新しく日本橋にやってきた刑事、加賀恭一郎。
加賀は、まだ全く知らないこの土地をまずよく見ることから始めます。
この小説を読んでいると、日本橋人形町という町の生き生きとした情景が目に浮かび、お店の佇まいやそこに暮らす人たちの声が聞こえてきそうです。
そう、まるで加賀恭一郎と一緒に町を歩いているような感覚。
加賀は鋭い観察力と洞察力でこの地を見つめ、そこに生きる人たちと言葉を交わします。
聞き込みの中で生まれた小さな疑問を注意深く検証し、決して見逃しません。
そして思いやりの気持ちを大切に事件を紐解いていくのです。
講談社
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『新参者』の概要
出典: Amazon公式サイト
タイトル | 新参者 |
著者 | 東野圭吾 |
出版社 | 講談社 |
出版日 | 2013年8月9日 |
ジャンル | ミステリー |
「新参者」は東野圭吾さんの小説で、刑事加賀恭一郎シリーズの第8弾です。
- 「このミステリーがすごい2010」1位
- 「2009年週刊文春ミステリーベスト10」1位
にそれぞれ選ばれています。
またTBSでテレビ化され、主役の加賀恭一郎を阿部寛さんが演じました。
シリーズですがどこから読んでも楽しめる作品となっています。
練馬署から日本橋署に移ってきた加賀恭一郎が、この日本橋人形町で起きた殺人事件にまつわる謎を一つ一つ解明していきます。
『新参者』のあらすじ
日本橋小伝馬町で一人の女性が殺されます。
この事件を捜査するのは、練馬署から日本橋署に移ってきたばかりの新参者、加賀恭一郎という名の刑事。加賀は人形町の様々なお店を訪れ聞き込みを始めます。
そこにあるのは人情という名の謎でした。
小さな疑問を突き詰める
加賀がまず訪れたのは『あまから』という煎餅屋です。
それは犯行があった日、被害者宅を訪れていた保険員である田倉慎一の足取りを調べるため。
店の娘である菜穂が話した、田倉が六月の暑さにも関わらずスーツの上着を羽織って来店したことに加賀はこだわります。
この小さな疑問から田倉の行動、そしてその行動をとった理由を明らかにしていきます。
そこには、『あまから』の店主が病気の母を想う気持ちがありました。
次に聞き込みをする料亭『まつ矢』では、店の見習い小僧がつく主人を守るための嘘。
そして瀬戸物屋である『柳沢商店』で巻き起こっている嫁姑問題での、嫁と姑が口には出さないけれどお互いを思いやる気持ちを加賀は一つ一つ解き明かしていきます。
そこには人形町に生きる人たちの人情が溢れているのです。
被害者の周りにも人情が漂う
被害者である三井峯子と犬の散歩中に会ったと証言する『寺田時計店』の店主、寺田玄一。
玄一が峯子と公園で会ったという証言にはいくつかの矛盾があります。
この公園によく来る愛犬家の人たちは、その時間に峯子の姿を見てはいません。
そこから浮かび上がる玄一の隠し事を加賀は見抜きます。そこには頑固な玄一の娘を想う気持ちがありました。
加賀は被害者、三井峯子がよく来店した洋菓子屋『クアトロ』の店員美雪にも聞き込みをします。
なぜかいつも自分に優しい眼差しを向けていた、峯子の気持ちが美雪にはわかりません。
加賀はそんな峯子の行動の裏にある優しい想いに気付き、美雪に対して悲しみの表情を浮かべます。
生前の峯子と仕事をしていた翻訳家の多美子。
多美子は峯子とケンカをし、仲直りをすることなく亡くなってしまった峯子に対して後悔の気持ちでいっぱいでした。
しかし、峯子が多美子と仲直りをしたかったことを知った加賀は、多美子に峯子が贈ろうとしていた箸を見せ峯子の想いを伝えます。
その気持ちを知った多美子の目からは涙が流れるのでした。
人が人を想う様々な気持ち
清掃屋の社長であり、峯子と離婚した直弘。
彼には息子の弘毅がいます。
離婚したあとはどちらの両親とも疎遠になっていましたが、峯子の死をきっかけに母の想いを知ろうとする弘毅。
峯子が殺されたとき犯行に使われた、独楽の紐から聞き込みを行う加賀。
徐々に犯人へと近づいていくのですが、加賀は所轄の刑事です。
この事件を追う捜査一課の刑事、上杉博史は決定的な事件解決に繋がる情報がなく苦戦していました。
そんな中でも少しずつ進展する捜査に上杉が抱く疑問。
それは、一体誰が事件に対する小さな事実を突き止めているのかということ。
上杉は加賀とともに捜査に当たることになるのですが、やがて加賀恭一郎という人物に一目置くようになります。
『新参者』を読んだ感想
この小説は日本橋人形町という情緒漂う舞台が魅力で、思わずこの町を散歩してみたくなります。
ここに暮らす登場人物は、みな人情に溢れる人たちばかりです。人が人を想って隠し事をしたり、嘘をついたりと。
そんな人情という謎に向き合い、ときには寄り添っていく加賀恭一郎の姿に胸が熱くなる物語です。
人形町に暮らす人々の人情が温かい
この小説には、様々な形の人が人を思いやる気持ちが丁寧に描かれています。
そんな口には出さないけれど確かにある気持ちを、加賀恭一郎は掬い取っていきます。
どの章も読んでいてもホロリとさせられる温かい心の数々。
それを読み取る加賀恭一郎もまた、溢れる人情の持ち主です。
まるでパズルのような構成力
一章ごとに日常における小さな謎や、出来事が起こり読者を飽きさせません。
一見事件とは関係なさそうに感じる出来事が、一つ一つ加賀の手によって解き明かされ繋がっていきます。
まるでパズルのように事件の解決に結びつく、構成力が見事な作品。
読後も爽やかで心地がいいです。
刑事、加賀恭一郎がカッコいい
するどい観察力と洞察力で事件の犯人だけではなく、なぜ事件が起きたのかを探っていく加賀恭一郎。
人々が生きる日常のささやかな出来事の経緯を、強いこだわりを持ち突き詰めていく姿勢。
「事件によって心が傷つけられた人がいるのなら、その人だって被害者だ。そういう被害者を救う手だてを探しだすのも、刑事の役目です」出典「新参者253ページ」。
と言う加賀の言葉に、こんな刑事がいたら素敵だと思わずにはいられません。
『新参者』はどんな人におすすめ?
『新参者』は、このような方に読んでほしい小説です。
- 小説をあまり読んだことがない人
- 人情ミステリーを読みたい人
- 加賀恭一郎シリーズが好きな人
この小説は連作短編集になっています。
各章ごとに人形町の様々なお店が登場し、そこで生活する人たちの日常に起こる小さな謎を加賀恭一郎が解き明かしていきます。
構成力がすぐれていますので、読書が苦手な人もきっと本を読む楽しさを味わえるのではないでしょうか。
また、人情に触れたい人や温かい気持ちになりたい人にもおすすめです。
著者の小説が好きな人にとっては主人公のキャラクターや人物の描かれ方、舞台設定、ミステリーと東野圭吾の魅力が存分に詰まった作品です。
読めばきっと、あなたのお気に入りの一冊になること間違いなし。
まとめ
この作品は東野圭吾さんの小説を初めて読む方にはもちろん、氏の作品を沢山読んできた方にも楽しめる一冊です。
日本橋人形町という町がもつ空気を感じ、そこに暮らす人たちの溢れる人情に触れることができます。
そして何よりも刑事、加賀恭一郎という人物が魅力的。
エンターテインメント要素が満載で、東野圭吾さんの持ち味が存分に味わえます。
この作品をきっかけに他のシリーズも手に取り、加賀恭一郎が活躍する世界をより深く堪能してみてはいかがでしょうか。
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