ある年のクリスマス。
海野雫が降り立ったのは、瀬戸内に浮かぶ「レモン島」と呼ばれる小さな島でした。
キラキラ光る美しい景色に囲まれたその島で、彼女が過ごす時間、出会う人々との交流を描く物語です。
病と向き合い、時に抗いながらも必死に闘ってきた雫。
島での丁寧な暮らしぶり、ゆっくりと流れる時間、出会った人々との交流が、雫の心を穏やかに満たしていきます。
自分にとって本当に大切なものが何かを、優しく問いかけてくれる作品です。
著:小川糸, イラスト:くのまり
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『ライオンのおやつ』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | ライオンのおやつ |
著者 | 小川糸 |
出版社 | ポプラ社 |
出版日 | 2019年10月10日 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
本作は、著者である小川糸が、母親の病気をきっかけに書いた物語です。
第17回(2020年度)本屋大賞で第2位を受賞し、2021年6月にはテレビドラマ化もされ、多くの感動を呼びました。
「生きること」「死と向き合うこと」を丁寧に描いた作品です。
『ライオンのおやつ』のあらすじ
まだ30代という若さで、医師から余命宣告を受けた海野雫。
孤独に病と闘ってきた雫でしたが、もう治る見込みがない段階に来ていることを知り、ある決心をします。
瀬戸内のホスピスへ
病院で孤独な死を迎えたくない、温かい場所で毎日海を見ながら、残された日々を過ごしたい。
そう願った雫がたどり着いたのは、レモン島にたたずむ「ライオンの家」でした。
ホスピスのイメージからはほど遠い「ライオンの家」で過ごすことになった雫は、そこで豊かな日々を過ごします。
個性豊かな顔ぶれ
ライオンの家には、個性豊かな面々が集います。
ホスピス代表であり、身の回りの世話役である「マドンナ」や、お料理・お菓子を担当する狩野姉妹、雫以外の住人たち。
雫がほのかに想いを寄せる島の青年や、以前いたホスピスの住人が飼っていたペットも、雫を温かく見守り、闘いに疲れた雫の心を癒やしてくれます。
それぞれ一癖あったり、独特の雰囲気をもっていたりと、賑やかなライオンの家の雰囲気は、ホスピスのイメージを覆します。
妄想が膨らむ美味しそうな食事のシーン
本作では、食事のシーンが多く出てきます。
生きる上で大切な「食べること」に重きを置いているライオンの家では、そこに住む人々が「食すること」を心から楽しんでいるのです。
365日違う味を味わうことのできる「お粥」。
病院食のお粥が嫌いだった雫は、ライオンの家で食べたお粥の美味しさに感動を覚えます。
雫は、ライオンの家での食事を「魂に響く味」と表現しています。
目を閉じて、その味を想像したくなるような食事のシーンも、この作品の魅力の1つです。
『ライオンのおやつ』を読んだ感想
あらすじを読むと、ただただ切ないストーリーのようですが、そうではありません。
ゆっくりと流れる時間の中で、愉快な仲間たちと笑いあえる瞬間。
これまでずっと望んでいた、犬と過ごす幸せな時間。
島の青年との嬉しい出会い。
読んでいる私たちも、キュンとなったり笑顔になったり、温かい気持ちで満たされます。
幸せの形
人が感じる「幸せ」の形は人それぞれです。
雫は、ライオンの家に来てから、自分に正直に生きることができました。
自分の未熟な部分も、醜いところも、ありのままを受け入れて自分に素直に生きたのです。
それは簡単なように思えても、実はとても難しいことなのだと思います。
現代社会で生き抜いていかなくてはならない私たち。
世間体や見栄、プライドなど、いろいろなものが邪魔をして、素直に生きることを難しくしているのかもしれません。
時には肩の力を抜いて、流れに身を任せてみたいと、この作品を読んで感じました。
温かい言葉がつまっている作品
この作品に出てくる人物たちの言葉は、温かさに溢れています。
「よく眠り、よく笑い、心と体を温かくすることが、幸せに生きることに直結します。
雫さん、笑顔ですよ、笑顔。いつも笑って過ごしましょう。」
「ライオンの家にはささやかな希望がたくさんちりばめられている。」
「思いっきり不幸を吸い込んで、吐く息を感謝に変えれば、あなたの人生は光り輝くことでしょう。」
優しく包まれるような言葉の数々に、癒やされる読者も多いはずです。
天国の描写
天国は、お花畑に囲まれている、とか、美しい場所と言われたりすることがありますね。
この作品には、天国の具体的な描写が出てきます。
「いきなり自分にぴったりのメガネを与えられたみたいに、物事が、ものすごくくっきり見えるようになる。」
「私のことを誰かが思い出してくれるたびに、地球がぼんやりと明るくる。」
もし、天国がこんな世界だったなら、あなたの大切な人がこんな世界にいるのなら、きっとホッと安堵することでしょう。
『ライオンのおやつ』はどんな人におすすめ?
著書である小川糸さんは、本作を書いたきっかけについて次のように話しています。
母に癌が見つかったことで、私は数年ぶりに母と電話で話しました。
死ぬのが怖い、と怯える母に、私はこう言い放ちました。
誰でも死ぬんだよ、と。
けれど、世の中には母のように、死を得体の知れない恐怖と感じている人の方が、圧倒的に多いのかもしれません。
母の死には間に合いませんでしたが、読んだ人が、少しでも死ぬのが怖くなくなるような物語を書きたい、と思い「ライオンのおやつ」を執筆しました。
著者の思いは、きっとこの作品を読んだ人に届くはずです。
本の中で、主人公の雫が、亡くなった方と話をする場面があるのですが、
怖い雰囲気などまるでなく、温かくて優しさ溢れるそのシーンに、私は胸を打たれました。
- 家族やペットなど、死を身近に経験したことがある人
- 温かい作品に触れたい人
- ほっこり癒やされたい人
- 感動する作品を読んで、静かに涙したい人
- 日常に疲れた人
こんな人に、ぜひおすすめした作品です。
おわりに|明日が来ることは当たり前なんかじゃない
雫は病気になってから、いつも「患者」としての自分を忘れられずにいました。
マスクを外せない自分、大好きなコーヒーを我慢していた自分、骨がもろくなっているから運動を避けていた自分。
でもライオンの家に来てから、マスクを外して美味しい空気を思う存分吸い込み、大好きなコーヒーを飲み、犬との散歩を楽しみ、気の向くままに行動します。
そうして、病気になる前の自分を取り戻したのです。
がむしゃらに突き進むことも、もちろん大切です。
でも時にはほんのちょっと立ち止まって、雫のように自分に素直になる時間をもってみたいと思いました。
明日が来ることは当たり前なんかじゃない。
いつも通りの日常を過ごせることは、実はとても幸せなことなのだと、この作品を読んで改めて気付かされました。
人はみんな、いつかは死を迎えます。
いつ何があるかわからないからこそ、1日1日を大切に過ごそう。
そんな雫からのメッセージを、たくさんの人に感じてもらいたいと思います。
著:小川糸, イラスト:くのまり
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