この人と出会うために生まれてきた。
あなたには、そう感じられる出会いがあるでしょうか。
人生は人との出会いによって紡がれていきます。
当たり前でありながら忘れがちなことを、あたたかく柔らかい文体で描いていくのが、この『ふたつのしるし』です。
春の日差しのもと、のんびりと風を感じながら散歩をするような、ほっと優しい気持ちになれる作品。
こんなご時世だからこそ手に取ってみていただきたい1冊を、ご紹介したいと思います。
著:宮下奈都
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『ふたつのしるし』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | ふたつのしるし |
著者 | 宮下奈都 |
出版社 | 幻冬舎 |
出版日 | 2017年4月11日 |
ジャンル | ほっこり感動系小説 |
この作品は、2012年から約3年に渡り文芸誌に掲載されました。
作者の宮下さんは、後に本屋大賞を受賞することとなる『羊と鋼の森』なども並行して執筆されていたそうです。
人間のありかた、そして人生の尊さを物語の中心に置き、丁寧に綴っていく作品。
不器用ながらまっすぐな「ふたりのハル」を主人公に、生きる喜びを見つけていくまでの軌跡を20年という長い時間軸で描いています。
『ふたつのしるし』のあらすじ
主人公は遥名と温之、ふたりの”ハル”。
出会うべくして出会った彼らを、長い時間軸でそれぞれの視点から描いていきます。
同じ時代を過ごしながらも、異なる子ども時代を過ごしたふたり。
同じ時系列で交互に綴られていくのが新鮮です。
「変わり者」のハル
小学校に入学した温之は、クラスになじめずにいました。
先生の指示よりも、自分が興味を持ったものに夢中になってしまうからです。
校庭で春のしるしを探すときも、アリの行列に夢中になって動かない。
いつしかクラスでは「変わり者」として距離を置かれてしまいます。
そんな温之に、クラスメイトとは対照的に興味を持ったのが、健太でした。
自分のおもしろいと思ったものにまっすぐになるということが、健太自身には到底できることではなかったからです。
そうして健太は温之のそばにいるようになり、ふたりは少しずつ距離を縮めていくのでした。
「優等生」のハル
同じころ、中学1年生だった遥名もまた、クラスになじめずにいました。
友達はいましたが、みんなに好かれるようにと言葉遣いや振る舞いを合わせて、窮屈に過ごしています。
勉強ができるとひがむ人が出てくるとわかり、できないフリもする。
誰かに難癖をつけられないように、できるだけ目立たないように過ごす。
まさに仮面をかぶった中学校生活でした。
そんな遥名にも、本当の遥名を見出そうとしてくれるクラスメイト・里桜がいました。
遥名が本当は優等生で、勉強もできて、思っていることを隠しながら生きていることも、里桜にはお見通しだったのです。
校外学習の昼食会場で、ふたりは「仮面」を外します。
遥名が遥名らしく生きれるようになるための、最初の一歩でした。
ふたりのハル
そうしてふたりは、それぞれの時間をそれぞれの場所で過ごします。
互いに共通しているのは、自分というちっぽけな存在と向き合いながら、ひたむきに前に進んでいくということでした。
全く違う場所に住み、交わるはずのなかった運命が、少しずつ重なり合っていく様子が描かれていきます。
『ふたつのしるし』を読んだ感想
全体をとおして優しくゆったりとした空気の流れている作品です。
純文学的な奥深さがありつつも、すっと胸に入ってくるような読みやすさを同時に持ち合わせている点が魅力。
作者・宮下さんの作品を読んだことがないという方にもおすすめしたい1冊です。
出会いという奇跡
人生において、誰と出会うかは非常に重要な要素です。
そのことを改めて教えてくれた作品でした。
物語のなかで温之が話している言葉が特に印象的です。
「しるしがついていたので、すぐにわかりました。この人だっていうしるしです」
出会うべき人の”しるし”が、温之にはなんとなく感じられたのでしょう。
私たちも、第六感のような場所で何かを感じ取り、出会いを選んでいるのかもしれません。
良い出会いも、振り返ると少し苦い出会いもある。
物語のなかでは、ふたりの”ハル”以外にも様々な出会いが描かれます。
出会うべくして出会う。
人生とはそういうものなのかもしれないなと感じさせてくれます。
ゆったりと流れるような文体
宮下さんの作品といえば、調律師を題材とした『羊と鋼の森』があまりにも有名です。
まさに調律された、無駄のない文体が作者の特徴だと感じました。
一方で、凝った表現というよりは、確かなあたたかさを持ったやわらかい文体でもあります。
物語自体が、大きな展開を持たずゆっくりと進んでいくなかで、この文体が絶妙にマッチしています。
「文章に浸る」という表現がしっくり来るような、味わい深い読書体験のできる1冊でした。
ふたつの視点
この物語を特徴づけているもうひとつの点として、ふたりの主人公の視点から綴られているということが挙げられます。
同じ呼ばれ方という共通点はあるものの、まったく違う人生を歩んできたふたり。
それぞれの人生が丁寧に描き出されていることから、単に登場人物についてト書きで説明するよりも、物語に立体感が生まれている印象でした。
別々に語られてきたふたりの人生が交差する場面は、読み手としてもほっと胸をなでおろすような気持ちになります。
『ふたつのしるし』はどんな人におすすめ?
『ふたつのしるし』は、こんな方におすすめです。
- ゆったりした気持ちで読書を楽しみたい人
- 爽やかな読後感を求めている人
- 人との出会いに思い入れがある人
物語全体が、ゆったりとした歩調で進みます。
ほっと一息つきたいときなど、落ち着いた気持ちで読み進めてほしい1冊です。
おわりに|出会うということは、奇跡の連続
物語のなかでは、本当に多くの出会いが描かれています。
ふたりのハルを、肯定してくれる出会いもあれば、批判や否定を突きつけてくる出会いもあります。
しかしどちらも尊い「出会い」。
そして、限られた時代にしか関わらなかった人も、自分の基盤となる体験や言葉を残してくれていることがあるかもしれません。
読み終わって本を閉じたとき、自分の人生についても、どんな出会いでここまで紡がれてきたかを思い出したくなるはずです。
出会うということが人生を作る。
尊い奇跡を、改めて思い出させてくれる1冊です。
著:宮下奈都
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