人生には、様々な出会いが訪れます。
地元のお店に入ったとき、以前利用していた電車に乗ったとき、ふと、昔を思い出すことがありますよね。
思い出の中のあなたは、そして傍らにいる人はどんな顔をしていますか?笑っていますか?
もう会うことはないかもしれないけれど、そういえばあの人、今どうしているのだろう。
一緒にいるといつも笑顔になれたな。
ひとりでもいるならば、それはとても幸せなことです。
同時に、自分自身も、誰かにとってのそんな存在になりたいと私は思います。
そんな人なんていなかった、と思う人も大丈夫。
私たちには横道世之介がついているのですから。
著:吉田 修一
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『横道世之介』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 横道世之介 |
著者 | 吉田修一 |
出版社 | 毎日新聞社 |
出版日 | 2009年9月16日 |
ジャンル | 青春小説 |
著者は『パーク・ライフ』で、第127回芥川賞を受賞した吉田修一さんです。
『悪人』は、映画化もされ、その衝撃的な内容から当時大きな話題となり、同様に『横道世之介』も映画化され、若者を中心に今でも根強いファンが多い作品です。
主人公は、長崎から上京したての18歳。
お人好しで押しが弱い青年、横道世之介の話ですが、彼に出会ったことで少し心が豊かになった登場人物たちの物語でもあります。
『横道世之介』のあらすじ
上京して、大学生活が始まると同時に世之介は、マイペースな青年、倉持と何だか面倒くさそうな女性、阿久津に巻き込まれサンバサークルに入ります。やる気はありません。
その後は、パッとしない大学生活を続けますが、怪しげな女性に、弟のふりをしてと頼まれてうっかり好きになりかけたり……。
変な格好でサンバを踊らされたり……。
集まってくるのは個性的な人間ばかり。
世之介、お嬢様に気に入られる?
紹介されたのは、黒塗りのセンチュリーから出てきたお嬢様、与謝野祥子。
お金持ちで口調が独特、笑い上戸の祥子。世之介は彼女に大うけされます。
海に行こうと誘われた世之介が、のこのこついて行くと、そこは、豪華な船のパーティー。
世之介は呆然と、コンビニで買った浮き輪をつけています。
しかも、弟のふりを頼まれた例の女性と鉢合わせる羽目に。
世之介、どんどん気に入られる
よく家に行く加藤という友だちに、ある告白をされます。
「俺さ、男のほうがいいんだよ」
あっさりした口調だったが珍しく加藤が緊張している。
「あ、そうなの?」
「あ、そうなのって……、そんだけ?」
ただの近況報告を受けたかのような反応です。
動揺する素振りさえ見せない世之介に、これには加藤も拍子抜け。
それから、長崎に里帰りした際には、祥子もついてきました。
世之介の同級生とも仲良くしようとする祥子を見て、段々と恋心が芽生えます。
世之介、19歳になる
歳を重ねた世之介、そんなとき、サンバサークルの倉持と阿久津が妊娠のため退学。
仕事や住む家、焦ってはいるようですが、覚悟を決めていました。
自分にできることがないか尋ねる世之介に、倉持は言います。
「金貸してくれよ」
「そんなにないけどバイトで貯めた金あるからいいよ」
迷うことなく即答。
引っ越しも手伝った世之介に、お前しか頼める人がいなかったと、倉持は泣きながら礼を言いました。
世之介、祥子と付き合う
祥子の両親に会いに行った世之介は、ようやく彼女へ想いを伝えることに。
両想いとなったふたりは、穏やかで平凡なクリスマスを迎えることができたのでした。
月日は流れ、祥子の怪我や倉持の子どもの誕生など、世之介の周りにも変化が起き始めます。
彼にとって、最もささやかな変化は、祥子に呼び捨てで呼ばれるようになったこと。
上京して、少しは変われただろうかと世之介は考えます。
世之介、別れの時
フランスへの留学が決まった祥子を世之介は見送りに。
カメラを始めた彼の作品が見たいという祥子に『与謝野祥子以外、開封厳禁』と書いて、残しておくと約束します。
いつも通りの穏やかな別れ。
数十年後、祥子に渡された手紙の文面で、物語は幕を閉じます。
『横道世之介』を読んだ感想
- 人によって態度を変えない
- 頼まれごとは断れない
- 意図せず面白い事態になってしまう
- ひたすらに前向き
世之介の人となりを表すならこうです。
人を大切にできる彼は、ひとりになることがありません。ひとりにもしません。
物語は、世之介目線で進んでいきますが、途中に登場人物たちの回想シーンがあります。
大人になった彼らは、総じて世之介と出会ったあの日々を懐かしみ……。
皆の心の中の大切なところにいる
倉持と阿久津は、中学生の娘を見ていて、世之介のことを思い出しました。
加藤は、彼を思い出すと笑いが込み上げてくるのです。
どうしようもなくて、憎めない面白い奴だったと振り返ります。
世之介と出会った人生と出会わなかった人生で何かが変わるだろうかと、ふと思う。
たぶん何も変わりはない。ただ青春時代に世之介と出会わなかった人がこの世の中には大勢いるのかと思うと、なぜか自分がとても得をしたような気持ちになってくる。
世之介に出会った人なら、きっと皆同じ気持ちになるでしょう。
打算のない関係を、世之介となら築くことができます。
困ったときは、必ず力になろうとしてくれる。相手が誰であろうと、味方にしてしまうのです。
関わりがなくなったとしても、そんな世之介との思い出は、深く彼らの中に残り続けています。
こんな人間になれたら、と思わずにはいられません。
祥子に届いた小包
他の登場人物より関わりが深い祥子。
些細なことで世之介と別れ、何年かたった後、小包が届きます。
ここでは、悲しい出来事が起きているのですが、何故だか胸があたたかくなるのです。
きっと、切なさの中にある世之介という光が、そうさせているはず。
「……もちろん、そのせいでいっぱい失敗するんだけど、それでも『NO』じゃなくて、『YES』って言ってるような人……」
彼のことをそう語りました。
学生時代、世之介のことが大好きだった祥子の心には、誰よりも深く優しい状態で残り続けるのだと思います。
そして、最後の手紙まで読んだ読者の人生にも。
『横道世之介』はどんな人におすすめ?
世之介みたいな人が身近にいるという方は、その人にもぜひ薦めてみてほしいです。
- 等身大の青春を感じたい人
- 心が最近疲れている人
- 上京したばかりの人
そんな人会ったことがないと思う人は、以上のひとつでも当てはまっていたらページを捲ってみてください。
不安が一気に吹き飛ぶこと間違いなしです。
おわりに
実は、『横道世之介』の感想、ひとつ大切な部分を伏せて紹介しました。
知らずに読んで、出会うべきときに世之介に出会ってほしいと思ったから。
世之介との出会いは特別です。
私も彼のことを思い出すたび、心に優しい風が吹くような清々しい気持ちになります。
そして気が付くと、笑顔になっているのです。
人は誰しも誰かを笑顔にするために、この世にいるのかもしれません。
人生に、横道世之介がいる人ならば、きっとこれから先も大丈夫。
純粋に誰かの幸福を願える彼のような人間が、この世界のどこかでサンバを踊っている姿を、私は確かに想像できるのです。
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