無月(10月)後半から霜月(11月)
ついに「大和杯」が開幕。
主人公は開催校の権利を利用し、勝ち抜き団体戦の形式にルールを変更します。
堀田の大活躍と生徒・教員たちの熱烈な声援もあって、奈良女学館は優勝、サンカクを手に入れることができたのでした。
ところが鹿から「それは目ではない」と否定され、振り出しに戻ってしまいます。
鼠に騙されていたことに気付いた鹿は、狐の使い番に会うように主人公に提案します。
主人公は京都までマドンナに会いにいきますが、事は上手く運びませんでした。
儀式の期限が迫る中、1枚の写真により、実は堀田も鹿の「使い番」で、「印」で鹿に変貌させられてしまっていたと判明します。
同時に教頭のリチャードが鼠の「使い番」であることにも気付くのでした。
主人公と堀田はリチャードから何とか「三角縁神獣鏡」と呼ばれる「目」を取り戻し、「鎮めの儀式」により日本を救うことに成功します。
日本崩壊の危機は脱したものの、人間に戻してもらえるのは一人だけ。
主人公は堀田の顔を戻してもらうことを選択し、奈良を去ります。
新幹線に乗ろうとした時、堀田が突然駅に現れ、主人公へキスとともに手紙を渡します。
それにより「印」の効力は消え、主人公も人間に戻れたのでした。
『鹿男あをによし』を読んだ感想
いかにも万城目学さんらしい、少し知的な雰囲気も醸し出しつつ、軽妙でユーモアにあふれた作品です。
読み進めていく内に、独特な世界感にぐんぐんと引き込まれてしまいます。
爽やかで温かな笑いをもらえるおすすめの作品です。
さまざまな要素がバランスよく配合
邪馬台国の謎など歴史ロマン的要素、奈良の鹿・京都の狐・大阪の鼠が1,800年間なまずを鎮めて日本を守っているというファンタジー要素、高校生の部活という青春要素、謎解き要素、ロマンス要素。
これらが絶妙なバランスでミックスされているため、最後まで飽きることなく楽しく読むことができます。
スパイスとして「マイ鹿」などのギャグも効いていて、主人公と鹿や堀田との楽しい掛け合いも見どころの一つ。
不思議だけれど、温かい気持ちで安心して読める素敵な物語です。
ファンタジーなのにリアリティを感じるストーリー
本作は「日本の滅亡を防ぐ」という非常に壮大で、かつファンタジー要素の大きい物語設定です。
しかしながら、緻密に練られた構成と主人公の真面目な語り口のおかげで、本当にあるのかもしれないとリアリティを感じるストーリーとなっています。
1,800年もの昔から途切れずにずっと、しかも秘密裡に行われてきた「鎮め」の儀式。
実際に鹿・狐・鼠の使い番たちが存在して、今も誰かがサンカクを受け渡ししているのではないかと思えてしまいます。
しかも、そのような伝統は「鹿・狐・鼠がみな卑弥呼を好きだったから」という感情が発端であるところもとても素敵に感じられました。
夏目漱石の『坊ちゃん』を下敷きにした作品
主人公が物理教師で東から西へ赴任する、主人公の名前が最後まで分からない、町中での行動を黒板に書かれるエピソード、マドンナや堀田などの登場人物。
『鹿男あをによし』には、夏目漱石の『坊ちゃん』との共通点が多数見受けられます。
『坊ちゃん』と読み比べるのも楽しいです。
もちろん『坊ちゃん』を知らなくても、楽しめる内容となっているのでご安心ください。
『鹿男あをによし』はどんな人におすすめ?
『鹿男あをによし』は、多くの人が楽しめる作品だと思いますが、特に以下のような人におすすめしたい小説です。
- 歴史に興味がある人
- 剣道好きな人
- ユーモアを求めている人
「卑弥呼が治める邪馬台国は九州にあったのか、奈良にあったのか。」
一度は歴史の授業で聞いたことがあるのではないでしょうか?
そういった歴史に関することが多く登場するので、歴史好きにはとても魅力的な作品となっています。
また、大和杯における剣道の試合の描写が非常にリアルで躍動感があり、剣道に詳しくなくても、手に汗握る展開に読み進めるのをやめられなくなります。
堀田が激闘の末、京都女学館全員を打ち負かして優勝するシーンはとても爽快で感動すること間違いなしです。
また、本作は飄々とした文体でユーモアがたくさん散りばめられているのが特徴で、思わずクスクスっと笑える箇所が沢山あります。
ストーリーのテンポも良く、とても読みやすい作品なので、気軽に手に取ってみてください。
おわりに|歴史の奥深さを感じる心温まる古都ファンタジー
京都は長く首都であったためか華やかなイメージがありますが、奈良というと少し地味なイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
しかし、奈良には東大寺・春日大社・飛鳥の遺跡群・黒塚古墳など、多くの素晴らしい遺跡が存在します。
この小説を読むと、奈良巡りをしたい気持ちが湧き上がってきます。
主人公のように春日大社の鹿に鹿せんべいをあげてみるのも一興でしょう。
夏目漱石の『坊ちゃん』を下敷きにしているため、最後はやはり主人公の帰東で終わることになりますが、ほのかなロマンスの香りを残した終わり方は鮮烈です。
ハッピーエンドで読後感が爽やかな『鹿男あをによし』は、ぜひたくさんの人の手に取ってもらいたい作品です。
著:万城目 学
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