あなたにとって学校とは、どんな場所でしたか?
この問いに「楽しいことしかなかった」「みんなと仲が良かった」そう答えたのでしたら、あなたにこの本は必要ないのかもしれません。
私にとって学校は、楽しいと思えるものではありませんでした。
ニュースでは、いじめによる不登校という言葉が連日報道されています。
- 不登校という勇気を持てた人
- 学校に居場所がないと思っていた人
- そして何とか大人になって今でもあの時の痛みを抱えている人
『かがみの孤城』は過去と、現在のあなたを救う物語です。
著:辻村深月
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『かがみの孤城』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | かがみの孤城 |
著者 | 辻村深月 |
出版社 | ポプラ社 |
出版日 | 2017年5月11日 |
ジャンル | 青春小説 |
著者の辻村深月さんは、第31回メフィスト賞を受賞しデビューしました。
学校を舞台にした小説を数々出版されています。
今作『かがみの孤城』もそのひとつ、学校を舞台にしていますが、主人公たちは学校で出会うことはありません。
学校に行かない、逃げる勇気を持った中学生たちの青春小説となっています。
毎年話題となる、第15回本屋大賞にも輝いた希望の物語です。
『かがみの孤城』のあらすじ
安西こころは、雪科第五中学校1年生です。
最初の4月しか学校に通えず、不登校となっています。
母親に促されて「心の教室」というスクールへ向かうことに。
どうして行けないのか。ずっと行かないのか。溶け込めない子ども。周りからそう言われて、こころはこう思います。
行かないんじゃなくて、行けない。
ですが、喜多嶋という女性の先生だけは、どこか他とは違う優しい雰囲気を持っていました。
可愛らしいオオカミがタックルをかましてくる
突然、こころの部屋の姿見が光りだします。
思わず手を伸ばすと、そのまま中に吸い込まれ……
そこにいたのは、狼の面をつけた小さな女の子、そして西洋童話で見るような城。
「安西こころさん。あなたは、めでたくこの城のゲストに招かれましたー!」
逃げ出すこころに向かって女の子がタックルしますが、急いで鏡の外へ引き返します。
城に集められた学校へ「行けない」7人の赤ずきんちゃん
翌日、再びこころは鏡の中へ行くことに。
- ジャージ姿のカッコいい男の子:リオン
- ポニーテールの女の子:アキ
- 眼鏡をかけた高い声優声の女の子:フウカ
- ゲームが好きで生意気な男の子:マサムネ
- そばかすがある物静かな男の子:スバル
- 小太りで気弱な男の子:ウレシノ
そして、こころ、計7人の中学生(赤ずきんちゃん)たち。
狼面の女の子、通称“オオカミさま”が話し出します。
<かがみの孤城 ルール>
- 3月30日までに城の中にある「願いの鍵」を探し、「願いの部屋」を開けること
- 願いを叶えることができるのは1人だけ
- 城が開いているのは、日本時間の9時から5時まで
- 5時までには必ず鏡を通って家に帰ること、守らなかった場合、連帯責任で狼に食われる
- 期限までに鍵を見つけられなかった場合、その日を以て鍵は消え二度と城へは来られない
こころの願い。真田美織を消すこと
クラスメイト真田美織が選んだ「好きな人」は、こころの小学生時代のクラスメイト、池田仲太でした。
池田は、小学生の頃、こころのことが好きだったことを美織に話してしまいます。
そこから始まった美織からの嫌がらせ。
無視、陰口、トイレの個室を覗かれる。
ついには、両親が出かけているこころの家に、女子たちが押しかけてきます。
外から聞こえる罵声、怒号。こころは、見つかったら殺されると恐怖を感じました。
その時から、こころは学校へ行けなくなったのです。
共に闘う決意をする
再び「心の教室」へ来たこころは、喜多嶋先生が言ったことを思い出します。
こころちゃんが学校に行けないのは、絶対にこころちゃんのせいじゃないです。
毎日闘っているように見えると言われ、こころの胸は震えました。
喜多嶋先生だけは、こころ自身のことをちゃんと理解してくれたのです。
そして、ようやく願いの鍵探しを本格的にやり始めたこころたちは、ある事実に気が付きます。
7人の子どもたちは、皆「雪科第五中学」へ通えなかった生徒だったのです。
同じ中学だと分かったこころたちは、自分たちは助け合えるかもしれないと考えます。
そこで、3学期の1日だけ同じ日に学校へ行く約束をしました。一緒に闘える、と希望が芽生えます。
パラレルワールドの住人?
同じ日に学校へ行ったはずのこころたちでしたが、何故か誰とも会えませんでした。
話を聞くと、全員同じ状況、もしかしたら自分たちは、生きている世界が違うパラレルワールドの住人なのではないかと推測します。
助け合えない、と愕然とするこころたちに、別れの時が迫ってきます。
運命の3月29日、城が閉まる前日。
こころの部屋の鏡が割れ、中からは、皆の助けを求める声が聞こえてきました。
アキがルールを破って狼に食われたというのです。
助けられるのは、その日孤城へ行っていなかったこころだけ。
方法はひとつ、願いの鍵を探すこと。
かがみの孤城に再び入ったこころは、全ての謎に気が付き、アキたちを救うため動き出します。
『かがみの孤城』を読んだ感想
あなたを、助けたい。
単行本が出たときに、帯に書かれていた言葉です。
読んですぐ思ったのは、中学生の時に読みたかったという惜しい気持ち。
ですが、こうも思いました。
「中学生の頃の自分を救ってもらった」
悲しみは、なかったことになんてならないし、受けた傷が消えることは決してありません。それでも生きていかなければならないから、私たちは、救いを必要とします。
主人公のこころは、物語の最後にある決断をします。
傷は消えることはありません。受けた傷とともに前へ進みだしたこころを見て、私は、どうしようもなく助けられたことに気が付きました。
逃げる勇気
逃げずに闘うことが偉いと言われる風潮があります。簡単に頑張れ、と言われることも。
でも、時にはどうしようもない場所から逃げることも必要です。
特に、学校という場所はとても狭く、そこだけが世界の全てのような気がしていました。
こころたちは「かがみの孤城」に居場所を見つけ、逃げる勇気を持った仲間たちとともに成長していきます。
逃げることで闘っている、自分を護っているのです。
喜多嶋先生が言ってくれた言葉は、だから、こころにも私にも強く響いたのだと思います。
散りばめられた伏線
何といっても、辻村作品の素晴らしさは、ラストの伏線回収にあります。
こころたちの何気ない会話、行動、油断して読んでいたら何度もページを振り返ることになると思います。
その謎解きの瞬間、他の小説では経験することの出来ない心地良さがあるところが、また不思議です。
二転三転することはもちろん、最後の最後まで気を抜かないで読み込んでほしいと思います。
現在を救う
『かがみの孤城』を読む人が、中高生でしたら、リアルタイムで励ましてくれるのだと思います。
私のように大人になってからこの物語に出会う人は、過去の自分だけでなく、現在の自分も救われることでしょう。
過去にあった嫌な出来事は、大人になっても覚えているものです。
普段は平気なふりをしていても、忘れることなんてありません。過去が、今の私を否定しているような気さえしていました。
そんな時に読んだ今作品は、学生時代の閉塞感やどうしようもない人間関係が、まるで自分の過去を見ている気分になるくらいリアルなものでした。
苦しくなりながらも読んでいくと、あの頃言って欲しかった言葉、昔した自分の決断の正しさ、それは、現在の私を肯定してくれるものでした。
大袈裟なんかじゃありません。自分の気持ちをこれほど分かってくれた物語が、これまであったでしょうか。
私は安心して、これからも生きていけると思いました。
『かがみの孤城』はどんな人におすすめ?
そんなのほとんど全員じゃないか、と思われるかもしれません。
ですが、学生にも学生だった人にも読んでほしいというのが、素直な感想です。
まずは傷ついた人に、きっと大丈夫だという言葉が届くことを願っています。
そして、誰もが他人事としないで、闘う中学生の姿を見ていてほしいです。
普段本を読まない方でも、学校という場所がテーマだったら物語に入り込みやすいのではないでしょうか。
鏡の中に入る、というストーリーなのでファンタジー要素もありますが、この物語は、現実を生き抜くための小説です。
全世代の方におすすめします。
おわりに
私にとって『かがみの孤城』は、大丈夫になるための本です。
大人になるのを支え、大丈夫になった後もずっと傍で支え続けてくれる、そのことを私は決して忘れないでしょう。
最後にもう一度、あなたにとって学校とは、どんな場所でしたか?
楽しいだけの場所ではありませんでしたよね。
不登校という勇気を持てた人、学校に居場所がないと思っていた人、そして何とか大人になって今でもあの時の痛みを抱えている人へ。
『かがみの孤城』は過去と、現在のあなたを救う物語です。
こころがあの頃の私の手を掴んでくれたように、私もこの物語を必要としている人へ救いを届けたい。
あなたも、このあたたかな世界の一員になりませんか。
著:辻村深月
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