この本には母親になる女性、母親になった女性の生々しい愛憎が描かれています。
この物語の中では、子どもに対して様々な立場で、様々な経験をする女性の姿が取り上げられています。
その中には、描写が生々し過ぎて抵抗感を覚える人もいるかもしれません。
母親だから必ずしも自分の子どもを真っ直ぐに愛せるわけではありません。
母親になった女性にも、1人の人間として、女性としての人生がその先もある。
本書はそういった現実的な部分を赤裸々に描き切っています。
著:金原 ひとみ
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『マザーズ』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | マザーズ |
著者 | 金原ひとみ |
出版社 | 新潮文庫 |
出版日 | 2013年12月24日 |
ジャンル | 純文学 |
作家のユカ・モデルの五月・専業主婦の涼子は同じ保育園に子どもを預けているママ友達。
先が見えず、思い通りにいかない育児に疲労し、夫との関係にも冷えが現れています。
そんな彼女たちはそれぞれに追い詰められていき、子どもへの愛情と憎しみの間で苦悩していきます。
不倫や虐待などのある種タブーとされるテーマにまで鋭く切り込んだ作品です。
『マザーズ』のあらすじ
三者三様の母親になった女性の群像劇。
誰もが異なる状況に苦しみ、疲弊し、将来に対して不安を感じています。
そんな中で、それでも自分なりに答えを探し、もがき続けます。
作家のユカ
ユカは娘ができてから夫との関係が上手くいかなくなり、通い婚という形でなんとか継続させながら、娘と2人暮らしをしています。
まだ拙い言葉遣いをするイヤイヤ期の娘を抱えつつ、夜遊びにクラブに出かけたり、そこでドラッグに依存し続ける生活。
現実的な幸福を求めてもがく五月や涼子の姿を物語の中の人物のように遠い存在に感じて憧れつつも、小説を書くことで自分なりの幸福を探し求めます。
モデルの五月
仕事がうまくいっていない夫との関係が冷え込み、娘がいながら不倫をしている五月。
娘を生んだ後に子宮筋腫が見つかったことに驚き、健康志向になった面もありますが、夫と仲が決裂した更年期障害の母親が子宮内膜症を経験していることから、自身の体にも悩みを抱えています。
不倫が続くほど相手に依存し、それでも子どもの存在を考えると夫との離婚も決断できません。
そうしている内に不倫相手との子を妊娠し、どうすべきか更に悩まされることになるのですが、そんな五月を更なる悲劇が襲うのでした。
専業主婦の涼子
乳飲み子の息子と夫と3人でアパートに住んでいる涼子は、閉鎖的な家での家事と育児に疲れ、性交渉にも否定的になり、夫との関係も冷えている状況です。
平凡な生活に新しい刺激を求めて、被虐的な妄想をして気を紛らわせたりする日々。
仕事に疲れ、育児の大変さに理解が浅くどこか他人事な夫への不満は募り、遂には子どもを虐待してしまいます。
子どもを愛しているはずなのに、暴力をふるってしまった自分自身に動揺し、絶望します。
『マザーズ』を読んだ感想
「蛇にピアス」で第27回すばる文学賞および第130回芥川賞を受賞し、鮮烈なデビューをした本作の筆者。
あまり突っ込んで描かれない部分にあえて焦点を当てて描き出すのがこの作家の魅力の1つなのではないかと思います。
普段はじっくり見たりしないような部分にこそ、巧みな描写で引き込んでいく。
この本でしか味わえない読書体験というものがあると思います。
ここまで描いていいのか
- 育児に疲弊して自分の子どもを虐待してしまう母親
- ストレスから逃げるためにドラッグに依存してしまう女性
- 夫との関係が冷えてきて不倫をしてしまう女性
- 望まぬ妊娠をして中絶を選択する女性
本作では性的な描写やどろどろした人間模様などを正面から描いています。
自分の子どもを真っ直ぐに無条件に愛せる母親ばかりではない。
育児や家庭環境に問題を抱えていて、自分の子どもにストレスをぶつけてしまう母親もいます。
そういった現実的なところまで恐れずに切り込んだ作品です。
母親が被る種々の困難
子どもを授かるというのは、1つの奇跡であり縁だと思います。
その過程には様々な可能性があります。
大人になるまで子どもが順調に育つとは限りません。
それまでには多くの危険が伴うものです。
母親に降りかかる色々な困難を1つの物語の中で取り上げています。
目を背けたくなるのに引き込まれる描写
この本では人間の打算的な部分や自分本位な部分など、汚い面にまで目を向けています。
妊娠にまつわる性的な側面まで、詳細な記述が含まれています。
生々しい性描写や虐待表現など、あまり見たくないと思うような場面でも、続きが気になって引き込んでいくような巧みな描写で描き出されます。
『マザーズ』はどんな人におすすめ?
生々しくて人を選ぶ内容ではありますが、刺さる人には刺さる作品です。
この本を読んでみて欲しい人は、次のような人です。
- 育児に疲れた人
- 複雑な人間関係を楽しみたい人
- 母親になることに不安がある人
この作品を読んで、「完璧な母親などいない」「模範的な母親にならなくてもいい」と少しでも気持ちを楽にできる人がいるのではないでしょうか。
世の中のお母さん達は、想像以上の苦労と葛藤を抱えているのだなと考えさせられる一冊。
おわりに|世の中の母親は理想的な母親ばかりではなくていい
これから母親になる女性に積極的にオススメしたい本かというと違うのですが、いい母親にならなくてはというプレッシャーや不安を感じている人には響くものがあるのではないでしょうか。
また母親となった妻の気持ちがよくわからない男性の方にも、こういう一面もあるのだということを知るきっかけになればと思います。
赤ちゃんを授かるというのは、本当に奇跡的なこと。
子どもの命と未来を預かる親という立場は、多くの期待と責任を背負わされます。
実際にその立場になったとき、対面する多くのことが親にとっても初めての経験であり、想像以上に大変なことだらけ。
そんな中で、常に清く正しく母親や父親でいられる人間はいないでしょう。
この本は人間の弱い部分も汚い部分も、隠さずに描き出します。
だからこそ、改めて突き付けられて気付けるものもあると思います。
1章目を読んでみて大丈夫だと思えたら、ぜひ最後まで読み進めて頂きたいです。
著:金原 ひとみ
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