「すべてが、伏線。」と銘打たれた本作。
その文言に偽りはありません。
"本格ミステリ大賞"や"このミステリーがすごい!1位"に輝き、令和元年のミステリランキングを総なめ。
従来のミステリファンを唸らせ、かつ新たなミステリファンの獲得にも成功した作品です。
「霊媒」という、ミステリとは対極にある斬新なものを主軸に据え、ミステリの新たな魅力を開花させた作品ともいえるでしょう。
霊媒・城塚翡翠という魅力的なキャラクターに酔いしれながら、「最驚の謎(ミステリ)」をぜひ味わい尽くしてください。
著:相沢沙呼
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『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | medium 霊媒探偵城塚翡翠 |
著者 | 相沢沙呼 |
出版社 | 講談社 |
出版日 | 2019年9月12日 |
ジャンル | 特殊ミステリ |
マジック愛好家でもある著者が放った本作は、発売年にミステリランキング5冠を達成し、翌年の本屋大賞にもノミネートされた、「最驚かつ最叫の傑作!」の惹句にふさわしい名作です。
同業の多くのミステリ作家からも「嫉妬した」「相沢沙呼にしか書けない傑作」「読んでいる間中翻弄され倒した」などと絶賛されています。
あまりの衝撃的結末に続編執筆不可能と言われていた中、2021年夏には待望の続編『invert 城塚翡翠倒叙集』が「すべてが、反転。」と銘打たれて発売。
こちらも発売前重版、発売翌日の大重版となり、霊媒「城塚翡翠 」のファンを魅了しています。
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のあらすじ
推理作家として未解決事件の解明にも貢献してきた香月史郎(こうげつ・しろう)。
そして、霊媒であるという美しい女性、城塚翡翠(じょうづか・ひすい)。
この二人が出会ったことから、驚愕の物語の幕が開くことになります。
推理作家と霊媒の出会い
香月は、その洞察力を買われて警察から難事件についての相談を持ち掛けられることもある推理作家です。
そんな彼がある日、大学の後輩である倉持結花(くらもち・ゆいか)から、霊媒と呼ばれている人のところに行ってみたいけれど心細いので付き添ってほしい、とお願いされます。
最近奇妙な体験をするようになってしまい、その相談をしに行きたいというのです。
そうして霊媒が住んでいるという場所を訪れ、香月が出会ったのが、翠色の瞳をした息を吞むほどに美しい、翡翠と名乗る女性でした。
彼女は、結花や香月について知っているはずのないことを当ててみせたあと、「倉持さんに注意を払ってあげてください」と香月に告げます。
霊視と論理の力で事件に挑む
結花が関わった事件を、力を合わせて解決した香月と翡翠。
その後も、ベテラン推理作家のいわくつき別荘での事件や、女子高生の連続殺人事件などに、二人で挑んでいくことになります。
翡翠の霊媒の力を使えば、死者の言葉を断片的に伝えることができますが、そこには証拠能力がありません。
そこで香月が、その霊視に自身の論理の力を組み合わせ、犯人特定・逮捕へと結び付けていきます。
事件解明に関わるにつれ、次第に打ち解けた間柄になっていく二人。
しかし、いよいよ待ち受けていたのは、途方もなく危険な殺人鬼による凶行でした。
姿なき悪魔的殺人鬼との対峙
二人の力で事件の謎を解明し始めたころ、巷ではシリアルキラーによると思われる残忍な連続死体遺棄事件が、人々を脅かしていました。
手口はほぼ同じ、かつ10代後半から20代の女性が被害者で、捜査本部が立ち上がっていましたが、それ以外の共通点が異常に乏しく、被害者の交友関係からも何も見えてきません。
しかもその殺人鬼は極端といっていいほど慎重で、一切の証拠を残さないのです。
警察も、犯人はまるで亡霊のようだと頭を抱えていました。
それこそ、もし捕まえられるとしたら警察組織ではなく、超常の力を持った人間なのではないかー、そう思わせるような事件です。
香月と翡翠はついにその難事件に向き合うことになりますが、そのとき殺人鬼の魔の手は密かに翡翠へと迫っていてー。
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』を読んだ感想
本作の見事なところは、まず第一に、ミステリランキングを総なめにした本格派でありながら、非常にエンターテイメント性の高い物語として創られているというところです。
また、メインキャラクターである城塚翡翠の神秘性や可愛らしさといった個性も大きな魅力。
「霊媒」という、謎を解く「論理」とは真逆にあるもの、ある意味ミステリにとっては反則ともいえるものを根幹に据えたからこその、新鮮な面白さが味わえる希有な作品ともいえるでしょう。
オカルト×ミステリの新たな試み
タイトルに「霊媒」という言葉が使われているからには、本作はオカルト・超常現象をミステリに取り入れた作品だということです。
これまでもそのような作品がなかったわけではありません。
しかし、今までの作品はどうしてもオカルトの部分に重きが置かれた、不自然に斬新さのみが目立つものが多かったように思います。
本作がそれらの作品と比して飛び抜けて素晴らしいのは、オカルトの力に頼りすぎることなく、「霊的な力」と「論理的な思考」を、まったく破綻なく融合させていることです。
霊力の使われ方は実に自然で、むしろミステリの論理性を後押ししています。
また、逆にミステリの堅さを霊媒という要素で和らげ、より多くの読者に開かれたものにしているともいえるのではないでしょうか。
本作は非常に特殊でありながら、同時に大衆的でポップな魅力に溢れた作品です。
高いエンターテイメント性を持つ本格派
先に述べた感想にも関わることですが、本作は多くの人に開かれたものでありながら、本格的なミステリの要素もしっかりと備えています。
著者も本作について、「パッケージまで含めて一つの作品ともいえる」と言っていますが、表紙などの装丁や、タイトルの「霊媒探偵」という響きが醸し出すエンターテイメント性に惹かれて本作を手に取る人も多いことでしょう。
しかし、ただのエンタメに終わっていないのが本作の秀逸な点。
ミステリランキングの中でも、”本格ミステリ大賞”を受賞しているのがその証です。
それぞれの事件で用いられている手法は本格そのもので、至って論理的に推理が展開され、ほころびも見当たりません。
最大の謎に至っては、かなりのミステリ通であっても、少なからずポカンとし、深く納得せざるを得ないことでしょう。
多くの人が本気で驚き納得できる、本作はそういった希有な魅力を持った作品です。
城塚翡翠という魅力的なキャラクター
本作を読んで、「翡翠ファン」になった人はきっと数え切れないでしょう。
ファンクラブができあがっていたとしても驚きません。
それほどに彼女は魅力的です。
初めて香月が翡翠の部屋で彼女と対面したとき、人形のように完璧に整った美貌を持つ彼女は、その翠の眼差しとも相まって、ミステリアスで冷徹な雰囲気を纏っていました。
しかし、その後の彼女の印象は、あどけない少女のような柔らかなものへと変わっていき、関わるほどに純粋で可愛らしい印象が強まっていきます。
そして同時に、心に大きな苦しみや葛藤を抱えている女性であることもわかってきます。
ミステリアスな女性から可愛らしいけれど孤独な少女へ。
翡翠というキャラクターの個性は、物語世界の中で読者を魅了し続け、引き返すことのできない深部へと誘い込んでいきます。
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』はどんな人におすすめ?
本作は、プロや一般読書家の太鼓判がどーんと押された、読みやすさ・読み応えともに充分な傑作推理小説です。
以下に当てはまる方にはぜひとも読んでいただきたいと思います。
- ミステリ初心者&ミステリ愛好家
- 異色・特殊・新鮮なミステリが読みたい
- 物語とキャラクターにとにかく翻弄されたい
- 話題作に目がない
ミステリ好きな私が本書を手に取ったきっかけは、"このミステリーがすごい!"で1位を獲得しているなど、ミステリ界隈での評価がとてつもなく高かったからです。
どちらかというと本格的で練り込まれたミステリが好みなので、正直なところ、ライトノベルを彷彿とさせる表紙や、「霊媒」とついたタイトルを見ただけでは手に取らなかったかもしれません。
しかし、さすがミステリランキング5冠達成の実力。
ミステリファンも初心者も、すべての読者を魅了し、虜にすること間違いなしの傑作として、私の太鼓判も迷わず押し添えられます。
おわりに|構えず侮らず、最驚のミステリをご堪能あれ
本作は、推理小説の醍醐味である驚愕必死の結末を、十二分に満喫できる一冊です。
ただの変わり種の軽い読み物だなどと侮ってはいけません。
しかし、だからといって構える必要もありません。
表紙の翠色の瞳に吸い込まれるように読み始めれば、本格推理の楽しみを享受しながら、すいすいとページを捲っていくことができるでしょう。
城塚翡翠もこの物語も、まったくの人たらしです。
どうぞ今すぐ物語の扉を開き、翡翠と物語の魅力に翻弄されながら、最驚ミステリを最後の最後までご堪能ください。
そして読後ひとつだけ注意です。
この物語の真の魅力については、必ず読了した人とだけ話し合ってくださいね。
著:相沢沙呼
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