2015年に日本推理作家協会賞を受賞した作品です。
話の中心となるのは、残忍な放火殺人事件で死刑囚となった田中幸乃30歳。
その凶行ゆえに世論にさらされることになった彼女と、その事実を知った周りの人間の葛藤が描かれています。
見えてくるさまざまな真実、絶望的な幸乃の状況。
読み進めていくなかで、彼女の孤独に足を取られそうになりながらも結末を知らずには終われない。
人の真髄にまでも迫る社会派ミステリーです。
著:早見和真
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『イノセント・デイズ』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | イノセント・デイズ |
著者 | 早見和真 |
出版社 | 新潮文庫 |
出版日 | 2017年3月1日 |
ジャンル | ミステリー |
この本を読む際、あまりにショッキングな題材である死刑という言葉に目を引かれがちです。
しかしこの作品は、死刑囚の彼女を通し今まで関わってきた人の思いや事情が交錯し、真実へとたどり着く群像劇でもあります。
また、一つ一つの章にあてられた裁判中の言葉も印象的です。
ぜひ注目してください。
本作は、賞を受賞した後2018年には映像化もされています。
『イノセント・デイズ』のあらすじ
場所は東京拘置所南舎房の単独室から始まります。
被告は田中幸乃30歳。
死刑執行のその日、彼女は静かに執行室へ向かっている。
罪状は放火、殺人。
元恋人のストーカーとなった挙句、その家族が住む家に放火し妻と幼い子供の命を奪った女性。
そのスキャンダラスな内容に、幸乃のこれまでの生活や人生は連日報道されることになります。
幸乃の過去を知る人物たち、明かされる過去。
報道により彼女の罪を知ることとなるのが、今まで幸乃に関わってきた人物たち。
報道はあらゆる面から幸乃を映し出し、それがそれぞれの心を揺さぶることになります。
- 17歳の覚悟のない母親のもとに生まれた赤ん坊
- その出生の訳を知る医師
- 幼少期には義父からの執拗な虐待
- 当時一緒に暮らしていた幸乃の姉
- 中学時代に起こした強盗致傷事件
- 真相を知る同級生
後に放火事件につながることとなる、元恋人とのいびつな関係。
世論にさらされ創造されていく彼女の人物像と、過去を知る人物たちが感じていた幸乃の姿はあまりに食い違っていたのでした。
しかし、誰も幸乃の再び幸乃の孤独と向き合おうとするものはいなかったのです。
幸乃を信じ続ける幼馴染、そして幸乃の闇
幸乃にとって唯一穏やかな思い出である母のいた幼少期。
『誰かが悲しい思いをしたらみんなで助けてやる』
その言葉を合言葉にしていた”丘の探検隊”。
当時遊んでいた幼馴染たちと姉で作ったグループでした。
幸乃の罪を知り、幼馴染のふたりは別々に動き出します。
ふたりは動を共にすることはあれど、幸乃に対しての思いは別々でした。
幸乃が最期に何を望み、どんな思いでいるのか。
かつて誰かが言った
『僕だけは信じてるから。僕には君が必要なんだ。』
その言葉は、幸乃を孤独の闇から引き揚げてくれる一筋の光になるのでしょうか。
近づく死刑執行の日。
幸乃が望むこととは。
『イノセント・デイズ』を読んだ感想
この話を読んで、暗く悲しい気持ちになることは間違いありません。
しかし、読み終えた後には人と人とのつながりを感じざるを得ない不思議な感覚に囚われまます。
もう一人の登場人物
この物語には、もう一人重要な登場人物がいます。
プロローグに登場する刑務官の女性です。
彼女は最初に裁判の傍聴で幸乃を知り、幸乃の闇にいち早く気づいていた人物でした。
その後、刑務官となった彼女は幸乃の担当となります。
幸乃の拘置所での様子を見守るこの女性の心情が、物語のカギとなり読む側が1番感情移入できる部分でした。
抜け出せない孤独
幸乃は、作中で何度も自分をあきらめたような発言をします。
このことが、孤独な幸乃の闇をさらに深くして行くのがとても辛く悲しいのです。
人生の様々な場面であきらめる選択肢をしてきた幸乃は、いったいどんな気持ちでどんな結末を迎えるのか後半はそれを見守っていくような気持ちになります。
報道の在り方
現代ではテレビや新聞の他に、SNSやインターネットなど様々な媒体から情報が入ってきます。
そして私たちはその情報を信じ拡散していきます。
この本を読んだとき、情報に流され惑わされることの罪深さを改めて感じました。
この話は遠い話のようで、誰にでも起こりえる現実を描き出しているのだと思います。
『イノセント・デイズ』はどんな人におすすめ?
決して明るい話ではない『イノセント・デイズ』。
こんな方におすすめです。
- ミステリー、サスペンスが好きな人
- じっくり考えながら読みたい人
- 社会問題に興味がある人
内容が深いため、読み終わった後にはぜひじっくり考察していただくのがおすすめです。
ただのミステリーではなく、現代の社会問題や人の複雑な思いが交錯し、改めて色々なことを考えさせてくれる本です。
おわりに
主人公幸乃は、ずっと孤独を感じてきました。
それは紛れもない事実で、変えようのない過去なのです。
しかし、本当に幸乃が孤独だったのかどうかはわかりません。
死刑執行をまつ6年間、拘置所の中でさらに孤独を味わい幸乃は何を感じていたのでしょう。
今までずっと、あきらめるという選択をしてきた幸乃に光を届ける方法はあるのか。
必死で考えずにはいられなくなります。
果たしてこの本を読み終えたとき、あなたは何を感じるでしょうか。
著:早見和真
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