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『星の子』感想|信じるものを自分で選んでいくこと

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家族は、生まれたときからそばにあるもの。自分で選ぶことができないものです。

だからこそ、家族の違和に気づくのは、外の世界と関わりを持ってからになることが多いもの。

自分では普通だと思っていたことが、実は普通ではなかった経験をしたことのある方も多いのではないでしょうか。

今作の場合、その普通ではないことが、家族の信じる新興宗教として描かれます。

暖かい家族のなかにどうしても組み込まれた新興宗教。

それが外からどう見られるのか。

自分は何を信じるのか。

嫌でも対面せざるを得ない状況に陥った、中学生の主人公の内面がみずみずしく表現された作品です。

著:今村 夏子
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『星の子』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル星の子
著者今村夏子
出版社朝日新聞出版
出版日2017年6月30日
ジャンルヒューマンドラマ

『星の子』は、2017年に発表された、今村夏子による書き下ろしの中編小説です。

本作は同年に野間文芸新人賞を受賞し、2020年には芦田愛菜さん主演で映画化もされました。

『星の子』のあらすじ

幼いころ病弱だった主人公のちひろは、両親に大切に育てられました。

父親が会社の同僚にちひろのことを相談したところ、「それは水が悪いのです」と言われます。

両親が新興宗教にハマる

子煩悩な夫婦の次女として生まれたちひろ。

生まれてすぐに発症した発疹がなかなか消えず、病弱なまま幼少期を過ごすこととなります。

父親が会社の同僚に相談したところ、「金星のめぐみ」という「特別な水」を手渡されます。

その水でちひろの体を拭いてやると、肌の赤みがひき、2か月ほどで発疹がなくなっていきました。

それがきっかけとなり、両親は「ひかりの星」という新興宗教団体に入信します。

エスカレートする両親の行動

それ以降、両親の行動は熱心になっていきました。

水は「金星のめぐみ」以外使わないことはもちろん、その水をタオルに浸して頭の上に置いたりするようになります。

さらに「ひかりの星」の関連グッズを購入したり、教団に寄付をするようになり、ちひろの家は経済的に困窮していきました。

周りの人たちの視線

経済的に困窮したちひろの両親はいつも緑のジャージを来ていて、それ以外に服を持てないような状況。

そんな生活に嫌気がさした長女のまーちゃんは、ちひろが小学5年生のときに家出し、それ以降家族との交流を絶ってしまいます。

学校にも飲み水として「金星のめぐみ」を持っていくちひろ。学校での友人や先生、叔父の家族など、周囲の人々との交流を通して、ちひろは家族の違和に気づいていきます。

『星の子』を読んだ感想

一見すると暗い話のように思われるかもしれませんが、そうではありません。

宗教をのぞけば、どこにでもいる暖かい家族。

そんな状況で描かれるヒューマンドラマで、一気読みしてしまいます。

「特別じゃない」宗教

無宗教の人口が多い日本。

「宗教」と聞くと特別なものに感じるかもしれません。

しかし主人公のちひろにとっては、物心ついたときから両親を通して日常に溶け込んでいるもの。

ちひろの視点で進む本作では、宗教は馴染みのあるものとして描かれています。

長女のまーちゃんとは違い、中学生のちひろは「ひかりの星」に対して肯定的な感情も、否定的な感情も持っていません。

どう対応するべきか迷い始めた、と表現するのが適切かもしれません。

ある種ニュートラルな視点で描かれる物語なので、両親や家族の気持ちも、周囲の人々の気持ちも、平等に表現されているのが魅力的でした。

周囲の環境との対比

周囲の人々からすると、ちひろの家族は異質であり、そこからちひろを救い出してあげようとする動きもありました。

たとえば叔父の家族からは、「今の家を出てうちで暮らさないか」という提案を持ち掛けられます。

また、学校で出た不審者情報が、実は公園で頭に「金星のめぐみ」を含ませたタオルを乗せた両親のことだったり……どうしても家族の中と外のギャップを感じざるを得ない場面が多く描かれます。

その対比が、中学生という多感な時期のちひろを通して語られるのが、とてもみずみずしく、面白いところでした。

テンポのいいストーリー展開

作品全体を通して、軽めの会話を中心に物語が展開していきます。

そのため、内容の重さに比べてものすごく読みやすい小説に仕上がっています。

ストーリーのテンポもよく、気づいたら読み終わっていた、という方も多いかもしれません。

『星の子』はどんな人におすすめ?

本作は、内容が純文学寄りであるにもかかわらず、文章が軽く読みやすい一冊です。

220ページの中編で、ストーリーに深く入り込めるのにすぐ読める、というちょうどいい長さとなっています。

そのため、

  • 純文学を読んでみたい人
  • 学生時代のみずみずしさを体感したい人
  • 一気読みできるような小説を読みたい人

というような人におすすめです。

おわりに|きっとみんな何かを信じながら生きている

本作では、主人公のちひろの他にも、いろいろな人物が登場します。

両親はもちろん、姉のまーちゃん、学校の先生、叔父、いとこ、「ひかりの星」の同年代の子どもたちなど、それぞれがそれぞれの思いや信念をもって存在している様子が、魅力的です。

そんな中でも、ちひろの葛藤や思考は中学生らしくめまぐるしく、その成長を一緒に体感することもできます。

想像が膨らむラストに、本を置いてからため息をついてしまうような一冊です。

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