僕は捨て子だ。子どもはみんなそういうことを言いたがるものらしいけど、僕の場合は本当にそうだから深刻なのだ。
こんな文章で始まる『卵の緒』は、小学生の男の子とその母親の絆を描いた心温まる物語。
何やら深刻な話なのか、と思いきや、快活な母親と思いやりのある少年の穏やかな毎日が、短編の中にぎゅっと凝縮されています。
自分の家族のことをもっと大切にしたくなる、誕生日の贈り物のような素敵な小説です。
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『卵の緒』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 卵の緒 |
著者 | 瀬尾まいこ |
出版社 | マガジンハウス |
出版日 | 2002年11月1日 |
ジャンル | 家族小説 |
著者の瀬尾まいこさんは、『卵の緒』で、2001年坊っちゃん文学賞を受賞し、作家デビューされました。
あたたかな物語が多く、ほっと一息つきたいときに無性に読みたくなる作品ばかり。
今作も、心があたたかくなる親子の絆の物語。
たとえ目に見えなくても、家族の絆がきっといつもここにあると信じたくなる作品です。
『卵の緒』のあらすじ
小学4年生の育生は、自分が捨て子であると疑っています。
父親の存在を知らないし、周りの反応がおかしいから。
あるとき、どの家にもへその緒があると知って、母親にどこにあるのか尋ねます。
親子の証し
どこかとぼけていて楽天的な母親が取り出したものは、なんと、卵の殻。
「母さん、育生は卵で産んだの。だから、へその緒じゃなくて、卵の殻を置いているの」
けろりとした顔でそう言うものだから、信じそうになってしまいます。
親子の証しはないのかと聞く育生に、彼女は、じゃあ見せてあげると、育生を思いっきり抱きしめるのでした。
登校拒否の友だち
学級代表で、勉強も運動もできる池内君が、学校を休むように。
そんなに仲がいいというわけではない育生ですが、とても心配していました。
家に行くと、元気そうでしたが学校へ行く気はないようで……。
ある朝、母親が作ったにんじんブレッドを食べて、あまりの美味しさにこれを、池内君にも食べさせたいと思いつきます。
育生も学校を休んで、みんなで信じられないほどのごちそうを、平らげたのでした。
新しい家族
母親には、通称朝ちゃん、という恋人がいます。
感じがよくて、とても食べるのが上手な男の人。
育生は朝ちゃんを気に入り、朝ちゃんも育生を気に入ります。
そして、結婚して育生に新しい家族が。
母親は、面白い話をしてあげる、と育生との出会いの話をはじめ……。
『卵の緒』を読んだ感想
親子の証しとは、なんでしょうか。
へその緒があるかどうか? 血が繋がっているかどうか?
答えはこの物語の中に。
愛情深い母親
育生と母親に血の繋がりはありません。
親子の証しを聞かれたとき、母親は力いっぱい育生を抱きしめます。
「ね。今見えたでしょう。証し」
母さんは僕を解放すると、嬉しそうに訊いた。
初めのうちは不満だった育生も、母親は自分のことがかなり好きだと理解するように。
この場面がとても印象的で、共に過ごした時間や相手に対する愛情の深さが、証しとなっているのだと感じました。
育生への愛を行動で示す母親が、素敵で心が洗われるような瞬間です。
好きな人を見分ける方法
育生と母親はふたりで食卓を囲みます。
- 蛸と大根の煮物
- ジューシーなハンバーグ
- とろけそうに美味しいにんじんブレッド
- 丁寧に作った甘いココア
食べることが大好きな母親は、自分が好きな人が誰かを見分ける方法を教えてくれると言い、
「すごーくおいしいものを食べた時に、人間は二つのことが頭に浮かぶようにできているの。一つは、ああ、なんておいしいの。生きててよかった。もう一つは、ああ、なんておいしいの。あの人にも食べさせたい。で、ここで食べさせたいと思うあの人こそ、今自分が一番好きな人なのよ」
美味しそうな食事、特に育生も絶賛していたにんじんブレッドが本当に魅力的です。
そして、母親が言ったこのセリフ、なるほど、と心の中で深く頷きました。
自分の幸せを分けてあげたいと思える人、食事は一番わかりやすくて相手も喜ぶ手段。
育生は、登校拒否をしている池内君に食べさせたいと思います。
朝ちゃんも誘って、会社、学校どちらもサボり、みんなでごちそうを食べる。
一日くらい、好きな人とこんな時間を過ごすのも悪くありません。
『卵の緒』はどんな人におすすめ?
文庫本で約80ページ。
短いけれど、愛に満ちた『卵の緒』を読むなら、
- 心があたたかくなる物語を読みたい
- 家族に感謝を伝えたいと思っている
- 読書が苦手だけれど、何か本を読んでみたい
そんな方におすすめです。
短くて、必ずあたたかな気持ちに包まれる今作品は、読書を好きになるきっかけとなる本だと思います。
手紙の代わりとして、プレゼントに添えて渡したくなる物語。
きっと、人にも薦めたくなること間違いなしです。
おわりに
血の繋がりはない、ですがどこよりも仲がよくて、愛に溢れた親子の物語である『卵の緒』。
真相は、優しくて、少しせつない。
この先、どんなことがあっても、この家族はいつでも楽しく食事をするのだと思います。
そう信じられるほどの物語の力を感じました。
それからもうひとつ、今作品には『7’s blood』というふたりで暮らす姉弟の物語も収録されています。
表題作『卵の緒』と違い、こちらは血の繋がりによる絆を描いたもの。
ふたつを読むことで、愛情とは、家族とは何かが確かにわかる仕組みとなっています。
ぜひ一度、15分だけでいいので、時間をつくって読んでみてください。
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