皆さんは女子会と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべますか?
- 同性しかないから、気楽♪
- 異性がいないから物足りない?
- 同性同士でしか話せないことをたくさん話したい!
- 正直、同性は苦手…群れるのも苦手…
- 必ず、何人かはマウントを取ってくるからイヤ!
人それぞれ、いろいろな気持ちがあると思います。
わたしの場合、女子会といえば「楽しそう」(でもちょっとドキドキ…?」という期待と不安が入り混じったイメージです。
その不安と期待はどこから来ているのか、今回、柚木麻子さんの「ナイルパーチ女子会」を読んで、少しわかったような気がしました。
とても自分自身と向き合うきっかけを与えてくれる小説です。
著:柚木 麻子
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ナイルパーチの女子会の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | ナイルパーチの女子会 |
著者 | 柚木麻子 |
出版社 | 文藝春秋 |
出版日 | 2015年3月28日 |
ジャンル | 恋愛 |
「ナイルパーチの女子会」は、柚木麻子さんの小説です。
柚木麻子さんは、この「ナイルパーチの女子会」で、第28回山本周五郎賞を受賞しています。
近年、「女子会」という言葉は、女子だけの飲み会を指す言葉として、メディアでよく使われる言葉のひとつ。
でも、なんとなく、その「女子会」という言葉、もやもやするものがありませんか?
「女子って何?女友達ってそんなに大事なの?」
いろいろな思いが錯綜するこの小説を紹介させていただきます。
ナイルパーチの女子会のあらすじ
主人公の一人は、志村栄利子、30歳。
商社に勤めるキャリアウーマン。都内在住、独身で親元に住んでいます。
女友達がいないことがコンプレックス。
もう一人の主人公の丸尾翔子も同じく30歳。
既婚子なしの専業主婦です。
栄利子との共通点は、友達がいないこと。
でも、どこか肩の力が抜けていて、自然体な翔子。
栄利子は、そんな翔子の書くブログ「おひょうのダメ奥さん日記」の大ファンで2年間欠かさず読み、
おひょうさんとはいい友達になれる
と確信しています。
ちょっと思い込みの激しい栄利子ですが、
翔子のブログの写真から、翔子の家が自分の住むマンションの近所であると推測します。
とうとう、翔子の行きつけのカフェを探し当てる栄利子。
翔子を見つけて、ちょっと強引に出会いを果たします。
一方、地方出身で、現在東京に住んでいても軽くアウェイを感じている翔子。
栄利子の都内で生まれ育ったという点に強く惹かれます。
早速、二人は夜のファミレスで会う約束をして、お互い同性が苦手であるとカミングアウトしあい、意気投合しますが…
距離感が掴めない栄利子
ブログを熱心に読んで、翔子と出会いを果たしたと栄利子。
熱心さが際立っています。
それが、少しづつ、さらに、それがエスカレートしていきます。
翔子がある理由で帰省します。
帰省先に携帯を忘れた翔子は、4日間、ブログの更新ができませんでした。
栄利子は、その状況に動揺し、4日間になんと10通のメールを翔子に送ります。
ブログの写真から、ついに翔子の住んでいるマンションを探し当てた栄利子。
玄関先で栄梨子に気づき、驚く翔子。
そんな翔子に栄利子は「連絡くらいくれてもいいんじゃないかな」とつめよります。
そこから、翔子は栄利子をストーカーだと感じ始めます。
翔子の抱える問題
さて、栄利子だけではなく、翔子も翔子で問題を抱えています。
翔子の家は父子家庭。
高校生の頃、実母は男と家を出て行ってしまいます。
一見、無害に見える父。
実は、得たいのしれない威圧感を持って、周囲にふるまう傾向があります。
横柄な態度で、翔子の母の家事にも口出ししていました。
翔子の母と離婚後、麗美さんという女性と再婚。
その彼女もそれが原因で家を出て行ってしまいます。
麗美さんの出て行った後の家の冷蔵庫の中の物はほとんど腐りかけ、生ごみは土間に溢れていました。
翔子は父を嫌悪と恐怖を感じていますが、
何より、ずぼらさ、面倒くさがりである点が、自分と父の最大の共通点であることにも気が付いています。
父の面倒を見たくない翔子。
麗美さんに帰ってきてほしいと切実に願いますが、それは叶いません。
それだけでなく、父は脳梗塞となり、介護が必要な状況になってしまいます。
一方で、翔子は、夫がいるのに、カフェの店員と水族館でデートしキスをしているところを、栄利子に写真に撮られてしまいます。
呆然とする翔子に、「誰にも、誰にもいわないでおいてあげる。ただし条件があるの」と栄利子は言います。
「私と親友になって。」
「ナイルパーチの女子会」より引用
翔子は、栄利子に言われるがままに、箱根旅行に行ったり、自転車の二人乗りをさせられたり…
友達さえいれば、他は何もいらない真織
さて、栄利子と翔子の他に、この小説には、もう一人、強烈な登場人物がいます。
それが、栄利子の商社の派遣社員、23歳のぽっちゃり目の高杉真織。
女友達のいない栄利子は、いつも同性に囲まれている真織が恨めしく…
ある朝、栄利子が徹夜して会社に泊まった翌朝、早朝に出勤してきた真織と言葉を交わします。
最初は丁寧に礼儀正しく徹夜の栄利子を労わっている真織。
しかし、そこで、栄利子がまたまた距離感を掴みそこないます。
真織の結婚相手杉下の浮気をほのめかし…
最初はスルーする真織。
しかし、エスカレートした栄利子が真織の手首を掴んだタイミングで真織が逆上。
態度が一変し、本性を表します。
「てめえ、何がしたいんだよ」
「ナイルパーチの女子会」より引用
真織の言葉遣いがいきなり変わります。
そして、
「あたしの願いは、お金の苦労をせずに子供を産んで育て、独身時代と変わらずに女友達と付き合い続けるってこと。女友達さえいれば正直なんもいらない。男なんかにははなっから希望なんて持ってねえよ。身体が丈夫でこちらの邪魔さえしなければそれで十分」
「ナイルパーチの女子会」より引用
と言い切るのです。
ナイルパーチの女子会を読んだ感想
「ナイルパーチの女子会」は非常に読み応えのある小説でした。
栄利子の思い込みや距離感の異常さ、人としての痛さ。
読んでいるわたしまで心がひりひり…
翔子は、父との深い葛藤があります。
向き合いたくないのに、向き合わざる得なくなる翔子。
そんな翔子の最後の成長には心揺さぶられました。
また、真織には、一見まっとうだけど、常軌を逸した女友達への執着があります。
共感できるような、できないような…
なんとも言えない、緊迫感を味わい、ハラハラドキドキしました。
栄利子も翔子も羽織も、3人それぞれのキャラが見事かつリアルに描かれているので、夢中になって読めます。
この小説は、登場人物の思索やセリフが多いのが特徴ですが、
共感と同時に、自分のことを言われているような、なんともいえない胸の痛さも感じる小説でした。
距離感は誰もが悩んでいる
物語の前半は、栄利子の行動の描写を読むたびに、びっくりしたり、気味悪さを感じたり、不思議に感じたりしたのですが…
読み進めるにつれて、自分が人との距離感を取るのが下手だった少女時代を思い出すようになりました。
栄利子は人と自然な付き合い方、コミュニケーションの取り方が徹底的にわかりません。
人間関係もひたすら型を作ってさえいけば、関係を築けると信じています。
型というのは、栄利子の場合、
- 「週に3回会う」
- 「一緒に旅行する」
- 「一日に5回はメールをやりとする」
など、まるで人との関わりをノルマのようにこなすことです。
わたしも、経験の浅かった少女時代は、栄利子と同じように硬直的に思考しがちでした。恥ずかしいです。
翔子の変化に心打たれる
翔子は翔子で別の問題を抱えています。
翔子の根底にあるのは「面倒くささ」
何事も面倒くさい、かったるいと感じています。
ですが、物語の後半、「面倒くささ」から徹底的に身のまわりのことをしない父が脳梗塞で要介護状態に。
翔子はその父を通して、自分自身と向き合うようになります。
病室で翔子が父に伝えた言葉に心動かされました。
面倒くさいっていうのは、結局自分が一番かわいくて、自分以外の誰かのために一分だって時間を割きたくないってことなんだよ」
「ナイルパーチの女子会」より引用
親との対話
皆さんは、親と腹を割って話したことがありますか?
この小説では、後半部で栄梨子も翔子も親と初めて対話するシーンがあります。
翔子は、結果として、父に対し、
自分は父親とは心が通わない
と直視することになります。
だからこそ、巻き込まれてはならないのだ。挑発には乗らない。翔子は勝ちでも負けでもない、中立の道の在り処を前進に神経を行き渡らせて見極めようとする。それが一番面倒だと分かっていても。もう父の様に面倒を避ける生き方は諦めたのだ。
「ナイルパーチの女子会」より引用
勝ちでも負けでもない、中立の道の在り処。
翔子はただの面倒くさがりではなくなったと感じる最大の場面です。
翔子は、必死に誠実であろうとし、同時に、したたかな道を探ろうとします。
面倒くさがらずに他者と向き合おうこととは何か、
人生において真摯であることは何か
とても深く考えさせられたシーンでした。
ナイルパーチの女子会はどんな人におすすめ?
- 人との距離の取り方がわからない
- つい色々なことが面倒くさくて受け身になってしまう
- 読み応えのある小説が読みたい
本文でも触れましたが、誰でも人との距離の取り方は、誰もが一度や二度、悩んだことがあるのではないでしょうか。
この小説を読むと、栄利子の極端な行動、その奥にある心理、精神状態を知ることになります。
結果、自分の無意識のこだわり、人間関係に真に大事なことを学ぶことができます。
おわりに
とっても読み応えのある小説です。
さすが山本周五郎賞、高校生直木賞をダブル受賞した小説なだけあります!
物語の前半を読んでいるときは、極端な栄利子の描写が多いため、これはサイコドラマ風の小説なのか?と感じました。
ですが、後半に進むにつれ、様々な出来事が栄利子と翔子に降りかかり…
深く考えさせられるシーンが非常に多くなってきます。
やはり、一番の読みどころは、栄利子と翔子がどのように変化し、成長していくかではないでしょうか。
あまり書いてしまうとネタバレになるので、控えますが、なんと、成長するのは、翔子だけではありません。
そして、それ以前に、ナイルパーチという魚ってどういう魚なの?と思う皆さん。
この魚が付箋となって、この物語の人間ドラマをとっても、盛り上げてくれています。
ぜひこの本を手に取ってみてください。
著:柚木 麻子
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