例えば道に迷いやすい幼い自分を、手を引いて導いてくれる人がいたら?
私はこう思うしこれが良いこだと思うけれど、きみはそれをヒントに自分の頭でしっかり考えて行動するんだよ、と。
本作品では、ではかしこいけれどそれが故に迷いやすくしかし信じた大人の言うことをきちんと聞き咀嚼して飲み込める女の子の手を、不思議な大人たちがやさしく握り明るい未来へ導いていきます。
幼い女の子はどのようにして自分なりの幸せを掴むのでしょうか。
著:住野よる
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『また、同じ夢を見ていた』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | また、同じ夢を見ていた |
著者 | 住野よる |
出版社 | 双葉社 |
出版日 | 2018年7月11日 |
ジャンル | 不思議 |
本作品は「人生とは○○みたいなものよ」が口癖のちょっと生意気な小学生の女の子視点で物語が進みます。
女の子の周りには数人の不思議な大人たちがいて、頼れるけれどみんなどこか大切ななにかが欠けているように見えます。
それはなんなのか、その大人たちはなに者なのか。
ラストではパズルのピースがきっちりはまるような、すべての不思議が解ける感覚と出会うことでしょう。
『また、同じ夢を見ていた』のあらすじ
主人公の小柳奈ノ花はかしこく聡明な少女ですが、とっつきにくいのでしょう、クラスの子たちからは疎まれ距離をとられています。
奈ノ花自身もそれを自覚しており、そんな同じ教室で学ぶ子たちのことを常に見下して自分は特別なのだと思い込んでいました。
ある日、奈ノ花は学校で【自分にとっての幸せとは何か】について考えていかなければならなくなります。
それは一日二日で終わるような課題ではなく、最終日の発表に向け何日もかけて考えるというものでした。
かしこく幼い女の子は偶然と不思議が重なり出会った大人たち三人からヒントを貰い、自分なりの幸せを見つけていくのです。
奈ノ花をたすけてくれる大人たちと友だち
小学生にしてはずいぶんと冷静で頭が良い小柳奈ノ花という女の子には、大切な友だちや頼れる大人がいます。
奈ノ花の担任であるひとみ先生はほかの子たちからも信頼されており、大胆な物言いをする奈ノ花に対しても決して否定せずしっかりと向き合ってくれるので奈ノ花もそんなひとみ先生が大好きです。
奈ノ花が放課後を共に過ごすのはもちろんクライメイトではなく、尻尾のちぎれた黒い猫でした。時に歌声を重ねながら、時に話をしながら二つの影はいっしょに進みます。
二つの影が訪れる一か所目はアバズレさんという綺麗な女性のもとです。美人で優しくて、オセロが上手なアバズレさんは奈ノ花の憧れの女性となっていくのでした。
二か所目はおばあちゃんが一人で住む、木でできた大きな家です。おばあちゃんと言っても奈ノ花とは血の繋がりがあるわけではありません。二人は手作りのお菓子を食べながら度々本の話で盛り上がります。
そして三か所目、廃墟のような建物の屋上で一人ぼっちだった南さんという女子高生と衝撃的な出会いを果たした奈ノ花は、素晴らしい物語を書く彼女を尊敬して毎日会いに行きます。
小学校で奈ノ花に友だちと言える関係の子はいませんでしたが、周りに隠しながら素敵な絵を描く気弱な桐生くんのことはなんとなく気にかけていました。ある時を境に桐生くんは学校へ来なくなってしまいます。
あらすじや内容
尻尾がちぎれた黒猫との出会いはアバズレさん、おばあちゃん、南さんとの縁にもなっています。
三人の不思議な大人たちはかしこい奈ノ花に正しいこと、間違っていること、大切にすべきこと、他人との関わりのことなどを、まるで自分に言い聞かせるように話します。
ぶっきらぼうに、やさしく、不器用に諭すように語りかける三人の大人たち。
奈ノ花は素直に聴き入れて考え、そして自分なりの結論を出すのです。
それは小学生の女の子にはとても難しく一方で尊く、けれど大人たちはかしこい奈ノ花ならなばきちんと理解できるであろう信じて話しているように見えました。
たくさんのヒントをもらった奈ノ花が進む先の未来が明るいものであると、そう信じて読み進めたくなります。
それぞれの幸せ
前述した【自分にとっての幸せとは何か】という課題については序盤から終盤まで物語の軸となっています。
奈ノ花は頼れる大人たち─アバズレさん、おばあちゃん、南さん─からヒントを貰いながら【自分にとっての幸せとは何か】を考え、成長していきます。
かしこいと言っても奈ノ花だって小学生の女の子ですから、自分より仕事を優先する両親への不満や考えが及ばないこと、クラスメイトの馬鹿な男子たちは間違っていて自分はいつでも正しいと思うことなど、子供ならではの意地や思い込みがあってもおかしくないでしょう。
頼れる大人たちはそんな奈ノ花の心をわかりやすい言葉できちんとほぐしてくれるので、奈ノ花も持ち前のかしこさをフル稼働させて大人たちが教えてくれる言葉と考えを解ろうと努力します。
斯くして奈ノ花と三人の不思議な大人たちは人生において大切なことを、自分の幸せを、みんなの幸せがどういったかたちをしているのかを共に探すのでした。
『また、同じ夢を見ていた』を読んだ感想
一貫してですます調で書かれるこの物語は、すべてが小学生ならではの視点で表現されるのが見どころの一つです。
幼い女の子が経験した不思議な出会いはあらゆる人たちを救いました。
それは登場人物であったり、読者であったり……。
きっとこれからもたくさんの人を救っていくのでしょう。
創り出すものが他人から認められる幸せ
奈ノ花は自分が素敵だと感じたものをなぜ創り出した本人が周りに見せびらかすことをしないのか、それが不思議でたまりませんでした。
南さんが書く話、桐生くんが描く絵。
どれもとても素敵なのに自分には創ることができないもので、だからなぜ自信なさげに隠すようにして陽の目を浴びせないのか、あらゆる経験が浅い奈ノ花には理解できません。
奈ノ花は目を輝かせて言います。こんなに素敵なのに、と。
その無邪で真っすぐな奈ノ花の言葉に、読者の私ですらも少しの涙をこぼすほどに心を揺さぶられました。
成長を見守るあたたかさ
書いてきた通り、奈ノ花はかしこい子供です。
子供だから、意地もはるしクラスメイトを下に見ます。
本作品を読んでいてしみじみと思わされたのが、小学生の子供たちというのは彼ら彼女らなりにたくさんの物事を小さな頭で考え、わたしたち大人が思うよりもずっと目まぐるしく日々成長しているのだということでした。
けれど大切なことはそう簡単に変わりません。
間違いながら正しい道を歩もうとする一人の幼い女の子の成長を垣間見れたことが、たとえ創作物だとしても光栄に思えました。
人生とは
奈ノ花の口癖である「人生とは~」という言葉。
たとえばひとみ先生に放った
「人生とは素晴らしい映画みたいなものよ」
という言葉には「お菓子があれば一人でもじゅうぶん楽しめるということ」という意味がこめられているようでした。
作中に何度もこの口癖が登場し、そのたびに奈ノ花は「~ということよ」と説明をしてくれるのですがそのどれもがいちいち納得できてしまい、くすっと笑えます。
かしこい奈ノ花らしいその口癖は、この物語をつくる大切な要素の一つです。
一つ一つ大事に読んでみてください。
『また、同じ夢を見ていた』はどんな人におすすめ?
小学生視点で書かれたやさしく不思議なですます調の物語ですが、決して子供向けの本ではありません。
物語上重要になる人物の呼び名や遠回しな言葉の意味、少なくないページ数。
もちろん子供たちにも読んで欲しいという気持ちもありますが、つらい思いをしてきた大人たちに読んでもらいたい気持ちが強いです。
たとえば
- 後悔をしながら生きる人
- 幸せを探したい人
- 小説を読みたいが堅苦しいものが苦手な人
そんな人たちにぜひ読んで欲しいなぁと思います。
おわりに
少しだけ、奈ノ花が経験した不思議な出会いと出来事たちがうらやましく感じました。
けれどそれは奈ノ花が聡明な子供だったからこそ起きたことで、あの三人の不思議な大人たちもそのことをわかっていたから大事な気持ちを奈ノ花に託したのです。
その小さな手を引いて、明るい未来へ導いてあげようと思えたのです。
大どんでん返しや謎がスパッと解ける爽快感、とまではいきませんが終盤では「ああ、そういうことか」とすべてが腑に落ちる感覚が味わえるつくりとなっていました。
そして読み終わったころ、表紙を見て、少しの微笑みがうまれることでしょう。
著:住野よる
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