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『滅びの前のシャングリラ』感想|世界が滅亡する前だからこそ訪れた理想郷

これは一ケ月後に小惑星が落ちてきて人類は滅亡する、そう宣告されてからの4人の人物の物語です。

 一ケ月後には人類が全員死んでしまうのですから、日本も社会の秩序は崩壊し、食糧や物資をめぐっての暴力や殺人が当たり前となる殺伐とした世界となってしまいます。

想像するだけで恐ろしい状況ですが、4人の登場人物たちは滅亡までの一ケ月の間にそれぞれシャングリラ、即ち自身の理想郷を得るために行動を始めます。

定められた絶望の中での幸せとは何なのか。

残された時間を精一杯生きる登場人物たちが最後に何を欲し何を思うのか。

繊細な心理描写と相まって幸せというものについて考えさせられる一作です。

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『滅びの前のシャングリラ』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル滅びの前のシャングリラ
著者凪良ゆう
出版社中央公論新社
出版日2020年10月7日
ジャンル現代SF

この本は2021年本屋大賞ノミネート作品となっています。

作者は2020年本屋大賞受賞作品『流浪の月』の凪良ゆうさんです。

本屋大賞は全国の書店員が選ぶ賞となっており、最も本と触れる機会が多い一般の方が選ぶ賞であることから、

  • 「読みやすく」
  • 「わかりやすく」
  • 「面白い」

ものが多い印象があります。

そんな本屋大賞に2年連続でノミネートされた作家さんなだけあって、本書の面白さは折り紙付きとも言えるでしょう。

『滅びの前のシャングリラ』のあらすじ

これまで人生をうまく生きることができなかった4人の登場人物たちが織り成す連作短編小説です。

一ケ月後に滅亡する世界を前に彼らに起きた変化と楽園に至るまでの過程が、心理描写に定評のある凪良ゆうさんならではの切なくもこまやかな描写で綴られた物語となっています。

登場人物たちの大きな変化

一ケ月先の滅亡を前に、それぞれの登場人物たちには変化が起きます。

引っ込み思案の少年は

  • これまで見ているだけだった片思いの少女を守るために
  • 荒くれ者の男は昔逃げられた恋人に会うために
  • 少年の母親はこれまで与えられなかった家族団らんを少年に与えるために

人気アイドルは自分の本当にやりたいことを行うために行動を起こします。

滅びの前だからこそ

4人の登場人物たちはそれぞれ「これまで人生を上手く生きられなかった」人々です。

それぞれ罪を犯していますが、しかし一ケ月後にはすべて滅びる社会において彼らを裁くものはいません。

だからでしょうか。

本来であるなら人生の終わりだと嘆くところですが、登場人物たちには一切悲壮感はなく、どこか楽し気に残りの一ケ月の生活を過ごしていくのです。

定められたラストに向かって

一ケ月先に地球に隕石が落ちて人類は滅亡する、このストーリーは変わりません。

隕石が落ちるのを阻止するとか、地下シェルターに逃げ込むとか、そのような生き延びるための行動をこの登場人物たちは一切起こさないのです。

読者はただ登場人物たちが滅亡までの日をどのように生きるか、滅亡の日を誰とどんなふうに過ごすか、どのような感情を抱いて最期を迎えるかを読み進めることになるのです。

『滅びの前のシャングリラ』を読んだ感想

この作品の興味深いところは「人類が滅亡する」という避けられないバッドエンドが定められているにもかかわらず、バッドエンドが存在するからこそのハッピーエンドをつかみ取ることのできた人々の物語だということでしょう。

どうあがいても完全なハッピーエンドにはなれない登場人物たちですが、それでも彼らは自分たちの楽園の中で「幸せ」を見つけます。 

罪が罪でなくなるからこその楽園

4人の登場人物たちはそれぞれ殺人を犯しています。

本来の社会であるなら許されない罪であり、逃げられないものでしょう。

しかし一か月の滅亡に向けて社会規律は稼働しなくなり、警察も司法も役に立たない世の中になってしまいます。

殺人も暴力も略奪も当たり前のように横行する恐ろしい状況の中、しかし登場人物たちは「だからこそ」自由に生きることが出来るようになります。

平素であるなら幸せを得られなかったであろう彼らが幸せをつかみ取っていくようすは、切なさとホッとする感情という矛盾した感情を読者に与えるかもしれません。

奇跡の家族

4つの短編のうち3つがある家族の3人の一人称によって描かれています。

この父親は、幼少期の体験から自分の身の内にある暴力的な感情をコントロールできないため、上手く社会に適合できず所謂はみ出し者として生きていました。

しかし、平素では恐らくうまく暮らすことが出来なかったであろうこの家族が、暴力が横行する社会になったからこそ「普通の家族の幸せ」を築いていく様子は、これから待つ未来が悲惨なものであるにも関わらず、応援したいような良かったねと安堵するような気持ちにさせられてしまいます。

ハッピーエンドかバッドエンドか

読者は物語を読み進めるにつれ、登場人物たちに感情移入してしまうでしょう。

しかしこの物語のラストは間違いなくバッドエンドと定められています。

ラストには登場人物たち全員が同じ場所で、同じ最期を迎えることになります。

しかし楽園にたどり着いた登場人物たちは全員幸せそうでそこに悲壮感は微塵もありません。

この物語は果たしてハッピーエンドだったのかバッドエンドだったのか。

読み手によって意見は分かれそうですが、その読了感は悲しいものばかりではなくどこか幸福感を伴うものなのではないかと思えます。

『滅びの前のシャングリラ』はどんな人におすすめ?

この物語は連作短編ものであり、それぞれの登場人物の一人称で綴られています。

心理描写も繊細かつ丁寧であり、人物の年代も老若男女と幅広い連作短編小説ですので、4人のうち誰かひとりには共感しやすく、どんな年代の方にもお勧めできる作品となっています。

  • ティーンエイジャー
  • 家庭を持つ人
  • 繊細な心情描写が好きな人

1つ目の物語は10代の少年少女の甘酸っぱい恋愛模様を主軸として進められます。

そのためティーンエイジャーは身近に感じ、面白く読み進めることができるでしょう。

2つ目と3つ目の物語は壮年の男女の物語。

こちらは家族を作りたかった二人がこの状況だからこそ円滑に家族を得る物語となっています。

初対面の男と息子がぎこちなくゆっくりと家族になっていく様はあたたかく、家庭を持っている人の心に沿えるのではないでしょうか。

 また、作者である凪良ゆうさんはボーイズラブ小説のジャンルで10年以上のキャリアを持っている異色の作家さん。

「人と人が理解しあえない生きづらさ」を一貫して書き続けた方で、孤独な人々の持つ心のやわらかくも切ない描写は読み手を惹きつけていく魅力にあふれています。

繊細な心理描写をじっくりと味わいたい方には是非読んでもらいたい作品です。

おわりに

卓越した心理描写で綴られる、バッドエンドの中のハッピーエンドを描いた作品です。

いずれの短編の主人公も読み進めるうちに好きになり、彼らの最後の生き方を全力で応援したくなる魅力にあふれています。

切なさの中にある暖かな読了感は、今作の特殊な設定と、孤独を描いてきた凪良ゆうさんの繊細な感性ならではのものといえるでしょう。

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