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『トリツカレ男』感想|とりつかれるくらい好きなものはありますか?

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ちょっと奇妙なイラストが描かれた表紙。

そして、不思議なタイトル。

これだけ見ると、中々手を出しづらい本だと思います。

でも安心してください。子どもの目のように澄んだ、眩しいくらいのラブストーリーです。

主人公は、一度何かにとりつかれると、一切ほかのことに気が向かなくなる、

尋常じゃないほどのトリツカレ男、ジュゼッペ。

私はこの本を読んで、ジュゼッペのことが心から好きになりました。本当にカッコいい。

人を好きになるとは、こういうことだという私の中での価値観が、確立された瞬間でした。

登場人物がみんな愛おしすぎて、羨ましくて、まさにこの世界の虜。

大切な人に大切なことを伝えるときに読みたい、出会えたことが奇跡のような物語です。

著:いしい しんじ
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『トリツカレ男』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトルトリツカレ男
著者いしいしんじ
出版社ビリケン出版
出版日2001年10月1日
ジャンル恋愛小説

全6章で構成された『トリツカレ男』は、ポケットに入るくらいの薄さの本。

展開が早く、サクサクと進んでいきますが、深いストーリーです。

登場人物は、ジュゼッペと友だちのハツカネズミ、そして物語のヒロイン、ペチカ。

え? ネズミが友だちだって? どんなヘンテコな話なんだろう。

童話のような優しい世界観と、一度会ったら忘れられない個性的な登場人物たちが、ブレーキなしで走り切ります。

『トリツカレ男』のあらすじ

レストランのウエイターとして働いているトリツカレ男のジュゼッペ。

今、はまっているのはオペラ

人の食べている耳元で、

「ピザはアンチョビ、とらら! キノコにベーコン、とらら! オリーブオリーブ、しあーげに、たあっぷりのチーズ! うわお!」

された方はたまりません。

店の主人は困ってしまいますが、ジュゼッペに悪気がないのはわかっています。

しばらくの休みをもらうことに。

オペラは街に馴染み始めます。

トリツカレ男の実力

オペラの次は、三段跳び。空き地でバッタを見て、自分も跳びたくなったらしい。

とりつかれると寝ても覚めてもそればっかりのジュゼッペ。

当然、どんどん上手くなります。

非公式で驚きの世界新記録

街のみんなは、大会に出るジュゼッペを応援します。

ですが、大会当日、彼の姿はありませんでした。

賞金が欲しかったわけでも、世界一になりたかったわけでもない。

ただ自分が満足できるまでやる、というのがジュゼッペなのです。

  • 探偵ごっこ
  • 昆虫採集
  • 外国語の通信教育(15か国語)
  • なぞなぞ
  • カメラ集め
  • 潮干狩り
  • つなわたり
  • 腹筋に背筋運動
  • サングラス集め

挙げだしたらきりがありませんが、まだまだとりつかれます。

トリツカレ男の相棒

はまったのはハツカネズミの飼育

逃げ出してしまいますが、たった一匹だけ残っていてくれたネズミがいました。

言葉が話せてきれい好き。トリツカレ男の相棒にぴったりの不思議な動物。

ジュゼッペの、周りとは違う様子を見て、相棒は言います。

「そりゃもちろん、だいたいが時間のむだ、物笑いのたね、役立たずのごみでおわっちまうだろうけれど、でも、きみが本気をつづけるなら、いずれなにかちょっとしたことで、むくわれることはあるんだと思う」

街の人にどう言われようと、自分を曲げず、何でもやってみるジュゼッペのよき理解者となった場面でした。

トリツカレ男の恋

見かけたのは、外国から来た風船売りのきれいな女の子。

ベンチでサンドイッチを食べようとしていたジュゼッペに、微笑みかけます。

こうして、ものの見事にとりつかれたトリツカレ男。

ジュゼッペは、女の子が飛ばしてしまった風船を得意の三段跳びで捕まえます。

そして、通信教育で覚えた外国語を使って、

「おれはジュゼッペ、ふうせんうりのペチカとともだちになりたいんだ」

2人の優しくて輝くような出会いです。

トリツカレ男の本気

ペチカと仲良くなったジュゼッペでしたが、彼女の笑顔に、灰色のにごりのようなものを感じます。

ハツカネズミに頼んで調査してもらった結果。

  • 家族のことで借金をしている
  • 母親がひどい喘息で入院している
  • 寒くて風船がふくらまない
  • 公園に人が来なくて寂しがっている

この全ての悩みを、昆虫採集オペラサングラス集め腹筋に背筋運動

これまでとりつかれたもので解決。

ペチカは、ジュゼッペがそんなことをしてくれているとは全く知りませんが、そのおかげで、元気を取り戻していっているようでした。

トリツカレ男の覚悟

ハツカネズミはペチカのことを調べていく中で、あることに気が付きます。

「ペチカは毎晩、写真をみてる。年上の男の」

とハツカネズミはいった。

「名前はタタン。外国のひとさ。去年の秋までは、あっちこっちから手紙がきてた。それが突然ふっつりこなくなった。彼は婚約者だ」

ジュゼッペは、探偵をしていたときの情報網を使って、タタンを捜索。

そして、タタンが死んでいることを知ります。

覚悟を決めたジュゼッペは、ハツカネズミが止めるのを聞かずに変装して、窓越しに彼女と会うことに。

タタンがいれば、ペチカは笑顔になるとわかっていたのです。

ホッケーの先生をしていたタタンに合わせて、アイスホッケーを始め、演じ続けます。

だんだんと、姿もタタンのようになり……。

そして、ひどく冷え込む寒い日。

いつものようにペチカの部屋の窓の外に立つと、ガラスに映っていたのは、本物のタタンの姿。

ジュゼッペは、これでようやくペチカを笑顔にできると喜びますが、その人物は彼に向って話し始めました。

トリツカレ男とトリツカレ女

母親から、喘息のときにきた不思議な医者がジュゼッペだと知らされたペチカは、他のことも全てが、彼のおかげなのだと気が付きます。

トリツカレ男、と呼ばれる彼にまつわる話を聞いて、驚き、誇らしさで胸がいっぱいに。

真実を知り、ジュゼッペのもとへ車をとばすペチカ。

長い冬が終わったジュゼッペは、ペチカの部屋で、空がよく晴れているのかと聞きます。

どうしてわかるのか彼女が尋ねます。

それは、晴々としたペチカの笑顔をみたからなのでした。

『トリツカレ男』を読んだ感想

『トリツカレ男』は、私の人生トップ3に入るくらいの好きな本です。

周りから変わっていると笑われても、自分を貫き通す。

好きなものを絶対に諦めない、そして自分以上に大切にする。

人が自分らしく生きていくうえで大事なことを当然のようにやってのけます。

もしかして天才!?

様々なものに夢中になるジュゼッペ。

世界新記録を出したり、探偵をして事件を解決したり。

トリツカレ男の名は、伊達ではありません。それは本人も自負するほど。

「ペチカがあのタタンって強そうなひとより、ちびすけのきみを選ぶだなんて、そんな保証はこれっぽっちもないぜ」

「おれを誰だと思ってる?」

とジュゼッペも片目をつむり、

「トリツカレ男の、ジュゼッペだぞ!」

中途半端という言葉は、彼の辞書には存在しません。

私が特に好きなとりつかれシーンは、冒頭のオペラにはまるところ。

歩きながらのんきに歌い、猫も迷惑そうに逃げていきます。

レストランでも仕事中に歌ってばかり。

それでも歌うのをやめません。街の人はだんだんと慣れ、受け入れていきます。

初めは迷惑そうだった街の人が、ジュゼッペの声が聞こえなくなると心配して探しに行く。

この街だからこそ、ジュゼッペはとりつかれの天才になれたのです。

ペチカへの愛

女の子を好きになったのは、初めてのジュゼッペ。

ホップステップジャンプ、と三段跳びで風船を掴んだ、2人の出会いの場面は愉快で、うっとりするほど素敵です。

ペチカのために外国語を話し、彼女の笑顔のためにできること全てをやりきる。

そうすることで、自分のことが忘れ去られようとも、好きな子が笑顔で生きられるならと、どんなに辛くても止めようとはしませんでした。

ハツカネズミから心配されて、馬鹿だと言われても、優しく笑うだけ。

そしてそれが、誰も傷つかない優しい形で報われたのが、本当に嬉しい。

凍っていたペチカの心を溶かしたのは、ほかならないジュゼッペなのですから。

タタンという男

ペチカの婚約者だった、タタンというホッケーの先生。

ジュゼッペとは違うタイプで優しい勇敢な人です。

ペチカはタタンに教えられた、氷の上での3つの大切なことについて話します。

ひとつは、氷の上ではいつかきっと転ぶということ。

もうひとつは、転ぶまではひたすら懸命に前へ前へと滑ること。

そして最後が、

「そのさん。転ぶとき、転ぶその瞬間には、自分にとって、いちばん大事なひとのことを思う。そのひとの名前を呼ぶ。そうすれば転んでも大けがはしない。そうして転ぶことはけしてむだなことじゃない」

アイスホッケーをするときの注意のように聞こえますが、これは、人生にも置き換えられます。

転ぶ瞬間というのは、人それぞれ。一生懸命生きていても、転ばない人なんていません。

まるで、どんなに絶望しても、大事な人のことを決して忘れるなと言われているよう。

タタンは、ペチカを残していってしまったことを悲しんでいました。

ですが、彼女のために勇気を出せるジュゼッペならば、きっと大丈夫だと信じます。

無駄なことなんてない

最初にハツカネズミが言ってくれたように、ジュゼッペがしてきたことは、決して無駄にはなりませんでした。

ギャングの親分に、昆虫採集で集めた珍しい昆虫をプレゼントして気に入られたり。

喘息を治すために、腹式呼吸のオペラを教えたり。

徹夜して雪だるま、雪の犬、雪のじいさん、雪の小学生を作ったり。

まだまだたくさんありますが、全てペチカのためにやったことです。

トリツカレ男の全ての力を使って、彼女の笑顔を取り戻したその姿に、ページを捲る手が震えました。

『トリツカレ男』はどんな人におすすめ?

軽快な文章と個性的な登場人物の『トリツカレ男』を読むなら、

  • 好きな人に想いを告げられずにいる人
  • 絶賛、恋をしている人
  • 優しい気持ちになりたい人
  • 自分の生き方に悩んでいる人
  • 成し遂げたいことがある人

ラブストーリーですが、この物語はただの恋愛小説ではありません。

読む人は、きっと本来の自分を取り戻します。

何かに挑戦しようとしているならば、続けることの素晴らしさを感じることでしょう。

そして、誰かのことを想う気持ちの大切さに気付かされ、自分も大切にする。

この短い小説の中に、これほどたくさんのものが詰まっているのです。

おわりに

大切な人に贈るなら『トリツカレ男』と、私は決めています。

とりつかれるくらい好きな、ジュゼッペにとってのペチカ。

ペチカにとってのジュゼッペ。

2人が過ごした日々は、愛おしく、そして、ジュゼッペの勇気によって多くの人が救われる結果になりました。

優しい世界の、ちょっと不思議なラブストーリー。

とりつかれるほど好きな人はいますか?

その人に、大切だと伝えていますか?

ジュゼッペが勇気を出したように、あなたもこの物語を読んで、想いを伝えてみてください。

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