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『アフターダーク』感想|たどり着いた先は深夜の街、迎え入れるのは鈍い光

私たちが眠っているあいだ、世界は、街がは、どのようにしているのでしょうか。

深夜は大多数の人たちが眠っており、外の様子を知る者はそう多くはいません。

深夜にしか開かない店や、深夜にしか見られないもの、深夜にしか会えない人がきっといます。

行き場をなくした人たちは深夜にたどり着き、同じような人たちと出会い、そこでなにかを起こします。

それは運命的なものもあるでしょうし、刹那的なものもあるでしょう。

その人たちが安心して息を出来る場所が、深夜にしかなかったのならば?

深夜の街はそんな人たちを冷たくあたたかく迎えます。

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『アフターダーク』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトルアフターダーク
著者村上春樹
出版社講談社
出版日2006年9月15日
ジャンル不思議なボーイミーツガール

ボーイミーツガールを基盤にしながらも、著者である村上春樹の世界観を存分に詰め込んだ一冊となっています。

深夜帯から早朝にかけてのあいだ、眠った街で数人の男女が出会いました。

それぞれが抱えているもの、手放したいもの……深夜に光を浴びるたくさんの事象を紹介していくような、不思議なお話でした。

『アフターダーク』のあらすじ

物語は午後11時56分という時間帯から始まります。

語り手である視点は、ファミレスのデニーズで読書をするひとりの少女に焦点を当てます。

実の姉とのあいだに壁を感じていることや、その姉がもう二か月ものあいだこんこんと眠り続けていることなど、その少女には悩みがありました。

そしてとあるひとりの男性が、その少女のテーブルに近づいてくることから物語は膨らんでいきます。

深夜にたどり着いた人たち

深夜のデニーズで時間をつぶすために読書をする少女の名は、浅井マリといいました。

19歳のマリにはふたつ年上の姉、エリがいます。

容姿端麗でたくさんのアレルギー持ちのエリと、体が強く勉強ができることしか取り柄がないマリ。

ひたすら眠り続けるエリに対して、マリはなにやら複雑な想いを抱いているようでした。

デニーズでマリに声をかけた男性は、エリの同級生であるタカハシです。

彼はトロンボーン奏者で、深夜の街をさ迷うマリを気にかけたりその気があるような素振りを見せたりと、なにかと面倒見が良い男性でした。

マリはその後、ワケがあって困っているラブホテルマネージャーのカオルという女性や、そこで従業員として働くコムギとコオロギという名の女性たちとも出会います。

マリと彼ら彼女らの出会いが、深夜、なにかを変えていくのでした。

どこへも行けない

登場人物たちには帰る場所があります。

帰れる場所があります。

けれど、どの登場人物たちもみんな、”いま”はどこへも帰りたがっていないような印象を受けました。

たとえばマリは幸せな実家がありますが、となりの部屋でこんこんと眠り続ける姉のことを考えてしまうので、自分の家なのに眠れない、眠りたくないと考えているようです。

タカハシにもきちんと自分の家がありますが、彼は深夜中ずっとバンド仲間と練習をして、時間が空けばマリと会い、歩いたり話したりしていました。

ラブホテルに勤務しているカオルもまた、家はあるもののあまり帰っておらず、ほぼラブホテルに住み込みの状態のようでした。

家に帰りたくもない、どこにも行きたくないけれどどこかに生きたい人たちは、どのようにして夜に行きついたのでしょうか。

畳みかけるラスト、しかし……

マリがタカハシに吐露するエリへの切実な気持ち、そこにある確かな姉妹愛。

タカハシがマリに抱く特別な気持ち。

ラブホテルの一従業員がマリに告白する、残酷な自分の背景。

約300ページのうちラスト数十ページはこのあたりについて、文字通り畳みかけるように登場人物たちがそれぞれを語ります。

しかし、そこにはどうも不完全燃焼さが残されるような気持ちになりました。

それも、著者の意図を感じるような、わざとらしい燃えかすの残し方です。

まるで存分に考察の余地を残したぞ、とでも言いたげな……。

村上春樹という作家を読むならば、それは覚悟の上で読まなければならないのかもしれません。

『アフターダーク』を読んだ感想

悩んだ挙句深夜に行きついた人々はそこで光を浴びて自分について考えます。

そうして太陽が連れてくる新しい一日をまた、生きていくのです。

私たちが寝ているあいだに起こったかもしれないこの一夜は、私たちが生きる世界とそう遠くないところでの物語かもしれませんね。

眠れない夜のための物語

寝物語、と言うと少し複雑すぎるかもしれませんが、この本を読むのは眠れない深夜が一番向いているでしょう。

張り巡らされた伏線、しかしすべてが回収されることなく、それは読者の心に永遠に残ります。

読み終わったとき、布団のなかで、湯舟のなかで、移動中に、あなたは考えます。

あれはいったいどういう意味だったんだろう。

エリが眠り続ける理由は?

あの携帯電話の向こうの相手は?

正解を知っているのは著者だけですから、逆に言うと私たちは好きなように考察をすることができるのです。

眠れない深夜、あてもなく考えるにはうってつけでしょう。

村上春樹ワールドを堪能する

私は村上春樹の本に手を出したのはこれが初めてです。

ですがSNSなどの情報で村上春樹がどういった文体の持ち主なのか、どういった世界観を持つ作家なのかということはだいたい知っていました。

なので1ページ目をめくった瞬間に、「ああこれだ」と思ったことも不思議ではないように思います。

言い換えれば既視感のようなものを感じていました。

それほどにこの一冊は村上春樹ワールドが強く展開されていると言えるでしょう。

テンポの良い会話

登場人物の台詞が、たまにとても長いことがあります。

かと思えばとても短いこともあるのに、テンポが良く読みやすく感じるのはやはり村上春樹という作家の成せる技なのでしょうか。

あらゆる年齢層から支持される作家ですから、やはりそういった読みやすさという点においては名だたる文豪たちに引けを取らないところがあるようです。

一見難解に見えるけれどそこにくどさやしつこさはありませんし、内容のわりにささっと読めてしまいます。

やはり、村上春樹という作家の本は読んで損はないと思いました。

『アフターダーク』はどんな人におすすめ?

深夜が舞台ですから、家に常備して眠れない夜に読むという手があります。

約300ページなので程よい長さですし、一気に読まねばならないなんてこともありません。

そしてそれはこういう人たち……

  • 村上春樹の本に興味がある人
  • ゆっくり読める本が欲しい人
  • 静かな雰囲気の本が読みたい人

といった、とにかく落ち着いて読みたい人たちにおすすめしたいと思います。

なによりも、村上春樹ワールドを堪能できて尚且つ読みやすく一冊で終わってしまう作品なので、軽い気持ちで手が出せるはずです。

おわりに|深夜に行き場をなくした人たちは、鈍い光を浴びてひかる

深夜から早朝にかけて、私たちが眠っているあいだに出会った人々が起こしたのは、昼間では決して起きないことでした。

私はそれを眩しいくらいにあたたかく感じます。

人情にあふれて、冷たくもあたたかく、他人を拒まないけれど受け入れもしない。

都会の街の深夜はそういう雰囲気にもまれているようでした。

同じ地球上での知らない一面をまたひとつ見れたような気がします。

私には、エリの、マリの、タカハシの、コオロギの、行く末が幸せなものであるように祈るほかありません。

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