ホラー、ミステリー、SFなど幅広いジャンルの作品で活躍されている「貴志祐介」さん。
映像化された『黒い家』『悪の教典』『新世界より』『鍵のかかった部屋』などは特に有名で、ベストセラー小説となっています。
『極悪鳥になる夢を見る』は、そんな貴志祐介さんが1996年のデビュー以来手がけた全エッセイから、精選されたものだけを収めたエッセイ集です。
作品を完成させるまでの裏話のみでなく、ある時はスッポン鍋の調理をブラックユーモアで描き、ある時は不思議な早口言葉をひねり出し、ある時は阪神タイガースへのあふれる愛を爆発させ、作家としての立場で社会へ提言する・・・。
日常に関することから作品に関することまで、非常に多彩な内容となっています。
今回は、当代一流の知性派作家の素顔を知ることができる『極悪鳥になる夢を見る』についてご紹介していきます。
著:貴志祐介
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『極悪鳥になる夢を見る』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 極悪鳥になる夢を見る |
著者 | 貴志祐介 |
出版社 | 文春文庫 |
出版日 | 2017年4月10日 |
ジャンル | エッセイ |
エンターテイメント小説の鬼才・貴志祐介さん。
『極悪鳥になる夢を見る』は、ショートショートのようにさまざまなテーマについての短いエッセイが多数収められています。
例えば、お得意のホラー小説を思わせるような恐怖で背筋が寒くなる話、海外へ旅をした時の話、色々な生物への洞察、恐ろし気な絵画やお面への解釈など。
もちろん本作のタイトルとなっている「極悪鳥」についてのエッセイもあります。
また、韓国で行った講演会「文学におけるヒューマニズムと悪について」も特別収録。
純文学とエンターテイメントという異なる立ち位置からの「ヒューマニズム」や「悪」に対する認識や、作者が殺人や残虐行為などを描く意味が明晰に説明されていて、読み応えがあるものとなっています。
真面目な話からついつい笑ってしまう面白い話まで、貴志祐介さんらしい知的な文章で描かれた、幅広く楽しめるエッセイ集です。
『極悪鳥になる夢を見る』のあらすじ
本作は、貴志祐介さんがデビューして以来新聞や雑誌などで書かれたエッセイを、ほとんどオリジナルのまま収録したエッセイ集です。
知性を感じる文章ながらも、いたるところにギャグや小話を入れてあり、笑いを取ろうというエンターテイメント作家としてのサービス精神も感じられる一冊。
行間から人柄や日常の光景が自然と浮かび上がってきて、作家の頭の中を覗き見ることができます。
多彩な内容
本作は全部で8つの章から構成されていて、章ごとにテイストが異なります。
最初、リアルな恐怖体験に関するエッセイから始まります。
作者はホラー作家でもあるので、どんな怖いエッセイ集なんだろうかと思いつつ読み進めると、怖くない話がほとんどであることが分かります。
怖くないどころか、作家のユーモアセンスがおおいに発揮された「スッポンの首」「親戚志願」「横メシ」「日没の町」など、クスクス笑ってしまうような話もあります。
「阪神タイガース」についてのエッセイが複数あることから、かなり熱烈な「阪神タイガースファン」であるようです。
読者みんなが楽しめるように、偏りなく多彩な内容となっています。
作者の経験の作品への反映
本作には『黒い家』を書くに当たって役立った生命保険会社での事務経験の話や、『新世界より』で日本SF大賞を受賞した際の「第29回日本SF大賞受賞の言葉」、『新世界より』制作についてのインタビュー記事などが掲載されています。
京都大学卒業後、8年間のサラリーマン生活を経てなぜ作家になったのか。
今までにどのような本をどのくらい読んできたのか。
貴志祐介さんの経験がどのようにベストセラー小説に反映しているのかを汲み取ることができる内容となっています。
特にインタビュー記事からは、作家が持つ膨大な知識量は常人離れした大量かつ多彩な読書経験からきているのだということが理解できるでしょう。
読みやすい
各エッセイは、一部を除きコンパクトな分量に収められ、読みやすくなっています。
例えば、10枚の絵画についての筆者なりの解釈を書いた箇所は、それぞれ絵画の写真を含め見開き2ページ分しかありませんが、作者の着眼点が鋭いため、非常に読み応えがあります。
「早口言葉創作法」では、筆者の語彙力と文章創作力、その完成度の高さに驚嘆することでしょう。
台湾や四万十川に行った話は、旅行記として気軽に楽しく読める話になっています。
難解なものと気楽に読める話のバランスが取れていて、読者を疲れさせず飽きさせません。
『極悪鳥になる夢を見る』を読んだ感想
本作は難解な言葉や漢字が多く出てきたり、心理学や生物学の話が出てきたりと知的な雰囲気を醸し出しつつ、練られた文章とあちこちに仕込まれているギャグや小ネタのおかげで、スラスラと読み進められるのが特徴です。
貴志祐介さんをじっくり堪能できるオススメの作品となっています。
非常に頭が良く、サービス精神豊富な人柄
貴志祐介さんは全体を通して物の見方がとても面白く、想像力豊か。
しかも生物学、心理学、海外(駐在・旅行・英語)、絵画、野球など、さまざまなことに精通されていることが、本作から自然と伝わってきます。
作家の作品たちからイメージしていた通り、とても頭の良い知的で真面目な方であると分かります。
特に「気になる言葉」というエッセイでは、言葉の使い方に対する強いこだわりが伝わってきて、さすが作家さんだと思いました。
軽妙洒脱という感じの文章ではないですが、「読者を楽しませよう」というサービス精神に富んだ人柄だということもよく伝わってきました。
もっと読書がしたくなります
本屋さんで大長編の本を毎日立ち読みしていた話や、1日に7冊も本を読んだというエピソードから、作者の子ども時代からの読書量の多さに驚きました。
作者の知識量の多さは読書量の多さに比例しているようです。
本作の中で、作家が影響を受けたおすすめの本がたくさん紹介されています。
貴志祐介ファンには興味をそそられるものが多いのではないでしょうか。
私もこれから読んでみたいと思う本をいくつも見付けることができました。
あのベストセラー小説の元ネタが分かる
海外で暮らした思い出や、作家になる前のサラリーマン時代の苦労話、日常の出来事から創作に関する心構えなど、掲載されているエッセイには特にテーマ的な統一性はありません。
しかし、日常の何気ない出来事からどのように小説のアイデアを拾い、想像力でもって育てていくのかという、筆者の思考を垣間見られる話が豊富に書かれています。
例えば『新世界より』では、主人公たちが夏季キャンプで利根川をカヌーで進む様子がとても詳細に描かれていますが、そのネタ元となるのが四万十川でカヌーツアーに参加したエピソードであることが分かります。
貴志祐介さんの小説ファンであれば、「これはあの作品に登場したあのシーンの元ネタだな」という視点でも読むことができて二重に楽しめるでしょう。
『極悪鳥になる夢を見る』はどんな人におすすめ?
『極悪鳥になる夢を見る』は、多くの人が楽しめる作品だと思いますが、特に以下のような人におすすめしたい小説です。
- 貴志祐介ファン
- 知的なユーモアが好きな人
- スキマ時間に読みたい人
本作は貴志祐介さんの作家となるまでの半生や日常生活を知ることができる以外に、各小説の元ネタとなるできごとや発言が多く収録されています。
読むと、貴志祐介作品の核となるアイデアのほとんどは筆者の実体験から精選されたものであることが分かるでしょう。
また、作品ができるはるか以前に着想を得ていて、長い時間をかけて想像力で膨らませ、育ててきたものであることが分かります。
だから、あれほどまでに緻密に作りこまれたストーリーを書けるのだと得心しました。
貴志祐介作品をたくさん読んでいるファンにとっては、読めば読むほど嬉しい発見がある本だと思います。
また本作は知的好奇心を掻き立てられたり、ぷっと噴き出してしまったり、背筋が恐怖でぞくっとしてしまったりと、多彩で最後まで飽きさせない内容で、とても楽しいエッセイ集となっています。
基本的に各エッセイは短いため、通勤電車の中や寝る前のリラックスタイムなどのスキマ時間に読めるので、忙しい人や読書に慣れていない人にもおすすめです。
おわりに|貴志祐介さんが凝縮された最初で最後のエッセイ集
エッセイは作者の人となりが分かるなと改めて思いました。
そしておそらく、貴志祐介作品からイメージしていた作者像と一致していると感じられる方が多いのではないでしょうか。
本作だけでももちろん楽しめますが、まず作者の小説を読んでから手に取ると、より一層味わいが増すでしょう。
あとがきで、「最初で最後のエッセイ集になる」と書かれていますが、また新しいエッセイ集が出ることを期待したいと思います。
著:貴志祐介
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