『犬がいた季節』は、2021年本屋大賞 第3位に輝いた作品です。
著者である伊吹有喜さんの母校である三重県立四日市高校を舞台に描かれた小説。
物語に登場する犬『コーシロー』は、実際に高校で生活していた犬がモデルだということです。
背景となる時代は、昭和の終わり~平成~令和まで。
時代の移り変わりとともに、人生に一度きりの青春時代を過ごす高校生たちのエピソードが、第1話~第6話まで描かれています。
主人公・優花に淡い恋心を抱くコーシローの姿も、健気に描かれています。
著:伊吹有喜
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『犬がいた季節』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 犬がいた季節 |
著者 | 伊吹有喜 |
出版社 | 双葉社 |
出版日 | 2020年10月18日 |
ジャンル | 青春小説 |
とある高校で飼われていた、一匹の犬と生徒たちの心温まるストーリー。
時代を越えて、変わっていくもの、変わらないものに気づかせてくれます。
純粋でまっすぐな生徒たちの青春小説です。
『犬がいた季節』のあらすじ
好きなものはミルク。小さな手がくれるパン。
毎日、夕方になると、小さな手がパンにミルクをひたして食べさせてくれる。
今日も、それを楽しみに寝ていたところ、突然、あたりが暗くなった。
犬が置かれた場所は、八稜高校、通称「ハチコウ」。
『コーシロー』と呼ぶとなぜか嬉しそうに反応するその犬。
美術部の生徒たちは『コーシローの世話をする会』を起ち上げ、学校で世話できるよう校長を説得します。
説得に成功し、生徒たちは毎日『コーシロー日誌』を書くことに。
そしていつしか『コーシロー日誌』は時代を越えて、美術部の伝統になっていきます。
コーシローとともに成長していく生徒たちの姿が綴られている『コーシロー日記』。
その中には、初恋・友情・将来への不安・進学や進路・夢・家族への思い・生い立ちなど、生徒たちの様々な葛藤と人との出会いや繋がりが描かれています。
18歳のあなたは、どんな少年/少女でしたか?
どんな思いを持ち、青春時代を過ごしていましたか?
気づけばあなたも、18歳の自分に戻っています。
そして、『大切な人との出会い』に気づかせてくれるでしょう。
主人公の少女の家族への思い、進路の悩み、少年への恋心
里親が見つからず、学校で世話をすることになった
‘里親が見つからず、学校で世話をすることになった’子犬でもなく成犬でもないコーシロー‘’と、’飛びぬけて優秀ではないが、まったくできないわけではない自分‘’
は中途半端な存在としてよく似ていると感じた主人公・優花。
家業のパン工房を継いだ兄は家族から一目置かれている一方、「高校卒業後は上京したい」という優花に反対する祖父母は優香に冷たく当たり、進路に悩んでいました。
そんな中、同じ元美術部で東京の美大を目指す光司郎と、コーシローの世話を通して2人は少しずつ距離が縮まっていきます。
光司郎に刺激を受け、進路について真剣に考え始める優花。
そして、初々しい恋へと繋がっていきます。
正反対の2人の熱い男の友情
なぜかスリッパを何度もコーシローに奪われる学年一優秀な相羽は、口数が少なく近寄りがたい存在でした。
『コーシローの世話をする会』の五月は、たまたまその現場に居合わせ、予備のスリッパを相羽に渡します。
何の接点もなかった2人でしたが、ある日五月は『F1グランプリ』の雑誌を立ち読みする相羽に遭遇します。
共通の趣味があると知った2人。
そして、偶然手に入ったF1のチケット。
コーシローを通じて偶然出会った、性格の全く違う2人が、共通の趣味を通じてかけがえのない友情を育んでいきます。
阪神大震災、祖母の思いを胸に前へ進む少女
阪神大震災が起こり、神戸の半壊した自宅からから引っ越してきた奈津子の祖母。
センター試験から1週間後の出来事でした。
急に一緒に住むことになり、迎え入れた家族も混乱していました。
家族に遠慮して何度も‘’ごめんね‘’と謝り、涙を流す祖母に対して苛立ちを隠せない奈津子。
そんな夜、これまで話さなかった祖母がぽつり、ぽつりと被災した時の様子を語り始めます。
飼っていた犬の話。
神戸の悲惨な状況。
奈津子は、その犬と、コーシローを重ねます。
そして、そこから自分のやるべきことを見つけ、変わっていきます。
夢を追うまっすぐな少年と愛を求める少女
欲しいもの。明るい未来、安定した暮らし、幸せな家庭、無償の愛。
この言葉を思ったとき、援助交際をしている詩乃は、『コーシローの世話をする会』のメンバーを思い出しました。
両親が離婚し、母親に育てられた詩乃。
母親のスナックを手伝わされ、そんな生い立ちの自分が嫌だ、進学したら生まれ変わりたいと思っていました。
そんな時、バンド活動をしている鷲尾に出会います。
演奏を聞きいた詩乃は、自分とは全く違う生き方をしてきた鷲尾のまっすぐな姿を見て、涙します。
そして鷲尾の優しさに触れ、‘’無償の愛‘’を感じていくのです。
コーシローと優花の再会、叶わぬ恋をした少年の話
月日は流れ、ハチコウに英語教師として戻って来た主人公・優花。
コーシローは大好きな優香と再会します。
昔ほど鼻も、耳も効かなくなってしまったコーシロー。
それでも、優花のことは忘れずにいたようです。
生徒の一人である大輔。
実は、幼いころから優花に思いを寄せていました。
大輔の祖父と、優花の母が入院しており、看病を通して距離が縮まる2人。
『教師』と『生徒』の関係。
早く大人になりたい大輔と、子どもの頃に戻りたい優花。
切ない思いが交錯します。
優花と光司郎の再会
お互いに歳を重ね、成長した2人は、ハチコウの創立100周年パーティーで再会します。
当時は伝えられなかった思い。
今だからこそ伝えられる思い。
大人になって再会した2人が、コーシローというかけがえのない存在を通して培った絆を、再確認していきます。
そして当時は知らなかった光司郎の思いに触れ、優花は涙します。
『犬がいた季節』を読んだ感想
『犬がいた季節』を読み終わったあと、心が温まるような満足感に包まれました。
‘’自分の大切な人って誰だろう・・・‘’
‘’会いたいな、元気かな‘’
と感じさせてくれ、優しく、背中を押してくれるような感覚がありました。
今何か悩みを抱えている人や、日常生活にどこか寂しさを抱えている人に読んでほしいです。
様々な悩みを抱える高校生に読んでほしい
大人と子供の狭間である‘’18歳‘’という多感な時期。
‘‘18歳‘’だからこそ感じる少年/少女の様々な葛藤が鮮やかに描かれており、‘’’私も同じように感じたなあ・・・‘’と共感する場面がたくさんあります。
きっと、周りに相談できず一人で悩んでいる方もいるでしょう。
‘’悩んでいるのは私だけじゃない‘’と思うことができ、優しく背中を押してくれるような小説だと思いました。
また、昭和~令和まで、その時代のニュースや出来事などの背景も巻き込んで物語が描かれているので、現役高校生から昭和を生きてきた世代の方まで幅広く共感して頂けること間違いなしです。
この小説を通して、将来に繋がる何かを見つけ出せるはずです。
大切な人との出会いについて思い出させてくれる
ありのままの、飾らない自分でいられる高校時代。
その時出会った人たちは、今後の人生の中でも貴重な存在で、自分の中の大切な一部となるでしょう。
大人になると、人間関係や、仕事の悩み、恋愛の悩みなど、様々な壁にぶつかります。
私自身、仕事の人間関係で悩み、仕事を辞めようかと悩んだ経験がありました。
毎日仕事に行くのが辛く、精神的にも肉体的にもキツイ毎日を送る日々・・・
そんな時高校の同窓会があり、参加することに。
最初は気乗りしなかった同窓会でしたが、昔話に花を咲かせるうちに、昔に戻ったような気持ちになり、心が穏やかになっていくのが分かりました。
気が付けば職場の同期には言えなかったこともなぜか話すことができ、‘’私ももう少し頑張ってみよう‘’と思うことができました。
なかなか会えなかったり距離が離れていたとしても、高校時代の出会いはどこか心の支えになっているんだなと実感した私。
大切な人との出会いについて思い出させてくれる本です。
命の大切さについて考えさせられる
一匹の犬を通して物語が進んでいるので、時の流れと同時に命の大切さを感じました。
高校生たちの成長とともに、犬の成長も描かれています。
コーシローが暮らしていたのは、百年の間の十二年間。
昭和の終わりにこの学校に来て、二十世紀の終わりに去っていった。
この小説で人間と犬との寿命の違いを改めて感じ、その十二年間は幸せだったのかな・・・と物思いに耽りました。
限りある時間の中で出会う人たちと、感じていく気持ちはひとつひとつ大切にしていきたいと思うきっかけになりました。
『犬がいた季節』はどんな人におすすめ?
「犬がいた季節」をおすすめしたい人は、
- 高校生のあなた
- 家族や友人、初恋の人など、「大切な人に会いたい」と思っている人
- ‘’大人‘’の自分に疲れ、日常生活にどこか寂しさを覚えている人
などです。
‘’自分はひとりじゃない‘’と感じられる小説です。
この本を読んで、忙しい日々の中でほっと一息つくことができればな、と思います。
きっと、あなたの心の中の一部となってくれる小説でしょう。
おわりに|空いていた心の隙間にすっぽりとハマる本
大人になると、上司・同僚・部下・・・など、必然的に仕事を通しての人間関係が増えますよね。
高校時代のような、純粋に深く心を許し合えるような人間関係を築くのは、本当に難しいと感じている方が多いのではないでしょうか。
気疲れでストレスを抱えてしまう人も多くいるでしょう。
そんな時、『犬がいた季節』は、
「大切な人との出会い」や「高校時代に感じた純粋な気持ち」
を思い出させてくれる本です。
そして、読み終わった時には心の隙間が埋められたような、満たされた感覚を味わわせてくれます。
この本をきっかけに、みなさんの大切な人に、ぜひ連絡をしてみてはいかがでしょうか?
著:伊吹有喜
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