『秘密』は大人になれば必ずあろうある家族の日常から始まります。物語が進むにつれ常識では考えられない設定に驚きが…。
しかし読み進めていてもその設定は全く違和感がなく、この小説の魅力的な世界観としてのめり込んでいき、小説に出てくる色々な人の立場に立つと共感をし、切なさを感じる一冊です。
ミステリーが好きな人や小説を読んで涙を流したいときなどにおすすめです。
文藝春秋
¥902 (2024/09/26 12:41時点 | Amazon調べ)
ポチップ
タップできるもくじ
『秘密』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 秘密 |
著者 | 東野圭吾 |
出版社 | 文藝春秋 |
出版日 | 1998年9月10日 |
ジャンル | ミステリー小説 |
この本は、四十歳を迎える平介という男性の日常から始まります。
平介には妻と子がおり、妻の直子と娘の藻奈美は直子の実家に帰省をする途中でバス事故に巻き込まれ、平介と突然の別れが。
しかし亡くなったはずの妻の意識は、娘の体に宿り、平介と直子の奇妙な生活が始まります。
娘の体で人生をやり直す直子と接し方に迷う平介の間にはすれ違いが生まれ、いつの間にか溝へと変わり二人の関係は変化していきます。
表題の秘密が意味するものとは一体どのようなものなのでしょうか?
日常からは考えられない展開でも、違和感がなく読み進めることができます。
『秘密』のあらすじ
杉田平介は自動車部品メーカーの生産工場に勤務する技術者で、妻直子と娘の藻奈美がいます。
家族ととる食事の時間が楽しみで、家族三人でつつましく幸せに暮らしていました。
妻直子と娘の藻奈美は、二人で親戚の葬儀に参加するために実家に帰省していましたが、途中バス事故にあい、直子はこの世を去ってしまい、藻奈美は意識が戻らない状態が続きました。
意識が戻った藻奈美から告げられたのは、直子の意識が藻奈美に移り、藻奈美の意識を追い出したということ。このことは二人だけの秘密となり、奇妙な生活が始まります。
中身は成熟した女性だが、見た目は小学生としての生活
直子の意識は娘の体の中にあり、娘として小学生の生活が始まるのです。
娘の体で始まる生活は自分の人生を後悔した気持ちが勝り、同じ思いはしたくないと中学受験を決意をしたり、年齢を重ねると平介以外の異性を意識し始めたりと人生を謳歌しているようです。
直子は、人生を楽しみながら前向きに進み始めます。
変わった夫婦としての愛と溝
平介は自分が直子にとって夫なのか、父親なのか、何なのだろうと悩み始めます。悩む中でも若い女性へと心が揺れ動くことがあり、自分を律していました。
しかし直子が人生をやり直し、謳歌し始めると若さを手にした直子へと嫉妬が向けられます。
その形は盗聴を仕掛けて直子の電話を盗み聞きしたり、郵便物を全てチェックしたりと常軌を逸するものでした。
そのような生活から直子と平介の間に溝が埋まれ始め、平介は娘として向き合うことを決意します。
すると、直子の意識と藻奈美の意識が体を共有し始め、直子は自分がいなくなる日が近いことを察します。
藻奈美の意識が日々長く出始め、日常を送ります。直子は最後の別れに平介とはじめてデートをした場所を選び、別れを告げると二度と現れることはありませんでした。
直子の意識は消えていなかったのでは?
直子の意識が消えてから月日がたち、藻奈美は二十五歳を迎えます。
娘が結婚の日を迎え、藻奈美がとった行動に直子しか知らないはずの秘密だと平介は悟るのです。
式場へと向かう平介は直子の意識は消えていないのではという結論に至り、娘として挙式を挙げる妻のも元へと向かいます。
『秘密』を読んだ感想
始めて秘密を読んだ時は、想像もしえない世界観に引き込まれました。
物語の登場人物が織りなす駆け引きや父親や夫としての葛藤など、次々と展開される話は日常には考えられないものなのに妙に納得もしてしまい、表題の秘密とはどういうことなのかを考えさせられます。
表題から考えさせられる結末
この本は秘密というタイトルがつけられていますが、この秘密が加わることによって一つしかない物語が全く違う物語なのでは?と考えさせられます。
平介が最後に娘の結婚相手を二発殴る事は読んでいて違和感を感じないので、何が本当のことか読み終えた後も余韻が楽しめます。
家族としてお互いの幸せを考える
直子は娘の体に意識が宿ってからは、妻としての幸せよりも娘を思い、娘の藻奈美が幸せな人生を送れるようにと人生を歩み始めるように感じます。
平介も妻が娘の体に宿ってから若い女性に惹かれながらも自分を律し、夫婦として家族としての幸せを誠実に守ろうとしています。
お互いがお互いの幸せを祈り、考えて行くなかで、どこかで歯車が合わなくなる切なさがありました。
直子の強さ
一度は妻として平介と向き合った直子は、平介が父親として自分と向き合い始めたことに涙を流します。
平介から嫉妬を受け、異常な行動をされてもなお平介を夫として愛していたのではないのか。
父親として向き合い始めた平介の期待に応えようと意識がないということにしたのか、藻奈美しか知らないはずの秘密は実は直子が伝えていたことで平介の思い込みなのか、考えさせられる内容でした。
しかし直子の母親としての娘を守るという強い意思や妻として夫と向き合う事を決意する直子の強さなど女性として強さを感じます。
人生を謳歌しているように見える直子の姿や平介の前から意識がなくなることなど娘を幸せにしたい、母親としての愛情も感じられました。
『秘密』はどんな人におすすめ?
私が『秘密』をおすすめしたい人は、以下のような人です。
- ミステリーが好きな人
- 様々な夫婦の愛の形について読みたい人
- 小説を読んで泣きたい人
誰もが送るであろう日常から一転、通常では考えられない日々へと日常が変わり最後は切ない気持ちや夫婦とは何だろう、家族や親子とは一体どんな形があるのだろうと考えさせられます。
読み進めていくうちに、登場人物それぞれの立場に戸惑いや共感もあります。しかし最後は、表題の秘密という意味が判明するミステリーも。
いろいろな立場の人に共感ができ、切なさが込み上げてきてミステリーであるはずなのに、夫婦の愛の形を知るにつれ、涙が流れる作品です。
おわりに
『秘密』は日常からは考えつかない、かけ離れた世界観で夫婦や家族、親子の形を描いたミステリー小説ですが、主人公やその周りの登場人物の立場や気持ちを考え共感をしながら読み進めることができます。
それぞれが決断をし、先に進む姿からは夫婦としての愛情や子どもへの愛情が感じられ、お互いを思いやる気持ちがあるからこその切なさが。
秘密を抱えながら先に進む姿は、読むものに親としての強さ、妻としての強さを教えてくれます。
文藝春秋
¥902 (2024/09/26 12:41時点 | Amazon調べ)
ポチップ
コメント