一度読み始めたら止まらない、コミカルさもあるのになぜか最後には感動で涙が出てしまいます。
不思議と心にほんのり暖かさが残り、「明日からがんばろう」と前向きになれるのです。
読後、いつもこんな思いにさせてくれるのは西加奈子さんの小説。
2009年に発表された長編小説「通天閣」もその一つです。
第4作目のこの小説は大阪が舞台。
後悔ばかりの人生を送る人たちが、人生に向き合い必死に生き、そして最後には感動のクライマックスを迎えます。
無理して背伸びしてかっこよく生きようと思わなくてもいいんだと、そっと背中をおしてくれます。
ちょっと最近心身ともに疲れてしまった方、どう生きるのは正解何だろうと悩んでいる方にぜひ手にとっていただきたい一冊です。
著:西 加奈子
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『通天閣』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 通天閣 |
著者 | 西加奈子 |
出版社 | ちくま文庫 |
出版日 | 2009年12月10日 |
ジャンル | 長編小説 |
2004年に「あおい」で華やかなデビューを飾った西加奈子。
彼女は実はテヘラン(イラン)生まれのエジプトで育ちという経歴をもった作家で、その後は大阪で生活をしています。
彼女の作品にはイランや大阪を舞台としているものがあり、彼女のこれまでの移住経験が反映されていると思われものばかりです。
第4作品目にあたる「通天閣」は冬の大阪ミナミの町が舞台。
後悔ばかりの人生を送るどうしようもない人たちが、自分の人生と向き合い必死に生きていく様子が勢いある文体で丁寧に描かれています。
『通天閣』のあらすじ
主人公は40代の男と20代社会人なりたての女の二人。
とにかく何に対しても否定的で自暴自棄気味な二人。
この二人のストーリが交互に進んで行き、最後にはある形で一つにつながっていくので、ぜひどうつながっていくのか考えながらお読みください。
男の主人公は、百円ショップやコンビニに卸す懐中電灯などの商品を組み立て梱包する工場で真面目に働いています。
以前結婚していたことがあり、その時の女と連れていた子ども「雪」が忘れられないでいます。
女の主人公は、「サーディン」というスナックでチーフとして働いています。
以前は花屋でバイトをしていたが、同棲していた恋人の「マメ」が突然ニューヨークへ留学したことで生活が一変。
「マメ」への当てつけもありスナックで働きはじめ、寂しい一人生活を送っています。
希望も光も見えない、さえない日々を生きる主人公たち
男の主人公は、一人古いアパートに住んでいます。
何も困りはないのですが、一つだけ嫌で嫌でしょうがないのは向かいの住人。
主人公によって「ダマー」と名付けられた、ホモで、服も変、顔も気色悪いので、できるだけ話したくないのです。
また仕事場の工場には新入りがやってきます。
しかし、ドモリのあるさえない男で要領も悪いときた。主人公は「きっとこの男もすぐやめるんだろう」と思っています。
一方、結婚も考えたマメがいなくなり寂しい生活を送る女の主人公。
「別れたわけではない」と毎日のように自分に言い聞かせ、何とか自分を保ちながら生きていきます。
スナックの仕事では、適当でよく分からないことをいうオーナー、小声でしか話さないママなど一風変わったメンバーと働く日々。
少しずつ動き出す、さえない日々
男の主人公は、仕事場の新入りが意外といいやつであることに気づきます。
新入りは結婚しておりもうすぐ子どもが生まれる予定があることを知り、応援するとともに、それをきっかけに自分の過去を思い出します。
「どうしてあの女と別れてしまったのか、あの時の子どもはどうしているだろうか」と後悔が募るばかりです。
そんな傍ら、新入りの子どもが生まれ、その時の男の主人公の様子がこう表現されています。
「何故か分からない、俺は帽子を投げた。体中の血液が、驚くほどのスピードで駆け巡った。」
あんなに何に対しても否定的だった主人公はどこにいったのかしらと言う印象です。
その後紆余曲折あり、その新入りの自転車泥棒の罪を被ることになってしまい、交番へ、、。
一方、女の主人公にはマメからの一本の電話があります。
そして、「好きな人ができたから別れたい」と告げられます。
何も手が付かない主人公、「サーディン」も無断で休んでしまいます。
そんな主人公を心配したのはあの声の小さい弱々しい「ママ」。
ママに「通天閣に登ろう」と誘われます。
ママのこれまでの苦労話と励ましの言葉をなかなか受け入れきれなかった主人公ですが、その暖かさにふれ最後には涙を流します。
通天閣からの「飛び降り」未遂事件
「身投げやー!」
そんな二人の耳にこの言葉が飛び込んできます。
なんと通天閣から飛び降りようとしている人がいるのです。
最初こそ興味がなかった二人でしたが、現場に向かうことになります。
女の主人公は興味本位。
「死にたければ死ねばいい」
一方、男の主人公は、飛び降りようとする人の顔を見た瞬間青ざめます。
何とそれは向かいに住んでいる「マダー」だったからです。
マダーは「私は誰からも必要とされていない、死んでもいい」と。
男の主人公は何とか助けようと、考え、考え、考えあぐねます。
警察は一変通りのことしか言わずあてになりません。
どうしたら彼を説得できるか、必死の思いで、涙でぐちゃぐちゃの顔で
「お前のことがっ、好きやあああああああああああああああっー!!!」
「俺にはお前が、必要やっっ!!」
と叫びます。
マダーは無事助かり、男の主人公はみんなの賞賛を受けますが、同時にホモでありマダーのことが好きであると誤解されたまま幕を閉じてしまいます、、、。
女の主人公については、ここでの場面で男の主人公との繋がりがわかるのでふせています。
ぜひ実際に読まれて見てください!
『通天閣』を読んだ感想
何度、読み返しても涙がでてしまいます。
そして、
- 「ただ毎日をこなすような生き方はだめなのか?」
- 「夢に向かって頑張ってないとだめなのか?」
- 「キラキラと輝いていないとだめなのか?」
そう問われている気がします。
どうしようもないのに愛おしい主人公たち
ただ毎日をこなすだけの希望のない人生を送る二人の主人公と、一風変わったコミカルな登場人物たち。
過去の女とその子ども「雪」が忘れられず、後悔ばかり残る男の主人公。
「マメとの関係は終わってない」と自分を誤魔化しながら何とか生きている女の主人公。
産まれてくる子どもと奥さんのために一生懸命働く小山内さん。
ものすごく声が小さい、でもあたたかいママ。
目的のためなら手段を選ばない(ゲロも吐く)オーナー。
コミカルに、でも自分の生き方を貫き通そうとするホモたち。
主人公にも登場人物にも乗り越えてきた過去があり、乗り越えなければならない未来があります。
そんな人生を懸命に生きている、その全ての人生が人間臭くて、愛おしいのです。
読み終わった後には、どうしようもない主人公たちがとても愛おしく、少しだけ輝いてみえるはずです。
心の機微を読む
西加奈子さんは、主人公や登場人物の心の機微を事細かに表現することが多く、興味深いなあと思うとともに、自分自身もこうでもないああでもないと考えすぎてしまう方なのでいつも共感しながら読んでしまいます。
例えば、男の主人公が新入りの小山内くんに何か話しかけようとしています。
しかし、最初の一言が出てこず、考えあぐねます。これがまあ長いのです。
もしかしてこいつは、結構いい奴なのかもしれない。ふとそう思った。だからといってここですぐ「子供ができるの楽しみだろう」などと話しかけると、こいつのことをいい奴だと思ったことがバレてしまうし、、、
この後、続きが15行ほど続きます。
その後にやっとでた言葉は、「お前、ど、ドモリだな。」という始末。
ここまで事細かに書かなくてもと思うくらい細かく書かれています。
人がこうでもないああでもないと悩んでいるのを読むと共感できるものもありますし、クスッと笑えてくるものもあり、とても面白いです。
街に出ても、目の前にいる彼は今どんなことを考えているのだろうと考えてしまようになりました。
生き方に正解はあるのか?
この物語は、決してハッピーエンドではないのです。恋人が戻ってきたわけでもないし、人生が変わった訳でもないのです。
むしろ男の主人公の方はあらぬ誤解を受け、状況が悪くなっているとも言えるのではないでしょうか。
でも、それでも人間はその状況を受け入れ、その上で前に進むことができます。
きれいごとだけで済む世界ではありません。
雑多な街に埋もれ忙しく過ごす日々、ただこなすだけの日々、誰からも期待されずに生きていく日々、何のために生きているか分からない日々。
でも、そんな中で人間は生きているということを肯定し、そこからでも光はつかめると気づかせてくれるのです。
世界はこのようなものであるということ、あなたの人生が「きらきらと輝いて」いなくても無価値なものではないということを、西加奈子さんは伝えてくれているのだと思います。
『通天閣』はどんな人におすすめ?
本当は全ての方に一度は読んでいただきたい一冊です。
その中でも特に以下のような方に手にとっていただきたいです。
- ちょっと最近心身ともに疲れてしまって、ほっこりしたい
- どう生きるのは正解何だろうと悩んでいて、前向きになりたい
- 大阪の街の雰囲気を味わいたい
自分はこんな生き方をしていていいのだろうか。
そんな疑問に一筋の光が見えるはずです。
そして、主人公と登場人物、そして西加奈子さんがあなたの背中をそっと押してくれるでしょう。
大阪の街の雰囲気も味わえる作品なので、大阪好きにもたまらないと思います。
おわりに
「そうだ、それでこそ、お前の人生だ。」
「飛び降り」を何とか回避させた後、男の主人公がタクシー誘導のジジイを見た時に思ったことです。
誰かの人生を真似する必要も、うらやむ必要もなく、きらきら輝かないといけない、こう生きないといけないということもないのです。
自分は、自分の人生を生きるということ。それで十分ではないでしょうか。
笑いと涙とともに、自分の生き方を考えさせられる一冊です。
そして、まだまだ紹介しきれていない魅力や考察が盛りだくさんです。ぜひ、一度手にとって読んでいただけたら幸いです。
著:西 加奈子
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