『間宮兄弟』は、2004年に単行本として出版されたあと、2006年に映画化もされ話題となった作品です。
兄弟も大人になると一緒に出掛けたりすることも少なくなり、家族のもとを離れ一人で暮らす人も多いですよね。
そんな中、いつまでたっても子どものように仲のいい兄弟というのは、珍しいのかもしれません。
本作はそんなめずらしい兄弟を書いていますが、この物語を読んで最後に感じるのは穏やかで心地よい空気と、なんだかホッとする安心感です。
今回は、話題となった小説を読んだ感想と、読み終えた後に感じた毎日の暮らしと生き方についてご紹介していきます。
小学館
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『間宮兄弟』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 間宮兄弟 |
著者 | 江國香織 |
出版社 | 小学館 |
出版日 | 2004年9月29日 |
ジャンル | 恋愛小説 |
本作は著者の江國香織さんが、モテないかつ仲のいい30過ぎの兄弟2人に焦点をあてて書いた作品です。
江國香織さんは、やわらかさのある女性をイメージするような作品が多いなか、本作では男性の心情を書いており、めずらしい作品でもあります。
『間宮兄弟』のあらすじ
モテない兄弟が、女性のためにカレーの会を開き、浴衣でもてなしたりなど。
好きな人のために2人で頑張る物語です。
登場人物の細かな心情、周りの風景や日常など、イメージしやすい描写が魅力です。
間宮兄弟の日常
主人公は30歳を過ぎた兄弟、兄・明信、弟・徹信。
2人で一緒に暮らしています。
兄・明信は酒造会社に働いており、ひょろっとした弱々しい見た目で、会社ではおとなしい性格です。
社内で心許せる相手が大垣賢太と安西美代子の2人。
弟・徹信は小学校の校務員をしており、自分が小太りで童顔であることを隠すように、いかついジャケットやハードロックがお気に入り。
2人ともインドアな趣味が多く、「おもしろ地獄」と呼んでいるジグソーパズルは、一緒に夜遅くまで取り組みます。
読書も好きで本もたくさんあり、部屋はまるで図書館のよう。
多趣味で楽しく暮らせるので家時間も飽きません。
野球観戦もその1つで、そのためにできるだけ残業をせず帰り、それぞれがビール・コーヒー牛乳を手によく2人で見ています。
徹信の得意料理は、いろいろな香辛料を使った特製カレー。
2人で何げない会話を楽しんだり、近くの商店街へ出かけ一緒にごはんを食べに行ったりする、とても仲のいい兄弟です。
兄弟の性格と趣味
兄・明信は、体の細さからどこか弱々しく、緊張すると無表情に見つめ、独り言のようにブツブツと話す姿は少し不気味。
社内の女性から少し怖がられており、明信自身も社内の女性には、見ない・近寄らない、を決めています。
後輩には仕事の指示の際に舌打ちをされるなど、会社にいる時間が好きではありません。
しかし、時々誘われる親しい先輩2人と飲みに行くこと、弟・徹信と予定しているスポーツ観戦や映画鑑賞などの趣味を楽しみに、会社時間を頑張っています。
弟・徹信は、小太りな自分の見た目に対する劣等感で、学生時代は苦労しました。
人とあまり関わらない仕事で、小学校の校務員として働いています。
一見内気な性格と思いきや、恋愛に対してポジティブな考えになり、一度惚れると相手に猛突進するため、あまりの押しの強さにフラれ続けています。
兄弟の恋はあっけなく終わり、またいつもの日常へ
映画鑑賞が好きな明信は、いつも同じレンタルビデオ店に通っていますが、そこでアルバイトをする年下の本間直美をいつのまにか好きになります。
それを知った徹信は、本間直美と、女性が来やすいようにと自身が働いている小学校の教員・葛原依子も誘い、カレーパーティーを提案。
誘われた女性2人は、最初は不審に感じていました。
しかし参加してみると、兄弟2人のもてなしや、子どもの頃にやるようなゲームに驚きと懐かしさで、まるで親戚の家に来ているような雰囲気に居心地のよさを感じます。
明信は、間宮兄弟主催の会で、うまく事が運んでいると勘違いし、ついに本間直美に直接デートに誘いますが、直美にはすでに彼がいて、あっけなく終わります。
一方の徹信は、出張中の明信の代理で会うことになった、大垣賢太の妻・大垣沙織に一目ぼれ。
一度惚れると猛突進する徹信は、沙織に曲順やメッセージ性にこだわったMDを渡したりと、一方的な猛アプローチにより引かれ、こちらも即終わってしまいます。
徹信のポジティブすぎる考えと、明信の慎重さがぶつかり、お互いの恋愛でケンカに。
しかし、最後は2人で語り合い、結論を出し合い、フラれた傷を時々思い出しながらも、少しずついつもの日常に戻っていきます。
『間宮兄弟』を読んだ感想
この本を読み終えたあと、応援されているような感覚になりました。
この物語が、うまくいかないことに不器用ながらも向き合い、前に進むことを兄弟を通して感じたからです。
なんだかホッとした
本作の最初を読んだあたりから、穏やかな空気を感じました。
2人の言葉の使い方から兄弟の仲の良さがすぐイメージできましたし、読み進めていってもそのイメージは変わらず、
- 酔っぱらって愉快に帰ってくる兄に文句を言ったり笑ったりしながら介抱する弟
- 騙されてお金を取られて帰ってきた弟のために、落ち着ける音楽を流しながら1時間以上話をきいてあげる兄のやさしさ
恋愛では「いい人」で終わる2人ですが、言葉・態度に人柄の良さが出ているところが、居心地のいい空間にいるようで、ホッとする場面が多かったです。
不器用でもいいと思った
明信の、緊張するとブツブツ言う話し方・目だけが笑っていない感じ・無表情で見つめる姿などが、女性社員から怖がられていますが、
それでも好きな女性と一生懸命話そうとしたり、心を許す先輩のため、好きな野球観戦を犠牲にしても付き合うところ。
徹信の、恋をすると猛突進で、一方的な猛アプローチで毎度失敗しているますが、口下手な兄のために動いてくれたりなど。
はたから見ると変ですが、何度つらい目にあっても、いつもの生活の中でたくさんの趣味に取り組み、語り合い、結論を出して2人で乗り越えていくところにグッときました。
不器用であっても、落ち込んだとしても、気持ちは立て直せる・その方法はたくさん近くにあるんだと学びました。
小さな幸せは毎日の中に隠れている
本作では、四季ごとに、風鈴・セミの声・日照り・風などの表現があり、間宮兄弟はその季節の良さを語り合ったりしながら過ごしています。
そして物語の中で少しずつ生活が変わっていくところや、季節に合わせたテーマで本・映画などを選ぶ様子。
毎日を楽しく過ごす・小さな変化や楽しさに気づけるところが、子供のような心を持っているんじゃないかと思います。
忙しく過ごしていると見えなくなる部分がありますが、四季を感じたり、その時の自分の気分に気が付けるだけで、小さな幸せを積み上げられるんだと感じました。
『間宮兄弟』はどんな人におすすめ?
『間宮兄弟』を読むなら、こんな人へおすすめしたいです。
- 人と比べて疲れた時、ほっこりしたい
- 日々の暮らしを表現した本を読みたい
- 忙しい日々で、少し心を休憩させたい
この物語は、その時々の季節の表現・暮らしの細かな描写・クスっと笑える兄弟の会話があります。
現実の生活感を感じられながら、終始ほっこりするような感情のまま読むことができるので、リラックスしながら楽しめるのではないでしょうか。
おわりに|不器用・モテない、それでもいいじゃない
兄弟は学生のころ、お互いに嫌な思い出がたくさんあり、ふとした瞬間や訪れる場所で、それぞれ苦い出来事を思い出します。
しかし、つらい思い出も多かったですが、”大人になった今はもうそれをしなくていいんだ”、と過去は過去として前に進もうとしていました。
子供のような仲の良さでも、やはり大人な考えもあり、この兄弟から学ぶところでした。
自分の理想とはちがう現実に、苦しい思いをするはつらいことです。
受け止められず、否定するように別の方向へと向かうのも、それもひとつの手だと思います。
その経験により時がたってから、自分と向き合えるようになることもある。
『間宮兄弟』は、最後にそんなことを思わせてくれる本だと感じました。
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