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『赤×ピンク』感想|格闘を通して成長する女たちの物語

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〈キャット・ファイト〉

それは女性同士での取っ組み合いやケンカ、格闘のことです。

だいたいの人が見たことがあるものと言えばやはり取っ組み合いのケンカでしょう。

最近ではテレビのおもしろ映像などでも流れたりしますね。

そして女子プロレスなどもキャットファイトと呼ばれることがあります。

こちらは見たことがある人もいるでしょうが、日常生活ではあまり目にしません。

今回取り上げた小説であるこの『赤×ピンク』では、格闘のほうのキャットファイトが話の軸になっています。

女性たちが格闘のなかに見出すものはただ勝つことだけではなかったのです。

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『赤×ピンク』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル赤×ピンク
著者桜庭一樹
出版社角川書店
出版日2008年2月23日
ジャンル格闘系成長物語

夜な夜なキャットファイトに勤しむ数人の女性たちは、自らの生き方に悩んでいました。

きっとだからこそ、格闘というものに夢中になっていたのでしょう。

格闘に携わるなかで、彼女たちは夢から覚めるように自分の人生を掴みなおします。

『赤×ピンク』のあらすじ

廃校となった小学校では毎晩、女性同士が格闘技を繰り広げあうキャットファイトが行われていました。

社長だという男と数人のウェイター、いろんなコスプレ衣装を着た女性たち、そしてなくてはならない観客。

それが作り上げるのが、ガールズブラッドです。

そこには幼く可愛らしい容貌の女性から高身長でサディスト風の女性まで、あらゆる女性がそろっていました。

一対一で戦い、血を流し、痣を作り、けれど終わってしまえば仲良くシャワーを浴びて一緒に帰ります。

本作品は3部構成になっており、それぞれ語り手が異なります。

順番に見ていきましょう。

14歳のまゆが見つけた21歳の生きる道

14歳、とありますが語り手のまゆは21歳です。

彼女はピンクのフリフリの、ウェイトレス服風の衣装を身に着けて戦います。

精神状態が不安定なので周りの人間はみんな気を遣っていますが、本人はそのことを知りません。

自分のことを生命力が弱い人間だと客観視していて、孤独が好きなわりには寂しがり屋です。

観客に囲まれた檻のなかでだけは、彼女は生きる気力にあふれていました。

ここで戦う女性はみんな、格闘技から逃げられない弱さをさらけ出していて、自分だけが弱いわけではない……そう思うことができます。

14歳を演じるまゆはいつまで観客に囲まれた檻のなかで戦うのか、自分の生きる道をそこ以外に探し出せるのか、まゆの運命はある男の登場により変わります。

おもちゃからひとりの人間になったミーコ

ミーコはまゆと一番仲の良い、〈仕事仲間〉でした。

社長はよくそのふたりに試合を組ませていました。

ミーコは昔から人の期待に応えるのが上手く、相手がなにを欲しているのかなどが手に取るようにわかり、気が回りすぎなほどです。

ミーコは未成年でしたが実家を追い出され、夜はガールズブラッドで、昼はSMクラブで女王様をしていました。

まゆと同じでガールズブラッドの檻のなかだけが彼女の生きる希望で、そして格闘技そのものも彼女が生きるための支えでした。

自分は間違いなく格闘技に魅せられた人間で、ガールズブラッドの外であっても格闘技があれば生きていけると気づいたミーコはきちんと自分の道を歩み始めます。

“普通”の家庭で育った”普通じゃない”皐月

サラシを巻いて白ランを羽織り、アッシュ・ブロンドの髪をリーゼント風に固めているのは皐月というボーイッシュが売りの女性です。

女性嫌いでほかの女性の着替えなどをなにがなんでも避ける彼女は、ほかの女性からはなぜ自分も女なのにと不思議に思われていました。

そんなとき、千夏という新たな女性が面接に訪れます。

千夏はスマックガールという女子格闘技団体に所属していた、本格的な格闘家でした。

皐月がなぜそこまで女性と一緒に着替えやシャワーをしないのか見抜いた千夏は、どんどんと皐月との距離を縮めていきます。

ありのままの自分でありたいという思いがあるのに、誰にも言えずここまできた皐月。

自分という人間がどういうものでなにを欲しているのか千夏に気づかされ、彼女は前を向きます。

『赤×ピンク』を読んだ感想

少女、女性、というものはなにかとギスギスしがちだとかねちっこいケンカをするだとか言われます。

実際そういうことはあるのでしょう、それは男性と同じだけか、あるいはそれよりも少しだけ多く。

少女や女性は世間が言うより自分たちを大事に想い合っています。

『赤×ピンク』ではキャットファイトのなかに、リアルな女性同士の思いやりや優しさなどが垣間見れます。

着眼点がいろいろあるので、何度も深く読める作品でした。

いつか通った、通るかもしれない道

大人になった女性が読むとどこかなつかしい気持ちに襲われるのではないでしょうか。

まゆ、ミーコ、皐月、千夏……そして同じくガールズブラッドで働く女性たち。

みんな、大人になった女性読者の〈いつか〉なのです。

ぶつかり合い思いやり合い、血を流してでも友情を深めていく……。

それは私たちがいつか通った道で、誰かがこれから通る道です。

絶妙な少女像、それを書くのはやはり桜庭一樹なのでした。

仲間

社会的弱者であるガールズブラッドの女性たちは、開催地である廃校に行きさえすればそこに仲間がいることを知っています。

みんなどこか不安定ながらも生きていけているのはその事実があるからなのでしょう。

自分と同じく社会的弱者で、自分と同じくどこか不安定で、そしていつも何かを探していることをお互いに知っている彼女たちは血を流して戦います。

文字通りこぶしとこぶしでぶつかり合うのです。

格闘はメインではない

キャットファイトや格闘技というテーマがありますが、あくまでファイターである女性たちの背景がメインですので、そのテーマを見て避けることは賢い考えとは言えないでしょう。

私自身、格闘技などの知識はまったく無く、むしろ避けていたようにすら思います。

けれど大好きな作家が書いているのであればと読みました。

読んでみれば格闘技についての小説ではないことがすぐにわかりますし、女性同士のどろどろとした醜い話ではないことも理解できるでしょう。

格闘技、という文字で避けるよりは深く考えずに読むことをおすすめしたいと思います。

『赤×ピンク』はどんな人におすすめ?

桜庭一樹作品ですので相変わらずガールミーツガール作品となっています。

リアルな少女像の描写に桜庭一樹のこだわりを強く感じるという点では、他作品と少し違うのかもしれませんが。

女性読者に限ってですが、懐かしさやデジャヴ感を味わえるでしょう。

特におすすめしたいのは、

  • 女性同士という関係を知りたい人
  • 少し込み入った少女像を感じたい人
  • キャットファイトに興味がある人

などなどです。

おわりに|格闘技を通して、女たちは自分の道を見つけ出す

どこかなにかが欠けたような女性たちが格闘のなかで見つけ出した大事なもの、それは自分の生きる道でした。

彼女たちが格闘技に魅せられとりこになり、そのすえに掴んだもの、掴むもの。

それは俗にしあわせと呼ばれるものかもしれません。

まゆ、ミーコ、皐月、千夏はもちろん、きっとほかのファイターである女性たちにもそれぞれの物語があるのでしょう。

いつかその物語も見てみたいものです。

複雑で気弱で、自分をないがしろにしてきた彼女たちの人生はこれからどうなっていくのでしょう。

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