李朝白磁をご存知でしょうか。
李王朝時代の初期から中期に焼かれた白磁です。
飾り気のない温かさ、静かでおおらかで自己主張しない陶磁。
そんな白磁のような人が、浅川巧さんです。
民芸運動の父と呼ばれた柳宗悦が一番尊敬し、一番信頼していた人物でした。
彼は朝鮮人になろうとし、そんな彼を朝鮮人も愛した。
しかし40歳という若さで亡くなってしまう。。。
そんな彼の人生について書かれた本が『白磁の人』です。
著:江宮 隆之
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『白磁の人』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 白磁の人 |
著者 | 江宮隆之 |
出版社 | 河出文庫 |
出版日 | 1997年5月2日 |
ジャンル | 歴史小説 |
日本が統治していた時代の朝鮮。
朝鮮人は日本語を話す事を強制されていました。
そんな中、一人朝鮮語を覚え、朝鮮の民族衣装を着て、朝鮮人になりきろうとした日本人がいたのです。
彼は、朝鮮人が忘れていた李朝白磁の良さを見出し、荒れた朝鮮の山林を元に戻すために尽くしました。
『白磁の人』のあらすじ
著者江宮隆之氏は、柳宗悦の教え子でした。
そんな、江宮氏が柳の部屋で見つけた一枚の男性の写真。
それが浅川巧さんです。
慈しみという言葉が似合う人間は、彼以外にいるのでしょうか。
江宮氏と浅川さんの出会いがここから始まるのです。
生い立ち。そして朝鮮へ
1891年、山梨県に生まれた浅川巧。
彼は父親を知らずに育ちます。
農林学校を卒業後、営林署で造林技師として5年間秋田県で働いた後、母親と兄が住んでいた朝鮮へと23歳で渡ります。
その頃の彼の口癖は
「世界はできるだけ広くして、しかもゆっくり住むに限る」
朝鮮では林業試験場に勤め、ロシアや清国、そして日本の侵略により荒らされてしまった山林を元に戻す仕事に就きます。
そして兄から李朝白磁を紹介され、巧は李朝白磁に魅了されるのです。
その時、巧はこう言いました。
「この国にきてよかったよ。僕もこの国が好きになれそうだ。こんなに美しい、本当に温かみのある人肌のような焼き物を持っている国だとは思いもよらなかったよ。。。
これから巧の人生は変わっていきます。
巧の使命
その頃の朝鮮は、日本統治時代で公用語は日本語でした。
朝鮮人は日本人と話す場合、慣れない日本語を使用しないといけなかったのです。
ある日、巧が林業試験場に電車で通うとき、軍服姿の男が朝鮮人の老人を座席から立たせて、席を横取りします。
巧はその老人を助けます。
巧は、軍人に見覚えがあるも、誰か思い出せません。
彼は一体誰なのか。
巧は朝鮮人がかたことで日本語を話す事に違和感を覚え、朝鮮語を学ぶ事を決意します。
それだけでなく朝鮮人になりきるため、朝鮮の民族衣装も着ることにしました。
その頃、巧は兄の紹介で柳宗悦と出会います。
柳はすでに有名人であり、初対面では誰もが戸惑うような存在でしたが、巧は自然な温かさと温和な表情で柳に接しました。
著者の江宮隆之氏はそんな巧をこう表しています。
「巧は、林や花や動物、そして焼き物を見るように人を見た。巧にとって、人間を含めて全てが自然界の一員であり、それゆえに友であった。」
朝鮮人になろうとする巧
巧は朝鮮人の子供に奨学金を与え、上級学校へ通わせ、時よりお年玉としてお金を与えていました。
しかし朝鮮人になろうとすればするほど、日本の軍人から迫害をうけるのです。
「この京城で日本軍人から迫害される唯一の日本人・浅川巧を周囲の朝鮮人たちは敬愛し、敬慕した。そうした目に遭ってもチョゴリ・パジを脱ごうとせず、朝鮮語で話し、朝鮮語で笑う巧と誰もが友達になりたかった。朝鮮人たちは日本人を憎んだが巧を愛した。」
そんな中、巧は急性肺炎によりわずか40歳で亡くなってしまいます。
彼は亡くなる直前まで、林業試験場の仕事をし、そして朝鮮の磁器に関する記事を書いていました。
巧の葬列には多くの朝鮮人が集まります。
偶然、以前電車で遭遇した軍人が葬列に出くわします。
彼の名前は小宮礼一。
小宮は、巧の名前を聞いて思い出すのです。
半年間であるが巧と幼い頃過ごした記憶を。
いじめられていた小宮を友達だと対等に接してくれた唯一の人が巧だったのです。
小宮はそれまでの自分の振舞いを後悔し、その場で大泣きします。
そして彼は、軍人を辞めるのでした。
『白磁の人』を読んだ感想
読んだ後、すがすがしい温かい気持ちになれる作品となっています。
決してサスペンスや推理小説のように犯人が気になる、結末はどうなるのかというドキドキ感はないですが、浅川巧という一人の日本人の生きざまを最後まで知りたいと思わせる内容です。
また巧の周りの人間も皆、情熱的で優しさを持ち合わせている人が多いと思います。
それは浅川巧という男が周りににもたらした影響ではないのでしょうか。
浅川巧という人間性
何度読んでも涙がこぼれます。
あの時代にこんな日本人がいた事を誇りに思い、自分だったらこんな人間になれただろうかと考えさせられる本です。
浅川巧さんは優しいだけでなく意志の強い人間である事も伝わってきます。
彼は林業に対する使命、そして李朝白磁への思い、朝鮮人、日本人問わず平等に接する優しさを持ち合わせた人間だと思います。
朝鮮人はもちろん、日本人からも慕われた人間。
こんな人になりたいと思う反面、こんな人間にはなれないのでは思ってしまう偉大な人だと感じました。
もし彼が長生きしていたらどんな功績を残していたのか。
李朝白磁、朝鮮の文化や歴史を守ろうとした
この本を読んで、白磁という言葉を初めて知りました。
陶磁については無知でしたが一度見てみたいと思っていた時、たまたま白磁を見る機会がありました。
とても柔らかく温かい陶器だと思い、会った事のない白磁の人浅川巧さんを思い出させました。
彼は林業試験場で働いていたので、白磁の収集作業や古い朝鮮語の聞き取りなどは報酬が出ません。
それでも朝鮮のために尽くしたことを考えると、自分には到底真似出来ないと思います。
軍人小宮礼一
一番印象に残っているのは軍人小宮のエピソードです。
小宮は浅川さんと逆の生き方、朝鮮人を長年虐げていました。
しかし、浅川さんの存在に気付いた事でこれまでの行いを悔い、軍人を辞めます。
人の生き方まで変えてしまう浅川さんの偉大さ。
小宮が浅川さんの葬列でどれだけ後悔し涙を流したのか思うと胸が痛みます。
『白磁の人』はどんな人におすすめ?
ジャンルを歴史小説としたのは、日本と朝鮮についての話のためですが、よくある歴史小説とは違い、難しい言葉は少なく非常に読みやすいので、読書初心者にもお薦めです。
高校生の読書感想文コンクールの課題図書にもなったので、そこまで頭を使うことなくスラスラ読めます。
『白磁の人』はこんな人におすすめです。
- 本を読んで感動、泣きたい人
- 優しい気持ちに浸りたい人
- 読書が苦手な人
浅川巧さんという人間はもちろんですが、本全体の文章も優しさに溢れている印象です。
決してハラハラドキドキという物語ではないですが、読んだ後の幸せに満ちた感情は言い表せないです。
最近、涙を流していない方や、優しさに触れたい方にはぜひ読んで頂きたい本です。
おわりに|自分も白磁の人のように生きたいと思わせる作品
浅川巧さんのような李朝白磁を生で見てみたいと思いませんか。
この本を読んで、日本人が朝鮮人に対して行った行為を詳しく知らなかった自分を恥じました。
ただ、政治的な話がメインではないので、どんどん浅川巧さんに引き込めまれ最後まで読むことができます。
歴史を知りつつ、浅川巧という人物、白磁に触れる作品となっています。
私にとっては『白磁の人』は生涯大切にし、時折読みたい一冊となりました。
この本を読んだ頃の私は読書がそんなに好きでありませんでした。けれど今では一番大切な本となりました。
皆さんにとっても、この一冊がそんな本になって欲しいと願っています。
著:江宮 隆之
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