Once upon a time・・・あるところに、赤ずきんという女の子がいました。
彼女はクッキーとワインが入ったバスケットを持って、長い旅に出たところです。
その目的は病気のおばあさんのお見舞い・・・ではなく?
「あなたの犯罪計画は、どうしてそんなに杜撰なの?」
・・・が決め台詞で?!
童話の世界を旅する超個性派赤ずきんが、出会った死体にまつわる謎をズバッと解決!
夢と魔法の世界で、アクの強いキャラクターたちが繰り広げる、驚き連続の物語。
誰も出会ったことのない「おとぎ話×本格ミステリ」がここにあります。
著:青柳碧人
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『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。 |
著者 | 青柳碧人 |
出版社 | 双葉社 |
出版日 | 2020年8月19日 |
ジャンル | 童話ミステリ |
本作は、日本昔話とミステリを融合させて大ベストセラーとなった『むかしむかしあるところに、死体がありました。』に続く、”昔話ミステリ“の第二弾。
今回は西洋童話の世界を舞台に本格ミステリが展開されます。
独立した短編の集まりである第一弾とは少し異なり、赤ずきんが本作を通じての探偵役を果たす連作仕立て。
2021年秋には待望の最新作、『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』も刊行され、「昔話ミステリ」旋風はとどまるところを知りません。
『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』のあらすじ
赤い頭巾がトレードマークの赤ずきんは、シュペンハーゲンまでの長旅の途中。
行く先々で『シンデレラ』『ヘンゼルとグレーテル』『眠れる森の美女』『マッチ売りの少女』といった童話の世界に、わりとズカズカ入り込んでいきます。
おとぎの国で勃発する難事件を、舌鋒鋭く解き明かしていく赤ずきん。
果たして彼女の最終目的とは?
ガラスの靴の共犯者
長旅に出た赤ずきんが、とある小川のほとりで出会ったのは、2人の魔法使いとシンデレラと名乗る女の子でした。
シンデレラの服は粗末でホコリだらけ。
靴は意地悪な姉に取り上げられてしまっていて、裸足です。
その日お城では、王子様のお嫁さん探しのための舞踏会が開かれていましたが、そんな恰好では参加できるはずもありません。
しかしそこは2人の魔法使いの出番です。
シンデレラとともに魔法で美しく変身した赤ずきんは、ネズミの御者にひかれ、かぼちゃの馬車で舞踏会へ。
赤ずきんは自分の靴を、シンデレラは魔法使いから借りた靴を、持ち主にしか履けないガラスの靴に変えてもらっています。
ところがお城へ向かう途中、木の陰から急に飛び出してきた男を馬車でひき殺してしまい・・・!
赤ずきんはシンデレラとともに、その死体を森に隠してお城へ向かい・・・?!
甘い密室の崩壊
シンデレラの共犯者になりかかりつつも、すべての謎をすっかり解き明かし、旅に戻った赤ずきん。
お腹が空いてしまい、マイフェンという町でいろいろな人に食べ物をせがんでみますが、誰も相手にしてくれません。
フラフラな状態で夜を迎えそうになりますが、大きな森を目前にした最後の1軒で、グレーテルという女の子に救われます。
兄のヘンゼルは、最初は疑わしげな目つきだったもののやがて妹に賛同し、赤ずきんはそこでミートパイを頂くことに。
しばらくすると母が帰ってこないことを心配しはじめた兄妹と父親。
彼らと、行きがかり上赤ずきんも一緒に、捜索へ出かけることになりました。
深い森の中を進んでいくと、人間の言葉を話す、森の管理者だという聖なるオオカミが出現。
そのオオカミについていくと、見たことのないお菓子の家が現れて・・・。
家の中の倒れた食器棚の下では、捜していた継母が死んでいて・・・?!
眠れる森の秘密たち
お菓子の家での事件も解決に導いた赤ずきんは、新たな旅の一歩を踏み出します。
グーテンシュラーフ王国に入り、宰相のキッセンが困っているところを助けたことから彼の屋敷に泊まらせてもらうことになった赤ずきん。
その夜のお屋敷には、彼らの他に妙な人ばかり4人が集まって、晩餐会が開かれました。
召使いの男性トロイと赤ずきんと同い年くらいの女の子グリジェも一緒です。
何か面白い話はないかと問われた赤ずきんは自身が解決した事件の話を披露し、お返しに悪い魔女の魔法で百年の眠りについてしまった王国の姫の話を聞きます。
翌日は月に1度、そのオーロラ姫の寝姿を見に行く日に当たるとのことで、赤ずきんも連れて行ってもらえることになりました。
そして翌朝、朝食の最中に飛び込んできた召使いのトロイは「息子のメライが人殺しの罪で捕まった」と告げて・・・!
冤罪ならば晴らしてもらおう、と皆の期待を集めた赤ずきんは・・?!
少女よ、野望のマッチを灯せ
王国での複雑に絡み合った謎も解き明かした赤ずきんの旅は、いよいよ終わりに近づいていました。
カラフルな倉庫街がある港町に着いた赤ずきんは、マッチ会社の社長として辣腕を振るうという、正真正銘の「マッチ売りの少女」の話を聞きます。
少女の名はエレンと言い、「エレンのマッチ」は性能の良さもさることながら、その特殊な力で大きく売上を伸ばしていました。
エレンのマッチが持つ特殊な力とは、願い事をしながら擦ると、望みのものが目の前に現れたような夢を見ることができるというもの。
そのマッチの力は赤ずきんにも関係して・・・?
旅の終わりに最大の事件に巻き込まれていく赤ずきんは・・・?!
『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』を読んだ感想
かなりの個性派赤ずきんと、彼女に劣らぬ強烈なキャラクターたちが織りなす本作の世界。
それは童話を下敷きにした緻密な本格ミステリとして、読者を魅了することでしょう。
そしてまた、さまざまなトリックによって新しい顔を見せる童話としても、楽しめること請け合いです。
緻密な仕掛け満載の本格ミステリ
本書には、本格ミステリで用いられる高度なテクニックが満載。
例えば、物語の出だしで犯人や犯行の様子を明かしてから、どのように犯人を追い詰めるかを描く「倒叙」の手法。
犯行不可能と思われる「密室トリック」に、張り巡らせた「伏線の回収」。
施された仕掛けは非常に緻密で、すぐにほころぶようなヤワなものではあり得ません。
本作はまさしく本格ミステリそのもので、赤ずきんは「シャーロック・ホームズ」や「コナン」ばりの名探偵です。
しかも、赤ずきんが解き明かすのは事件そのものだけではないのです。
奥深くに潜んだ最大の謎や秘密があぶり出される様は圧巻で、必ずや読者を魅了することでしょう。
夢と魔法とトリックのおとぎ話
本作で赤ずきんが旅する世界は、かなり改変された童話の世界です。
しかし、童話を童話たらしめている重要な要素、例えば「魔法」や「夢」「不思議」などはほとんどそのまま活かされており、童話本来の美点を損なっていません。
それどころか、完璧な証拠隠滅が魔法によってなされたり、不思議の消滅とともに犯行現場が崩壊してしまったり。
童話的要素がかえってミステリの魅力を底上げしているとさえ言えそうなのです。
そして考えてみれば、童話もミステリも最強のエンターテイメント。
融合させたら面白いに決まっています。
夢と魔法の国をミステリとして再構築した、全く新しい物語としても存分に楽しめる本作は、超最強のエンタメ作品であると言っても過言ではないのです。
クセがすごい強烈なキャラクターたち
赤ずきんを筆頭に、本作に登場するキャラクターはかなりの個性派揃いです。
何故か靴にかける魔法だけ高確率で失敗する魔法使いと、靴に魔法をかけまくる魔法使い。
相当に不穏なヘンゼル。
良い人だけれど悪趣味な格好をした宰相のいとこの孫に、キザすぎるイタリアの伊達男。
辣腕経営者であるマッチ売りの少女。
挙げ始めたらきりがないくらい、強烈な印象を残すキャラクターが次々に登場します。
そして何といっても素晴らしくおかしな個性の持ち主が、主人公の赤ずきん。
そもそもの初めの事件から、共犯者になりかねなかったのですからびっくりです。
次の町では、お腹が空いていても何も恵んでくれない人たちに「ケチ!」と憤ったり。
その次の王国の宰相に対しては、「このおじいさんが宰相?そんなわけありません。ちょっとボケているのでしょう。」などと思ってみたり。
そんな赤ずきんと登場人物たちが交錯する物語が、面白くないはずはないのです。
『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』はどんな人におすすめ?
私が『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』をおすすめしたいのは、以下のような方です。
- 類い希で個性的な本が読みたい
- ユニークな本格ミステリを堪能したい
- クセがすごいおとぎの国に入り込んでみたい
少し変わった童話やミステリは今までにもありましたが、ここまで本格的に変わった試みをした小説は初めてではないでしょうか。
それだけに、本作にはかなりのインパクトがあります。
こんなおとぎの国をモチーフにしたテーマパークがあったら、行ってみたいかもしれないと、恐々思っている私です。
おわりに|「童話ミステリ」という新エンタメ小説の誕生
童話や昔話といってまず思い浮かべるのは、詩的で好感が持てる純粋な物語ではないでしょうか。
良い人が救われて、悪い人は痛い目を見るといった真っ当な教訓が含まれる場合も多いですよね。
対してミステリは、不穏で不条理。
そして、具体性のある論理的な読み物というイメージかと思います。
童話とミステリは対極にあるといってもいいかもしれず、故にその二つを大胆に結び付けるという発想が生まれにくかったのかもしれません。
しかし、どちらも魅力的な物語だ、ということは共通しているわけです。
その部分さえ共通していて、あとは上手く混ぜ合わせる技量があれば、むしろ異質なもの同士の融合であればあるほど、斬新で面白いものができる。
そんな仮説を見事に証明している本作を、ぜひともご堪能ください。
著:青柳碧人
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