どこからともかくピアノの調べが聞こえてきそうな繊細で透明感のある物語、いちご同盟。15歳の主人公が、1人の少女との出会いを通じて命の儚さと尊さを知る青春小説です。
タイトルに「いちご」が入っていますが、物語に苺(いちご)は出てきません。
良一と徹夜、直美の主要人物が全員15歳であることから、いちご同盟、と名付けられています。
集英社
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『いちご同盟』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | いちご同盟 |
著者 | 三田誠広 |
出版社 | 集英社 |
出版日 | 1991年10月25日 |
ジャンル | 青春 |
「僕って何?」で第77回芥川賞を受賞された三田誠広さんの「いちご同盟」は、1991年に初版が発行された後、1997年に映画化、1999年にNHK教育テレビでドラマ化されました。
『いちご同盟』のあらすじ
それではいちご同盟の登場人物、あらすじを紹介したいと思います。
「いちご同盟」の主な登場人物
北沢良一
この物語の主人公で中学3年生。ピアノを弾くのが得意。自殺した小学5年生の遺書に感化され、死ぬことを考えています。徹夜を通じて直美と知り合います。
羽根木徹夜
良一の同級生。野球部のエースで人気者。直美とは幼なじみ。
上原直美
徹夜の幼なじみ。15歳。重症の腫瘍で入院中。好奇心で気の強い性格です。
良一の母
自宅でピアノ講師をしています。良一の進路に厳しく口出しします。
良一の父
編集プロダクションの社長。かつて失業し、家族を養うためにゴーストライターになった経歴を持っています。
主人公と直美の出会い
15歳の北沢良一は生きることに希望を見出せず、死ぬことを考える毎日を過ごしています。
ある日、良一は野球部のエースで同級生の徹也はから試合の録画を頼まれました。
ほとんど話したことのない徹也でしたがなぜか断る気にならなかった良一は頼みを引き受け、徹夜の試合を録画します。
更に良一は、録画したビデオテープを再生する手伝いのために訪れた病院で直美と出会います。
直美の幼なじみである徹也は、直美を元気づけようと自分が出る試合を録画して直美に見せていたのでした。
重い病気で長く入院しているにも関わらず、明るく快活な直美に良一は心を動かされます。
ピアノが得意な良一は、直美に頼まれて彼女の誕生日に病院でピアノ演奏をしてお祝いします。
どんどん直美の存在が頭から離れなくなる良一に、ある日直美が言いました。
「あたしと、心中しない?」
いちご同盟に出てくるピアノ曲
いちご同盟には、数々のピアノ曲が登場します。
『亡き王女のためのパヴァーヌ』(ラヴェル作曲)
良一が初めて直美に弾いて聴かせることになった曲。
穏やかで優雅な旋律が印象的です。パヴァーヌとは、1800年代後半にヨーロッパの宮廷で流行した踊りのことです。
この曲はスペインの宮廷で小さな王女が踊っていたパヴァーヌ、というテーマで作曲されたものです。
王女の葬送の曲ではありませんが、「亡き」という表現がされているため、良一は直美に曲名を聞かれたときに答えられませんでした。
『超絶技巧練習曲』(リスト作曲)
12曲からなるピアノの練習曲です。
どの曲もかなり難易度が高く、練習曲と名付けられているにも関わらずプロによる演奏の機会の多い曲です。
基本的に手が大きくないと技術的に弾くのが困難で、まだ弾いたことのない良一が、自分の手の大きさならもう弾けるだろうと考える場面があります。
ピアノソナタ第15番『田園』(ベートーヴェン作曲)
ベートーヴェンはクラシック音楽に詳しくない人でも名前だけは聞いたことのある有名な作曲家ですがこの曲の知名度は低く、穏やかな雰囲気の曲で、良一は「何の感動もない曲だ」と最初は気に入っていませんでした。
これらの曲を聴いてからいちご同盟を読むと、情景がより豊かに伝わってくると思います。
『いちご同盟』を読んだ感想
私(既婚・子持ち)が初めていちご同盟を読んだのは中学生のときでした。今回、15年以上たって再読してみた感想を書きたいと思います。
15歳のリアルが詰まっている
主人公の良一をはじめ、物語には15歳の少年少女がたくさん登場します。
本書の初版は1991年ということもあり、野球の試合をビデオで録画してビデオデッキで再生したり、連絡を取るのに固定電話を用いたりと、時代を感じます。
しかし、徹也が直美を励ますために試合に打ち込む様子や、良一や他のクラスメイトの高校受験、進学の悩み、直美と徹也と良一の三角関係、良一と徹也の友情など、15歳のリアルな青春が時代を超えて描かれています。
“徹也がささやきかけた。
「お前、直美のことを、どう思う?」
「どうって?」
「可愛いだろう」
ぼくは答えなかった。
徹也も、かさねては訊かなかった。”
『いちご同盟』P79より引用
主人公が命の尊さを知る
主人公の良一は、生きることに価値を見出せず、新聞で知った小学5年生の飛び降り現場に度々訪れるなど、自殺に憧れのようなものを抱いています。
良一が読んでいる愛読書には、実在する遺稿集『二十歳のエチュード』が出てきます。
この原口統三も19歳という若さで自ら命を断ちました。
しかし、直美と出会い、接する中で徐々に気持ちに変化があらわれます。
“直美と出会ったことで、ぼくは本を読む気力をなくしてしまった。
本に書かれた世界よりも、直美がかかえている問題の方が、現実的で、深刻だったからだ。”
『いちご同盟』P166より引用
自分とは違い、生きたくても生きられない直美の生への執着を目の当たりにした良一は、死にたいと願っていた自分を情けなく感じ始めます。
“ぼくは現実から逃れようとしているのだろうか。
直美は生きようとしている。”
『いちご同盟』P184より引用
そして、最後には命の尊さ、重さ、力強さを実感します。
大人になったからわかる登場人物の気持ち
いちご同盟には、良一達の両親や教師など、大人も登場します。登場シーンは多くはないものの、かつての15歳として生きていた重みの感じられるシーンがありました。
”大人になり、中年になるにつれて、夢が、一つ一つ、消えていく。人間は、そのことにも耐えなければならないんだ。”
『いちご同盟』P215より引用
家族を養うために理想を捨てて不本意な仕事に就いた良一の父親のセリフです。
私が中学生のときには何も感じなかったこの一言が、自分も中学生の子どもを持ってみてとても重いものだと痛感しました。
『いちご同盟』はどんな人におすすめ?
いちご同盟はこのような方におすすめしたいです。
- 15歳またはかつての15歳
- ピアノが好きな人
- 野球が好きな人
- サラッと読んで感動もしたい人
まさに15歳の人がいちご同盟を読むと自分のことのように共感できるかもしれません。
また、かつて15歳だった人も、当時の自分のことを思い起こしながら読んでも違った意味で共感できると思います。
前述の通りピアノ曲がたくさん出てくるのでピアノ好きな人、徹也の試合のシーンがとても臨場感に溢れているので野球好きの人も楽しめます。
また、非常に文章が読みやすく、読書慣れをしている人なら1時間ほど、文章を読むのが苦手でも2、3時間で読了できると思うので、読書の時間が限られていたり短時間しか読書の時間が割けない人でも短い時間で読めて、感動することができます。
まとめ
果物のいちごのイメージで読み始めても、苺(いちご)は最後まで出てきません。
15(1いち5ご=いちご)歳の良一が直美と出会い、また様々な人達と関わる中で命の儚さと尊さを実感し、また成長していく青春小説です。
良一がピアノを弾くシーンが何度もあり、そのメロディーが聴こえてきそうな美しく繊細な物語です。
主人公と同じ年代、大人のどちらが読んでも感動できる素敵な小説です。
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また、作者の三田誠広さんは音楽と青春を絡めた作品を他にも書いています。
著:三田誠広
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