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『本と鍵の季節』感想|爽やかさとほろ苦さが心地よい青春ミステリー

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六編からなる本作は、本や鍵にまつわる謎を、まったくタイプの違う二人の高校生が推理する謎解き青春ミステリーです。

一編の長さも適度で、伏線回収もしっかりとあり、ミステリー初心者でも手に取りやすいのではないでしょうか。

また本や鍵が作品の重要なアイテムとして登場するので、本好きにはたまらない作品となるでしょう。

作中に流れる高校時代の空気感が、季節の移ろいや図書室の雰囲気、本とともに紡がれます。

読んでいて爽やかさと、ときには切なさも感じられる一冊です。

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『本と鍵の季節』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル本と鍵の季節
著者米澤穂信
出版社集英社
出版日2021年6月18日
ジャンルミステリー

著者の米澤穂信は1978年岐阜県生まれ。

青春ミステリーや、後に残る不気味さを描く、ひねりが利いた作品に定評があります。

  • 2001年『氷菓』で第5回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。
  • 2011年『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞を受賞。
  • 2014年『満願』が第27回山本周五郎賞受賞。

『本と鍵の季節』のあらすじ

高校二年生で図書委員の堀川次郎はお人好しな性格。

同じ委員で目立つ存在、快活でほどよく皮肉屋な松倉詩門。

あまり人が来ない図書室で当番をする二人のところには、なぜが色々な頼み事が寄せられます。

そんな謎を二人で解き明かしていく青春ミステリーです。

性格の違う二人の高校生 

ある日、図書委員会を引退した三年生の先輩、浦上麻里から依頼を受ける二人。

それは、亡くなった祖父が遺した開かずの金庫を開けてほしいというものでした。

浦上先輩に好意的な印象をもつ堀川ですが、松倉は先輩に対して疑い、どこか挑戦的な態度をとります。

話のスピードが早く、強引な展開で一章めから心を掴まれます。

二章では、ひょんな事から一緒に散髪に行くことになった二人。

美容院の店長が言った、

「貴重品は、必ず、お手元にお持ちくださいね」

『本と鍵の季節』86ページより引用

という一言に疑問を感じます。

なぜ、必ずと強調したのか、その言葉から推理が始まるのでした。

事件を傍観者の立場から解き明かすという、少し変わった設定が新鮮です。

謎の裏にある人の気持ち 

次の頼みは図書委員の後輩、植田登が兄のアリバイを証明してほしいと言うものでした。

先日、職員室の窓ガラスが割られたのですが、テスト期間中ということもあり、素行の悪い植田の兄が問題用紙を盗みに入ったのだろうと、疑いをかけられたのです。

証拠があるから大丈夫、という兄。

部屋や持ち物から疑惑当日の足取りを追うのですが、その結末は意外なものでした。

四番目の謎は、自殺したクラスメートが最後に読んでいた本を探してほしいという依頼でした。

その本の中には遺書がはさまれていると長谷川先輩は言います。

先輩の言葉を尊重する堀川と、ここでも疑ってかかる松倉はお互いの意見でぶつかります。

「本を探してほしい」と言った先輩には苦しい胸の内があったのです。

松倉の秘密 

最後の謎解きは、松倉詩門から堀川次郎への頼みでした。

いつもどおり暇な図書室で委員を務めていると、松倉が昔話をしようと堀川に持ちかけます。

そのテーマは宝探し。

松倉が話したのは、六年前あるところにお金を持っている自営業者がいました。

近所で窃盗が多発しているので、気をつけた方がいいと警官に言われ、お金を別の場所に移動します。

警官が盗みの容疑で逮捕されるのですが、その警官はニセの警官だったのでした。

自営業者はその後亡くなり、移動されたお金の行方を息子が探しているというもの。

この話が松倉のことだと気づく堀川は、ともにそのお金の場所を探すことになります。

果たして隠されたお金はどこに消えたのか?

謎とともに松倉の抱えている秘密も次第に明らかになるのでした。

『本と鍵の季節』を読んだ感想

堀川と松倉という二人の魅力的な人物が、それそれの視点で謎に挑みながら、お互いが成長していくさまも合わせて楽しめます。

まるで異なる考えをもつ二人ですが、お互いを認め、冴えわたる頭の切れをそれぞれ見せます。

けれど、まだまだ高校生という未熟な部分もあり、大人に向かって変化していく二人の関係も見どころです。

豊富な謎解きが楽しめる 

二人の性格が違う高校生とともに、暗号解読や、傍観者としての推理、アリバイ証明、本を探すといった色々な種類の謎解きが楽しめ、ミステリー好きには嬉しい作品です。

空気感が心地よい 

堀川と松倉が様々なミステリーに挑み成長し、友情を育む物語が楽しめます。

小説を読んでいる間、高校時代に流れていた空気や、夏から秋にかけての季節を感じながら作品世界に浸れます。

物語の展開に引き込まれる 

この小説は連作短編集になっていて、一章ごとに提示された謎は解決していきます。

そして堀川と松倉のもとに舞い込む謎から、松倉詩門が抱える謎へと進んでいき、次第に二人の関係も変化していくのでした。

含みをもたせた終わり方や、会話にページを繰る手がとまりません。

『本と鍵の季節』はどんな人におすすめ?

『本と鍵の季節』はこんな人に読んでほしい小説です。

  • 様々タイプのミステリーを読みたい人 
  • 爽やかな青春とほろ苦さを感じたい人 
  • 読むことはもちろん本そのものが好きな人 

読み応えのあるミステリーとともに、高校生二人の青春や友情も描かれます。

爽やかでいて、ほろ苦い気持ちになる読後感は、まるで秋の空のよう。

おわりに|二人を待ち受ける今後の物語に目が離せない

本という存在がキーワードとなり、作品がもつ世界観には本の匂いや知的さが加わり、ミステリーをより一層引き立てています。

高校生二人の心情変化が瑞々しく描かれ、学生時代に体験した特有の空気を味わえるのではないでしょうか。

物語のテンポもよく、ミステリーの伏線が繋がり、堀川と松倉の物語も展開していく構成は、本のページが風でパラパラとめくれるようなスムーズな気持ちよさがあります。

続編も刊行予定で、堀川と松倉の今後にどのような物語が待っているのか、次回作が今から楽しみです。

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