「異文化理解」「多文化共生」
結構前から、このような言葉をよく耳にするかと思うのですが、
実際に、異なる文化を持つ相手とうまく関わっていくことは、決して簡単ではないと思います。
つい、こちら(受け入れる側)のやり方に従ってもらおう、という考えが出てきてしまうのではないでしょうか。
時には相手の言動・行動をうまく理解できず、いらだってしまうこともあったりして…。
ですが、この絵本に出てくる家族は違っていました。
この家族が持っていたもの、それは、
「すべてを受け入れてしまえる大きな心」
でした。
著:ショーン・タン, 翻訳:岸本 佐知子
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『エリック』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | エリック |
著者 | ショーン・タン |
出版社 | 河出書房新社 |
出版日 | 2012年10月17日 |
ジャンル | 絵本 |
「ショーン・タンの世界展」という展覧会が、日本各地で開かれたほど人気のある、オーストラリア出身の絵本作家、ショーン・タンさんの作品です。
絵本のサイズが小さいです。葉書より少し大きなくらいでかわいくて、その小ささがかえって目を引きます。
『エリック』のあらすじ
数年前、ある家に「エリック」という名の交換留学生がホームステイにやってきました。
ホームステイ先の家族は、家の空き部屋のペンキを塗り直したり、絨毯と家具を新しく揃えたりして、エリックが気持ち良く過ごせるよう準備を整えました。
台所の戸棚の中
家族はせっかく、空き部屋をエリックのための部屋として準備したのですが、エリックが普段、勉強するときや眠るときに使ったのは、台所の戸棚の中だったのです。
その理由は謎なのですが、家族の中で、お母さんはこう言いました。
「きっとお国柄ね」
「いいじゃないの、本人がそれでいいんなら」
好奇心旺盛
家族の中の「ぼく」は、もし家に外国のお客さんが来ることがあれば、その人にいろんなものを見せてあげて、この国のおもしろいことをたくさん教えてあげる、と決めていました。
だから、エリックがホームステイに来たときはチャンスだと思ったし、うれしいことにエリックは好奇心が旺盛で、「ぼく」にたくさん質問をしてくれました。
ただ、その質問というのが期待外れのもので、「ぼく」はただ、
「さあ、わかんないよ」
などと答えるしかなく、すごく役立たずな気分になってしまいました。
小さなもの
家族は、週末にエリックを連れていろんなところに出かけました。
でも、エリックが喜んでくれたかどうかはよくわかりませんでした。
なぜなら、どこへ行ってもエリックが興味を持つたいていのものは、街のいろんなところではなく、
「地面に落ちている小さなもの」
だったからです。
「ぼく」はそんなエリックに対して少し頭にきていましたが、お母さんが言っていたように、
「お国柄」
だと思うことにしたのです。
そう思うことで、あまり気にならなくなりました。
突然行ってしまったエリック
ある朝早く、エリックは手を振って、「ごきげんよう」とひとこと言って、行ってしまったのです。もう戻ってくることはありませんでした。
その夜の夕食の間、家族はエリックのことについてあれこれ思いを巡らせました。
なにか怒っていたのか?
この家にいて楽しかったのか?
手紙でも書いて寄こしてくれるのだろうか?
戸棚の中に置かれていたもの
エリックが行ってしまったあと、家族は台所の戸棚の中に置かれていた、あるものを見つけました。それは、
「たくさんの色鮮やかな植物たち」でした。
何年も経過した今でも、暗がりの中でそれらは元気に息づいています。
家にお客さんが来るたびに、家族はそれらを見せて、
「ほら、うちに来た交換留学生が、これを置いていったんですよ」
と、言うのです。そして最後はお母さんのこの言葉で締めくくられます。
「きっとお国柄ね」
『エリック』を読んだ感想
もし現実の世界で、自分がホームステイに来た相手を受け入れる側の人間だとして、その受け入れる相手がエリックのような人物だったとしたら…。
言動や行動に対して、理解に苦しんだり、少しいらだちを感じたりしてしまうかもしれないな、と思いました。
でもエリックみたいな、戸棚の中に素敵な置き土産をしていくという、粋な計らいをされたら、自分が抱いた嫌な気持ちなどすぐに吹き飛んでしまうでしょうね。
戸棚の中が居場所
せっかく部屋が用意されていたのに、エリックが普段、勉強するときや眠るときに使ったのは、台所の戸棚の中でした。
戸棚の中と聞くと、なんだか窮屈で使い勝手が悪そうな環境に思えますが、おそらくエリックにとっては戸棚の中が、とても居心地のいい場所だったのでしょう。
そして、そんなエリックのことを不思議に思いつつも、戸棚の中を使うことをダメと言わなかったこの家族からは、相手を尊重しようとする気持ちが伝わってくるのです。
お国柄
家族の中のお母さんが使う「お国柄」という言葉が、おはなしの中に何度か登場します。
異なる文化を持つ相手に対して、少し嫌な感情を持ったり、きつい言葉を投げかけたりしてしまうことがあるかもしれません。
でも、このお母さんは「お国柄」という言葉を使って、相手のことを受け入れます。
大きな心で相手を包み込むことができる優しいお母さん。とても素晴らしい人ですね。
エリックが置いていったもの
お話のクライマックスで、行ってしまったエリックが戸棚の中に置いていった、たくさんの色鮮やかな植物たちを家族が見つけます。
この絵本のイラストのほとんどには、色が付けられていないのですが、戸棚の中のその植物たちの部分は、さまざまな色で描かれているのです。
なんだか、エリックのホームステイ先の家族への強い感謝の気持ちが、鮮やかな色に現れているように思えます。
この戸棚の植物たちが描かれたページを、ぜひみなさんにも見てもらって、そこからいろいろなことを感じ取ってもらいたいです。
『エリック』はどんな人におすすめ?
『エリック』は、こんな方におすすめです。
- 異文化や多様性のある社会に興味を持っている人
- ホームステイやホストファミリーに興味を持っている人
- ほっこりした気持ちになりたい人
- ショーン・タンさんの世界に浸りたい人
異なる文化を持つ相手に対しての心の持ちようを、優しく教えてくれているような絵本です。
この絵本で、はじめてショーン・タンさんを知った方は、彼の他の絵本も読んでみたくなるかと思います。
おわりに
絵本のサイズは小さいですが、お話やイラストから読み手に伝わってくるものは、とても大きいと思います。
「お国柄」
この言葉でもって、ホームステイ先の家族は異なる文化を持つ相手を受け入れていました。
現実の世界では、自分のやり方・考え方が結構凝り固まっていて、相手に対して柔軟になれない人も多いように思われますが、この家族が持つ、
「どんなことも受け入れてしまえる度量の大きさ」
私たちも持てるようになりたいですよね。
そう思わせてくれる素晴らしい絵本でした。
著:ショーン・タン, 翻訳:岸本 佐知子
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